豪邸と部活
「どうしてそう思ったの?」
ストーカーであると指摘すると、あわてる訳でもなく冷静に訊き返してきた。
「お前今日、帰り俺の後ろをついてきてただろ。はっきり言ってバレバレだった。それにこの家バレという現状。ここまでくりゃアホでも分かる」
「そっかあ。じゃあそうだよって言ったらどうする?」
こいつなにいけしゃあしゃあと言いやがって。
「え、そりゃもちろん……」
俺はスマホをポケットから取り
出す。
1、1、0、発信ボタンを――、
「だから通報はやめてって言ったでしょ!」
押す前に、そう言って俺からスマホをひったくる。
「おい、とるなよ」
「だって110番しようとするから」
「はあ、ついにストーカーからひったくりにジョブチェンジしたか」
「もともとストーカーじゃないから! ひったくりでもないし」
転校生はそう言いながら、俺にスマホを返す。
おーよしよし怖かったね。可哀想な俺のスマホ。
もう大丈夫……え?
こいつストーカーじゃないって言った?
「おいちょっと待て。俺の聞き間違いかもしれんが、ストーカーじゃないって言ったか?」
「言ったよ。私はストーカーではありません」
聞き間違いじゃなかった。
「じゃあなんでさっきあんな思わせぶりな言い方したんだよ。そうだって言ったらどうする? なんて言いやがって」
「ただの冗談だよ。ジョークジョーク」
「全く面白くないからやめとけ。お前いつか通報されるぞ。」
「されないよ! とりあえず私はストーカーじゃないから。」
ほんとかぁ?
そんな怪しさをこめて顔を見ていると、転校生は視線に気付いたのか、こちらに顔を向け、俺の目をまっすぐ射抜いてくる。
――だから俺をその顔で見るなよ!
俺は思いっきり目をそらす。
すこし顔が熱いのは気のせいだと思いたい。
「そうか。ならひったくりは否定しないと。ずいぶんな犯罪者属性を身につけてるんだな」
そして俺はこいうときほど毒舌が増してしまう。
なんともひねくれた性格だ。
まぁテンパらないだけまだマシだ。
「ひったくりもさっき否定したよ! 犯罪なんかしてないよ」
「安心しろ。お前は息をすることが犯罪だ。ほら呼吸罪ってあるだろ」
「ないよ! そんな罪ないよ! 全く安心できないって!」
「法律を1から学んだらどうだ?おそらく自分の罪の意識にさいなまれて死にたくなるぞ」
「そんなに罪を犯してるの私! って犯してないから!」
「と供述しており」
「違うって言ってるでしょうがーっ!」
転校生はつっこみ疲れたのか、肩で息をしている。
ちょっと待て。
何俺はいつも通り平山にやってるみたいに、こいつをいじってるんだ? いやそれは別にいいんだ。
何故こいつは俺の会話に付き合ってくれるんだろうな。
なんかこいつと話してると、いつもの俺の女子限定コミュ障が発病しないし。
まぁそれはいいとして、こいつは自分がストーカーじゃないと言ったよな。
じゃあ今日のは何なんだ?
それに会ったこともないのに、俺の彼女予定を自称しているのはなぜだ?
疑問がつのるな。
ここは一気に訊くか?
「あ、着いた。ありがとう、家まで送ってくれて」
おや、もう着いたのか。
意外と近かったな。
どれ、どういう家なのか……、
――おっふ。
なにこの豪邸。
ちび○る子ちゃんのはな○くんの家並みにでかい。
こいつ、金持ちだったのか。
「じゃあまた明日、竹林くん」
「……」
俺が豪邸に圧倒されている中、転校生は躊躇することなく豪邸に入っていく。
……俺、死ぬの?
あ、ストーカーと彼女予定の件を訊きそびれた。
しくった。
◇◇
翌日もかったるい足取りで学校へ向かう。
朝とはなぜこんなにもだるいものなのだろうか。
そろそろ朝を滅する方法を模索したほうがいい気がする。
「おはよう、知久。元気してっか?」
と考え事をしている内に、いつの間にか学校に到着していた。
「おう、平山。朝からお前が元気そうじゃなくて俺は幸せさ」
「俺の不幸がお前の幸福なのか!? 朝っぱらからキレの良い暴言だな!」
「そりゃどうも」
今日も毎度のように平山と会話を交わす。
ちなみにだが、今日も例の転校生は他のクラスメイトに囲まれていて、昨日のことを訊くことは出来なかった。
転校生からのねちっこい視線は昨日同様感じていたが。
こうして今日も授業が終了し、放課後に突入する。
「平山部活に行こうぜ」
「おう、今行く」
平山と一緒に部室に向かい、制服からウェアに着替える。
ラケットとシューズを持ち、体育館に向かう。
「「こんにちは」」
平山と体育館の前にたむろっている先輩に挨拶をする。
「あ、よう」
「おう、竹林、平山」
「なぁ竹林、お前例の噂ってまじか?」
いきなり先輩のうちの一人がそう訊いてくる。
「噂? 噂ってなんですか?」
「お前あれだよ。美少女転校生とつきあい始めたってやつ」
うそだろ……。
なんちゅう嬉しいようで嬉しくない噂は。
「付き合ってる訳ないじゃないですか」
「だよなぁ。だってお前モテないし」
そう先輩が言うと他の先輩もくすくすと笑う。
「先輩も特別モテるというわけじゃないじゃないですか」
「べ、別に俺だってモテないわけではない」
「確かにチンパンジーにならモテるかもしれないですね。よかったじゃないですか」
俺がそう言ったとたん、周囲からどっと笑いが起こる。
「ぎゃはははははっ! ウケるわ! こいつ後輩に毒吐かれてやがるよ」
「プークスクス。ディスられてやんの」
「いいぞ竹林! もっとやれ!」
先輩は頬をひきつらせながら、俺を睨む。
「先輩。俺に悪気はないです」
「こいつ……。はあ、お前がモテない理由はその毒舌なんだけどな」
「先輩、ため息を吐くと幸せが逃げますよ」
「誰のせいだ誰の!」
「おい、いつまでぐだぐだやってる。さっさと始めるぞ」
俺らが話していると、部長が体育館に入ってきた。
皆が部長に気づき、部長の周りに部員が集まる。
「よし、今日は始める前にマネージャーを紹介するぞ。お前ら驚くなよ。入ってきてくれ」
マネージャー?
この時期にか?
なんか嫌な予感がする。
「新しくマネージャーになりました。折川凪咲です。よろしくお願いします」
――やっぱりか。
俺の予想通り、入ってきた女はあの転校生だった。
部員が沸く中、俺は自分をじっと見る少女に恐怖しかなかった。