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モナ・ペトロネアの苦悩  作者: 在ル在リ
不慮の出会い
10/70

10 カフェで偶然

 三人で近くのダイニングカフェに入る。


 席に案内される時、アメリアは小声でモナに忠告する。リアムにははっきり言わないと突っ走りそうだと。

 しかし強引にかわされるし、荷物も奪還できない。どうすればいいのだろう。

 アメリアはリアムが女慣れしていることを心配しつつ、それでも憎めないキャラだと話した。他人事だからそう言えるのだろうが、グイグイ来るリアムに、モナは若干引き気味になっていた。


 案内された席にはアメリアと並んで座り、リアムが向かい側に座った。


「リアム君って自転車の運転荒っぽいんだって~? 気をつけなきゃキミも怪我するよ」

「うん、そうだね。マジで気を付けるよ。モナちゃんもほんとごめん。もうスピード出さないから怖がらないで」


 リアムが申し訳なさそうな顔でモナを見る。


「私は自分の自転車があるから、リアムのに乗ることはもうないよ」

「ちゃんと安心してもらえるように直すから!」


 リアムは店で見せるような爽やかな笑みを見せた。黙っていれば好青年に見えるのに残念男子だ。


 それから料理が運ばれてきて、食事しながら他愛ない話をする。主にリアムから、デート相手がいるのかとか、好みや趣味など色々聞かれた。

 趣味もなく男に興味もない、そしてリアムの話をつまらなそうに聞く。貴方に興味がないという態度で接し、いずれ興味をなくすのを待とうと思ったのだが、それならもっと一緒に出かけよう! もっと自分に興味を持って欲しい! とリアムは熱くなってしまった。リアムの目を見ている限り、ノリで言っている様子もなく本気らしい。

 そんな熱烈なリアムが面白いのか、アメリアはずっとお腹を抱えて笑っている。他人事だと思って……。


 そしていつモナに興味を持ったのか、アメリアが尋ねた。


「モナちゃんには災難だったと思うけど、自転車で怪我させちゃったのが切っかけだね。帰りに自転車で送った時しがみついて来て、あんまりにも可愛くてキュンときて」


 リアムは熱い眼差しをモナに向けながら、嬉しそうにそう語った。

 あんな散々怖がらせといて……何がキュンなのか。モナはあの時のことを考えると、恐怖感を思い出して今でも背筋が凍るほどだった。


「モナちゃんの好みもっと教えて? 俺悪いところ直していくからさ」

「私はリアムのことを異性として見れないよ。ごめんね。だから友達として接して欲しいな」


 モナは真剣な顔ではっきり伝えた。


「わかった、友達からスタートだね! もっと俺のことを知ってもらう為にこれから頑張るよ!」


 強敵すぎる……。


 それを聞いたアメリアはお腹が痛くて堪らないと、腹を抱えて笑い転げそうになっていた。リアムの対応をどこで間違えたのかとモナは頭を抱えた。



「見覚えがあると思ったら、アメリアか」


 テーブルの近くを通った人が突然アメリアに声をかけた。

 少し厳しそうな顔をした男性だ。


「あ、こんにちは。ランチですか」

「同じ店の中にいるのだから食事に決まってるだろう。君、さっきから騒がしいからもう少し大人しくしていた方がいい」

「はぁーい、すみません」


 アメリアはペコっと軽く頭を下げた。もしかして同じ職場の人だろうか。

 男性はそのまま窓際にある四人席の方に歩いて行った。


「職場の先輩。細かくてうるさいんだよー、あの人」

「厳しそうな感じだったね」


 アメリアの先輩の席には男性が四人座っている。皆、職場の人だったらアメリアはここに居づらいかもしれない。

 そう思っていると、その内の一人がまたこちらの席に向かって近づいてきた。

 驚いた、よく見ると見知った顔だ。

 ミルクティーベージュの髪のその人はモナの前に立った。


「もしかしてモナ?」


 グレン・ロスだ。

 彼も今日はオフ仕様なのか、事務所で着ているカジュアルな格好とは違い、黒でまとめたシックな印象の服装だ。髪もアップバングにしていて、事務所では可愛い印象だったのに今日は凄く大人っぽく見えた。


「グレンも来てたんだね」

「似てるなと思ってたけど、普段とあまりに違うもんだからモナかどうか自信なくて、声かけるか迷った」

「あ……そうだね。今日は友達と来てるの」


 フルメイクなのによくわかったなと感心した。でも職場の人には今の姿を見せたくなかった。普段地味なのに休日は凄くメイクを頑張っているという印象を持たれるのが何となく恥ずかしかった。


