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モナ・ペトロネアの苦悩  作者: 在ル在リ
ミラー商会
3/70

03 全員優秀な中

 お昼になり、営業の二人は外出してしまったので六人で昼食となった。

 人数が少ない時は、交代で外へ食べに行くらしい。昼食代は商会が負担してくれるそうでとても有り難い。

 今回は近くのカフェバーにランチ配達を頼んでいるそうだ。


 玄関ホールの呼び出し音が鳴り、サイモンが向かったのでモナも後をついて行く。

 待っていた人物はブロンドのサラサラ髪の若い男性で、グレーのシャツに短い黒ネクタイをし、黒のサロンを腰に巻いている。カフェバーの制服のようだ。


「毎度どうも! ヴィエーナのランチ配達でーす」

「やあ、リアム。いくらかな?」

「四千八百ルリだよ。そっちの子は新入りさん?」

「そう、今日から来てくれてるんだよね」


 リアムと呼ばれた男性は、明るい笑顔でモナに声をかける。


「ヴィエーナって店で働いてるリアム・ケリーだよ。よろしくね!」


 リアムにランチボックスを六つ手渡された。中身は全部同じらしい。倒れないように両手で抱えながら頭を上げた。至近距離で見たリアムはとても背が高く、身長が平均以下のモナは見上げなければならなかった。


「モナ・ペトロネアです。よろしくお願いします」

「お、真面目そうだなあ! ここから十分くらいの所にあるから、是非店にも食べに来てね!」

「はい、是非」


 リアムは接客に慣れているようで、気さくでフレンドリーな印象だった。



 受け取ったランチボックスを休憩室へ運んだ。入り口のすぐ横にカフェスペースとカウンター席がある他、四人がけのテーブル席が幾つか並び、奥にソファー席が用意されていて、好きな所で休憩出来るようになっている。今日は四人席テーブルを二つ並べて全員そこに着席していた。


 モナはランチボックスを全員に配って、空いている端の席に座った。

 蓋を開けると食欲をそそる香辛料の香りが鼻をくすぐる。色んな種類の料理が入っていて彩りの良さでも食欲をそそった。一つ八百ルリだからこの辺ではとても安価だと思う。


 隣にはグレンが座っていて目が合った。


「よろしく」

「あ、よろしくお願いします」

「同期なんだから丁寧に言わなくていいよ、モナ」


 グレンは気さくにそう言って笑顔を見せるのでモナは小さくうなずいた。

 ミラー会長のことを臭いと堂々と発言していた怖いもの知らずだと思ったが、案外優しい表情だ。

 グレンは服装がお洒落で、カジュアルな春っぽい装いだ。ミルクティーベージュの短い髪はふんわり下ろしていて、琥珀色の瞳に幅広い平行二重。横から見るとやや鷲鼻だなと思いながら見ていると――。


「ふっ、そんなに見ないでよ」

「ごめん。ちょっと観察癖が……」


 あまりにもジロジロ見すぎてしまったらしい。グレンははにかんで自分の鼻を触っている。笑顔が可愛くて癒し系だ。


「横から見ると鷲鼻ってわかるでしょ? 俺、嫌いなんだよねこれ」


 さほど目立たない鷲鼻をコンプレックスだと思っているらしい。自分の高くない鼻と替えて欲しいくらい(うらや)ましいけれど。


「全然気にならないよ? 鼻が高くない私からすれば、鼻筋が通ってて羨ましいくらい……」

「モナもそれこそ気にならないけど。ま、人のコンプレックスってそういうもんなんだろうね」


 そうかもしれない。自分のソバカスだって化粧で隠しているが、人から見たらなんてことないものなのだろう。


 フォークでシーフードのトマト煮を食べていると、グレンが魚介類だけ避けているのが見えた。


「魚介類、嫌いなの?」

「あらら~? 魚介が嫌いなお子様は誰~?」


 モナが何気なく聞くと、グレンの横から口を挟んできたのは、赤茶色でクリクリくせ毛のホーク・ハワードだ。開発室の技術者で三白眼の大きな目と少し丸っこい鼻。若干ぽっちゃりした体型だ。


「生臭いのが苦手なんですよね……」

「トマト煮だから全然臭くねえって! めっちゃ旨いよここの」

「ふうん……ホークさんは嫌いなものないんですかー?」


 グレンがホークのランチボックスを覗くと、ホークは笑みを浮かべながらサッとボックスを手で覆い隠す。


「ホークはキノコが食べれませんよね。いっぱい残して」


 ホークの前に座る、経理のマルセル・クルーガが口を挟む。マルセルの前に置かれているランチボックスには何も入っておらずフォークだけ置かれていた。配膳して十分も経ってないと思うがもう完食したらしい。めちゃくちゃ早食いだ。


「マルセル、余計なこと言うなっつーの!」


 ホークは自分のランチボックスを隠すように手で覆っているが、キノコがいっぱい残っているのがチラっと見えた。自分のことを棚に上げてグレンの偏食をからかうなんて、矛盾しているような間抜けなような。そんなところが憎めないのか、ミラー会長もマルセルもクスクスと笑っている。


