No.10
とにもかくにも、機体の主要な試験も含めて、全てが延期されることになった。
スターファイター計画の専属エンジニア達は、日々の機体メンテナンスの他にやることが無くなって、やや手持ち無沙汰なようすだった。大佐は他の仕事も忙しく、施設にとどまるわけには行かなったが。教授は四六時中、自身の書類の束に目を通していた。ことに、記憶処理に関するものだった。
あくる日、リアムは教授に尋ねた。
「教授、一つよろしいでしょうか?」
「なんだ?」
「周りの様子を見たいのです。可能ですか? 自分がどんな場所にいるか知りたいです」
「それはだな、ええと機密事項で、具体的な場所は言えない。軍の基地であることは当然だが」
「そうではありません。視覚的な話です。ここは真っ暗で、何も見えません」
「ああ、そういうことか……ちょっと待ってくれ」
教授は、ため息をつくとマイクをいったんオフにした。それから部屋にある電話機に手を伸ばすと、大佐へ連絡を取った。
そうして教授は、リアムから受けた質問を伝えた。
「どうする大佐? リアム君の要望らしいが……」
「うむ」
「カメラは数カ所、機体にあるが、接続を入れるかい?」
機体下部と上部、後方にもいくつか、各所にはカメラが取り付けられていた。とりわけ機首の下部にある全方向カメラならオペレーターの介入も容易だった。
「そうだな。だが、常にオペレーター側からオンオフができるのが望ましい」
「それじゃあ、機首にある全方向カメラだな」
「分かった。後は頼むよ」
「はい、了解。大佐殿」
教授は受話器を置くと、先ほどから黙ってやり取りをうかがっていた、当直オペレーターに向かって声をかけた。
「カメラの接続はどうだね?」
「ご指示があればいつでも」
再び、教授はリアムに向かって呼び掛けた。
「では、リアム君。機体のカメラの接続をオンにする」
「はい」
オペレーターが操作をしたが、しばらく反応はなかった。
「どうなってる?」教授はオペレーターに小声で訊いた。
「分かりません。モニター上では問題ありません」
教授はリアムに「どうだね。何か見えるかね?」と聞いた。
「いいえ。なにも変わりません」リアムは淡々とした口調で答えた。
「すまないがね、リアム君」教授はため息を漏らした。「こちらの作業は、手間取っている。景色を眺めるのは待ってくれないかな?」
「はい、分かりました」
リアムは、これまでのやり取りから、外部で何かしらの作業が行われいるだろう、ということは見当をつけていた。だが、まったくもって、自身の置かれている状態がどうなっているのかは、分からないままだった。
今は、少しは気分も落ち着いてきていた。だが果たして、自分の意識が、事故のはずみで機械の中に入ってしまうなどという、SFじみたことが起きるのか、訝しい思いがぬぐえなかった。
だが、現に、こうして自分という意識があるのは確かであった。