 グレンはリアムに視線を移す。


「こんにちは。モナの同僚のグレンです」

「あー、ミラー商会さんとこの! 毎度、ヴィエーナのリアムです!」

「アメリアです。モナとは学生時代の友人なんです。グレンさんお幾つなんですか?」

「今年二十二になるよ。モナの一つ上だね」


 アメリアはグレンがどうやら好みらしく、質問攻めになってきてグレンも困った顔をしている。仕方ないので助け舟を出した。


「グレンの席はどういう集まりなの? リアの職場の先輩もいるんだよね」

「今日はね、学生時代の友人、先輩と来てるんだ」

「ふうん、意外な繋がりだね」

「あ、ここで話しても邪魔になるか……」


 確かにテーブル席の間で話していると邪魔かもしれない。グレンは席に戻るのだろうけど、もう少しいて欲しいと何となく思った。


「良ければ、食事終わったら後で話す? うちは食事の後解散だから」

「わ、是非是非!」


 グレンの提案にアメリアが食いついた。皆問題ないと言うので、一時間後に近くの公園に集まることになり、グレンは優しい笑顔を見せて席に戻った。


 同僚に会っただけなのに、少しホッとしてしまった。流石、癒し系だ。


 アメリアはこっそり耳打ちする。


「モナ、いい人いるじゃん!」

「リアの好みだった?」

「うん、爽やか好青年じゃん。あれはモテるだろなあ」


 今まで異性として見ていなかったからわからなかったけど、グレンは確かに甘い笑顔だし、女性受けする顔なのかもしれない。




 食事を終えて席を立つ時、リアムから自分の荷物を奪還するのに成功した。会計も割り勘上で支払い、店を後にした。

 リアムが奢ると何度も言っていたが、友達なら割り勘だとモナとアメリアの二人に強く言われ、大人しく従った。



 公園へ向かうと、既にグレンはベンチで本を読んでいた。モナ達に気づくと、グレンは本を閉じて立ち上がった。


「急に誘ってごめんね」

「アタシも話したかったんで気にしなくていいよ~」


 いつもの爽やかな笑顔を見せるグレンに、アメリアはときめいているようだ。わかりやすくてモナはクスッと笑みが零れた。


「アメリアは何の仕事を?」

「この春から国立図書館の司書になったの。グレンは先輩と仲良いんだね」

「付き合いはそれなりかな。先輩は厳しい人だよね」


 グレンは苦笑いした。

 二人が話してる様子を見ていると、小声でリアムが耳打ちする。


「モナちゃん、今日スーツ買うんじゃなかった?」

「あ、そうだったね」


 今日一番の目的なのにまだ達成出来ていない。


「二人の邪魔しちゃ悪いし、このまま俺らは服見に行かない?」


 アメリアの方を見ると楽しそうに話している。確かに割って入っても邪魔になりそうだと思った。

 だけど、リアムと二人になりたくはない。あれだけしつこいのだから、帰るのも面倒なことになりそうな気がする。


 視線をグレンに向けると目が合い、二人は防音魔法の中で話し始めた。聞かれたくないことがあるんだ。

 それを見てモナは胸の辺りが少しざわついた。


「荷物持つよ、モナちゃん」

「ううん。自分で持てるから」


 肩にかけた買い物バッグをまたリアムに取られそうになり、バッグをギュッと握った。


「モナ、ちょっといい?」


 突然グレンが話を振ってきたので何だろうと思っていると、アメリアはリアムの腕を引いた。


「リアム君、ちょっと付き合って! 買い忘れた物があるんだ〜。二人が話してる内に済ませちゃお」

「いいよ。どこの店かな〜?」


 アメリアはリアムに見えないように目配せし、店の方へ向かって歩いていった。

 それを確認したグレンはモナに顔を向けた。


「ちょっとね、アメリアに協力することにした」


 アメリアに大体の事情を聞いたのだと、悪戯っぽく笑うグレン。


「リアムのことで困ってたんでしょ? モナからリアムを引き離すミッション引き受けたから」

「……そうだったの。ありがとう」


 アメリアとリアムの姿が見えなくなると、グレンは反対方向に歩き始める。


「今の内に行こ」

「え、どこに……」

「スーツ買うって聞いたからお店にね」


 少し早足に移動しながら、モナは今日リアムが勝手に合流してきた時のことから全てグレンに説明した。


(つがい)をそんな風に使ったのか。色々改良が必要そうだなあ……」

「事故の時に落としたから、それは仕方ないんだけど……。でも付き(まと)われるようになると困っちゃうね」

「うーん、なかなか手強そうだね」


 グレンは楽しそうに笑っているが、モナは笑いことで済ませられなかった。


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