「良かった、ホークさんもお子様で」


 ニヤリと笑うグレンにホークは肘で脇腹を小突いた。何となく二人共ノリが似ている。グレンは初日に会った上司になる人にもざっくばらんに話せる人のようだ。


「残してると奥さんに怒られるぞ、ホーク」

「会長、告げ口すんの止めてくださいよ!?」


 ミラー会長はニヤリと笑ってホークを見ている。


「時々、俺の魔法通信器に連絡がきて色々聞かれるんだから仕方ないだろ。君の帰りが遅いと俺のところにかかってくるんだから、毎日ちゃんと定時に帰れよ」

「それっ、嫁が会長と喋りたいだけじゃ……っ!」


 ホークは三十歳で三つ年下の奥様がいるらしく、とても仲の良い夫婦らしい。ここの従業員は皆親しそうな印象を受けた。



「ところで今回の採用って二人だけなんですね。受けた人すごく沢山いたと思うんですけど」


 モナも気になっていたことをグレンが尋ねた。


「初めての求人で応募が百以上あったからねぇ。仕方なく落とすための試験に切り替えたんだよ」


 サイモンは少し残念そうな顔をしている。他にも優秀な人がいたのだろうか。

 ミラー会長はグレンの方に顔を向ける。


「優秀なのが欲しかったからな」


 モナもグレンもミラー会長のその言葉が胸に刺さった。二人は優秀だと言われたのも同義なのである。


 ミラー会長が目を細めて口角を上げると途端に甘い笑顔になった。

 彼のステータスを下げている『ボサボサ頭』で『大蒜臭い』デバフは一瞬にしてモナの頭から消え去り、何倍にも美化されて見えた。


 ミラー会長に見とれるモナの様子をグレンが一瞥していると、サイモンは話を続ける。


「応募者の大半が会長目当てだったみたいでねぇ。七割が女性だったよ」

「女性は確かに多いなと思いましたけど、すごいですね」


 モナもグレンも目を丸くする。

 そんなにいたのかと思ったが、モナもその内の一人なのであった。


 入社試験の時に聞いてしまった言葉を思い出す。

『会長は女性を部下に選ばない』

 結果的に自分は採用されたがあの話は何だったのだろう。人事はサイモンだろうか。

 女性を雇いたくなかったが他にいなかったか、または補欠採用か。

 ミラー会長にファーストネームで呼んでもらえず、女性だから嫌厭(けんえん)されているのかもしれない。態度には一切出されていないが、勝手に憶測してしまう。


「あと、外で話す時は防音魔法を使ってから話すように」


 防音魔法? と首を傾げているとミラー会長は実際にやって見せてくれた。

 ミラー会長のいる所から広がる透明の壁が、テーブルの周りにいる従業員含めた全体を包んだ。

 壁自体は透明だが境界部分が霞むように歪んで見えるので、近づいてみれば範囲を目視できる。


 不思議だ。どういう仕組みなのだろう。


「こうやって魔法で空気の壁のようなものを作るんだが、空気中に含まれるイリンという成分を集めて空気の壁を作る。そうするとこの空間は遮音状態になる」


 作った防音魔法はすぐに解除された。

 イリンは空気中に存在する精霊が持っていて沢山集めると音を反射する性質がある。それを精霊に借りて応用したのがこの防音魔法だという。


「こうですか」


 グレンも同じようにやって見せると、ミラー会長はうなずいた。

 彼は見ただけでどういう仕組みか理解できているようで驚いた。本当に魔法が優秀らしい。

 これは自分もやって見せなくてはならないのでは……。そう思うとモナは出来るかわからず、手指が冷たくなった。


「ペトロネア。できる?」

「……わかりません」


 魔法は本当に得意ではない。精霊の力をあまり借りられないだけではなく、センスの問題もあるかもしれない。

 皆が見ている中で体は硬くなり、自分の生唾を飲む音まで聞こえた。


 体の周りに空気の壁……。イメージして空気の壁を作ってみるがスカスカで壁のようにならない。イリンは集まるが空気の壁をうまく作れない。風船を膨らませるようにして広げてみても、すぐに消えてしまう。


「モナ、音の振動を外に出さないようにするんだよ。自分の声が跳ね返ってくれば成功なんだけど」

「難しい……」


 隣りにいるグレンがアドバイスしてくれるが、ちっとも出来る気がしない。何度も失敗し、焦り始めると余計にうまく作れずにいた。


「ペトロネア用に魔法道具で出せるよう考えといて、二人共」


 結局、モナが作れないと判断したミラー会長は、ホークとグレンに今日二つ目の魔法道具を依頼する。


「多分すぐ出来ますよ。魔法通信器に使ってる防音機能をそのまま使い回しゃーいけます」

「ここの通信器は防音付いてましたね。小型化して持ち歩きできるようにすれば需要ありそう」


 魔法通信器は持ち主の魔法を識別すると、中に登録した個人の連絡先などの情報を視認出来、会話が出来る物だ。

 デザインは色んな物が出ているが、一般的には長方形で拳の中に収まるくらいの大きさ、個人の魔法を識別するための認証システムが埋め込まれている。


 ホークとグレンは魔法道具の仕様について具体的に話し始めた。

 ここの従業員は全員、防音魔法が出来るようだ。もしかして自分は落ちこぼれなのでは……?

 自分だけできないというのはとても精神的ダメージが大きかった。こんなことでクビになったりしないだろうかと不安を感じた。


【加筆修正点】

・防音魔法の仕組み説明。

・ホークの描写。

・魔法通信器の描写。(何でこれが抜けてたのか殴ってもわかりません……)

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