No.14
数日後には、三回目の飛行試験が行われる予定だった。リアムは、考えていた計画を、そろそろ実行するときだと思った。真夜中、彼は再びパソコンへ意識を向けて、メールを作成した。今度はスターファイター計画に関するファイルを添付して、同僚ジムと弟マシューのもとへ送信した。
それから、何食わぬようすで過ごし、試験飛行に取り組むことになった。
監視のための戦闘機が二機、リアムの機体の後方を飛んでいたが、リアムは構わずに少しずつ予定航路から外れていった。戦闘機のパイロットは無線で呼び掛けたが、リアムは無視し続けた。
「こちらセプター1。試験対象は予定航路を逸脱しつつあり」
異変に気が付いたパイロットが、コントロール室へ報告した。
「なんだと?! 応答は?」
「セプター1より、応答ありません」「セプター2、同じく応答なし」
「分かった」
大佐は振り返って、オペレーターの一人に言った。
「すぐに手動制御に切り替えろ」
「はい」
しかし、作業は手間取った。
「なにをぐずぐずしているんだ」
「それが、制御切替えが拒否されます」
「どうなっているんだ」
「私にも分かりません!」
大佐はふたたび、追尾中のパイロットに指示を出した。
「セプター1、セプター2。試験対象の追尾を続けろ」
「セプター1、了解」「セプター2、了解」
大佐はそれから、コントロール室のオペレーターの方を向いた。
「予想される飛行経路は?」
「まだ解析中です。ただ、おそらくは……市街地方面へ向かっているようにも思えます」
「リアムはいったい、なにを考えているんだ」
大佐は突然の異常事態に戸惑っていた。
「こりゃ、脱走だな」教授がぼそりと言った。
「だが、逃げ出してどうするというんだ? 燃料が切れたら、そこで終わりだ」
「さあね」教授は肩をすくめた。「あるいは、気がおかしくなったとも考えられる」
冗談めかして言ったが、額に汗を浮かべ、内心では気が気でないようすだった。
大佐はまたオペレーターのほうへ向いた。
「通信の状況は?」
「少なくとも、こちらからの音声は、聞こえてるはずです」
大佐はうなずいてマイクに向かった。
「リアム! 私だ。ヘンリー・トンプソン大佐だ。君は予定航路を外れている。テストは中止する。すぐに戻りなさい」
しかし、すぐに返事はなかった。
「リアム・ミラー君! 聞こえているのか?」
「トンプソン大佐……私は、読みましたよ」
「なんの話だね?」
「スターファイター計画に関する文章です」
その一言に、大佐は面食らった。
「なんだと……何と言った?」
「スターファイター計画は、大佐の統括する極秘計画ではありませんか?」
「なぜ、それを知っているのだ⁉」
「繋がっていたパソコンにあったファイルを、見たからです」
「なんてこった!」大佐は思わず悪態ついた。
「大佐、いったい、なにがどうなっているのだね?」
先ほどから、すぐ後ろでやり取りを聞いていた教授も不安そうな顔だった。
「つまり、リアム・ミラーは、計画の全貌を把握してしまったということだ」
「それは……かなり、不味い事態ではなかろうか」
「もう、とっくに面倒なことになっている」
大佐は少し考えてから、追尾中の戦闘機のパイロットへ向けて無線で言った。
「セプター1とセプター2に告ぐ」すでにその表情は、歴戦の指揮官のものへ変わっていた。「試験対象をターゲットに指定する。撃墜の用意をしろ」
「大佐、本気か!?」教授は途端に反論した。「あれは、機体は私の研究の集大成だぞ! 撃墜なんてされては、たまったものではない。私の研究をぶっ壊す気か?」
「教授、もしも機体が、市街地や民間の空港に降りたりでもすれば、どうなるかくらい予想がつくのではないか?」
「そんなことを言われてもだね、みすみすと、研究結果を目の前で破壊されてたまるものか!」
「だがこのままでは、これから先、研究ができなくなるどころか、すべての職から追放される可能性も高いぞ。選択肢はない」
その言葉に、教授は言い返せなかった。そっぽを向き、肩を落として首を振るばかりだった。
「セプター1、セプター2、ターゲットを撃墜。必ずだ」
「セプター1、了解」「セプター2、了解」
それから教授に向かって言った。「なにがあっても、部外者に知られるわけにはいかない」
だが、リアムはそもそも敏腕の戦闘機パイロットであったのだ。初回の攻撃をかわすことなど、造作のないことだった。
セプター1、セプター2のパイロットも、まさか空中格闘戦という事態に発展するとはは想定外のことだった。兵装は各機、ミサイル二基と機関砲のみだった。
「セプター1、ミサイル攻撃を避けられた」
「逃がすな! 何としてでも撃墜、あるいは飛行不能な状態に追い込め!」
「了解」
巧みに攻撃をかわしていたが、それでもやはり、武装がないだけリアムが不利だった。
そして、一対二の戦いは、あっけない最期を迎えた。リアムのとった高機動に、〈F‐117〉の機体は耐えられなかったのだ。実験のために改修さているとはいっても、しょせんは旧式の機体だった。結果、尾翼の一部が裂け、飛行不能に陥ると地上へ落ちていった。
追い続けていた二機は、しばらく上空を旋回していたが、ターゲットが地上に落ちて黒煙を上げているのを確かめると、大佐へ報告した。
「こちらセプター1、ターゲットは墜落」
「セプター2より、ターゲットは墜落した」
「よろしい。君たちは帰還してくれ」
「了解」
大佐が振り返って見ると、サンチェス教授はうつむき加減に座り込み、目頭を押さえていた。
だが、感傷的になってなどいられなかった。次の指示を要員に出した。
「至急、回収部隊を向かわせる。私も同乗する」
「了解です」




