No.16
とある空軍基地内の施設にある会議室には、多くの報道関係者が集まっていた。ヘンリー・トンプソン大佐が入ってきて会見の席に着くと、カメラのフラッシュが一斉に瞬いた。
「それでは、トンプソン大佐」
記者の一人が質問を投げかけた。「自立制御式の最新鋭戦闘機の開発は、事実ということですか?」
大佐は今一度、姿勢を正してから口を開いた。
「我が合衆国空軍では、最先端軍事技術に関する研究をおこなっていることは当然の事実であり、それは戦闘機においても、例外はありません。そして、私がそういった計画の一部で、統括の立場にあることも確かです」
「では、生きた人の脳を機械に移植し、戦闘機の制御装置として利用するという、非人道的とも言える研究をおこなっているということでしょうか?」
「それは事実無根です」大佐は落ち着いた表情で、きっぱりと言った。
「しかし、それに関する機密資料がリークされたのは、ご存じでしょう?」
「こちらとしても、お伺いいたしますが、その資料というのは本物なのでしょうか?」
「確かに空軍関係者から、告発されたものです」
「ですが、匿名ではありませんか?」
「そう言われましても、告発者の個人情報は、保護されるべきと思いますよ」
「なるほど……」
大佐は小さく咳払いをし、少し間をおいて続けた。「私も、メディアが公表している、その資料とやらを事前に少し拝見しました。しかしながら、内容はとうてい荒唐無稽です。私の知らない誰かが、ただの願望か、あるいは単なる空想を、報告書のかたちで書いただけのものかもしれない。むしろ、そう捉えるのが普通でしょう」
「書類の統括責任者として、大佐の名前が記載されていますが、それはどう説明されるおつもりですか?」
「説明もなにも、私は大佐という立場であり、空軍内では名前を知られているわけです。勝手に引用された可能性は否定できませんし、私が知る由もありません。そもそも知っていたら、こんなバカげた計画を、承認などしません」
大佐は再び一呼吸おいて、会場を見渡した。
「こうしたことをお話するのは、不本意かもしれませんが……私ほどの立場となると、そのポストを巡る激しい競争があるのも事実です。そのくらいの想像は、皆さんでも分かりましょう。
私を陥れるために、この騒ぎを誰かがでっち上げたということも、否定はできません。それにメディアでも、気に入らない相手を攻撃するためなら、事実に脚色を加えることいとわないでしょうに」
「それとこれは、別問題です」
「これは失礼しました。ただ、いずれにせよ、ここまで問題化してしまっては、近々、私は何らかの責任をとらねばならない状況は避けられませんね。私が言えるのは、このくらいのものです」
そこでまた、カメラのフラッシュが数回光ったが、続けて質問する記者はいなかった。
「よろしいですか?」
大佐が席を立とうとすると、記者の一人が手を上げて訊いた。
「では、最後に一つだけ。お答えいただけるか分かりませんが。実態はともかくとして、その、大佐の関わっていらっしゃるという戦闘機開発計画の現状は、いかがですか?」
「それについては、残念なお知らせしかありません。唯一の実験機が、つい先日、試験飛行中の事故により喪失しました。原因は調査中であり、計画も当面のあいだ中止される予定です。再開の目途も立っていない、とだけお伝えしておきます。もちろん、機密事項につき、詳細は述べられませんがね」
この会見が終わって数日ののち、ヘンリー・トンプソン大佐は空軍職を引責辞任した。それとともに、メディアの熱も醒め、騒動は沈静化していった。
メディアは常に新しいゴシップネタを求めて騒いでいる。この一件が世間から忘れられてしまうのも、そう遠くはないように思われた。
ただ、マシュー・ミラーと、リアムの同僚だったジム・アダムスにとっては違った。大佐の会見による幕引きにも納得していなかった。
だがもはや、なすすべはなかった。リアム・ミラーが戻ってくることはないのだ。




