No.12
リアムの弟であるマシュー・ミラーは、長期の休暇を言い渡され、時間を無為に過ごしていた。
両親が暮らす家に戻り、子供時代を過ごした自分の部屋から、住宅街の景色をぼんやりと眺めていた。
両親が飼っている猫のルーシーが、小さい鳴き声を上げて足元に寄ってきた。
「よしよし」マシューは優しく抱え上げた。「どうした? おやつが欲しいのかい?」
そこで携帯電話の着信音が鳴った。ルーシーは驚いてマシューの手から飛び降りると、そのまま部屋を出て行ってしまった。
「やれやれ」
マシューは苦笑しながら携帯電話を取り出した。メールの着信だった。件名は無く、差出人も不明だった。
メールを開いてみると、
”私は人体実験に使われている。リアム”
というだけの文章があった。
マシューはとっさに、怪訝な表情を浮かべた。あまりにも、質の悪すぎるいたずらだと思った。それから、メールを削除しようとした。だが、なにか引っかかるものを感じた。そのメールアドレスが、どことなく、空軍施設内で使われるものと似ているようなきがしたのだ。
まさか、ほんとうに兄からのメッセージ? マシュー自身、突飛もないことだと思いつつも、そんな考えが頭に浮かんだ。
だがどうして? だって兄は、病院のベッドの上で、目の前で息を引き取ったではないか! あるいは、内容がもっと違っていたら、死者のメッセージか? というようなオカルトじみた体験と、片付けることもできただろう。だが、マシューの頭中に、様々な思いが浮かんでは消えた。
それから少し考えて、リアムの同僚で個人的にも付き合いの多い、ジム・アダムズに連絡を取ることにした。
そして後日、勤める基地に近いファミレスで、落ち合うことになった。
「マシュー、調子はどうだい?」
「うん。まあ、だいぶ……気持ちは落ち着いてきてたよ」
「そうか。それで、相談ってなんだ? 俺ができることなら、なんなりと手伝うよ」
それからマシューは自身の携帯電話の画面を見せた。
「ジム、このメールをどう思います?」
「どれどれ、」そう言って受け取ると、文面をまじまじと見つめた。「なんだ、こりゃ……いたずらか?」
「そう思ったんだけど、発信ものとのアドレス」
「ん? うむ、これはどこか軍の基地で使っているようなアドレスにも思えるな」
「なんか、引っかかるんだ。もしかするとリアムの死と何か関係があるかもしれないと思うんだ。ほんとなんとなくだけど……」
「まあ、こうしたことにちょいと詳しい知り合いがいるから、調べてもらえるか頼んでみよう」
「ありがとう。ほんとに、なんでもないといいんだけど」
「いいってことよ。いずれにしても、質の悪いイタズラなら犯人を見つけないと、気が済まないね」
そうして数日が過ぎた。いよいよ、休暇も終わりを迎えようとしていた日だった。
マシューのもとに、ジム・アダムスから電話が入った。
「例のメールについてなんだが」
「なにか、わかりましたか?」
「それが厄介なことに、メールの発信元はどうやら、グルーム・レイク空軍基地らしいんだよ」
「グルーム・レイク空軍基地……それって」
「いわゆる、エリア51ってやつだな」
マシューにとって、謎は深まるばかりだった。
「悪ふざけが好きな知人でもいるのかい?」
「いいや、そんなはずはないよ。それにエリア51になんて、知り合いもいないよ」
「まあ、いたところで、言えるはずもないだろうけどね」
束の間、電話口には沈黙が漂った。
「その、なにか、不自然なことはなかったのかい? リアムが亡くなった時に」
「いいや。」
「そうか……」
「しいて言えば、検死があったくらい」
「検死だって? 事故だったのに」
「でも、トンプソン大佐が規則上どうのこうと言ってました」
「ふむ……なんか不自然だな」
「でもですよ。もしリアムが生きているというのならば、葬儀の時の遺体は偽物だったってことになるじゃないですか。それに、あのとき死んだのに、僕らが知らないあいだに蘇生させられていた、ってことになりますよ」
「だがな、この合衆国だって、かつて……まあ主導はCIAだが、MKウルトラと呼ばれるヤバい実験をしていたこともある」
「リアムが生きているなら、なんとかして助けないと」
「待ってくれ。だからといって、エリア51に正面から乗り込むわけにはいかないし、そもそも確証がないぞ。君の考えていることは、今はまだ、ただの空想と言われるレベルだ」
「でも、」
「まあまあ」ジムはなだめるように言った。「ほんとうにタチの悪い、いたずらだってこともある。それにマシューも、じきに基地へ戻るんだろ?」
「はい」
「じゃあ、合い間の時間に協力しながら、少しづつ調べてみようじゃないか」




