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妹と母親

「あ、お兄ちゃん! 助けてええええ!」


 よく見ると転校生の腕に、妹の華恋(かれん)が抱かれている。現在小学3年生で蓮人の双子の妹だ。

 その華恋は若干涙目である。


 ――貴様、俺の可愛い華恋に何してくれてんじゃあ!


「とも? スマホ出してどうしたの? 1、1、0? とも、それ110番じゃん!?」


 これは通報案件なんだよ、弟よ。

 妹をいじめる不審者は警察に連れていってもらおう。


「え? ちょ、ごめんなさい! 離すから通報しないでえええ!」


 俺の行動を見て、転校生はあわてて妹を離す。

 そして立ち上がり、必死に俺に頭を下げる。


 変質者から解放された華恋は、走って俺に抱きついてくる。


 か、可愛い…。

 華恋に懐かれてて良かった。

 今ならシスコンの誹りを受けても笑って受け流せるぞ。


 俺も華恋を抱き返し、頭を撫でる。


「おおーよしよしかわいそうに。あの化け物はお兄ちゃんが倒してあげよう」


「そうだ! そうだ!」


 俺の言葉に蓮人が同意する。


 よく言った弟よ。

 あの怪人を我が家から追い出すのだ!


「バカなこと言ってるんじゃないわよ。ほら、帰ってきたらすぐ手を洗う」


 台所にいた母親がやってくる。


「お母さん、なんか変なのが家にいるんだけど。華恋が襲われた」


「あら、あんたの彼女だって聞いたのだけれど。だから家に入れたのよ」


 そう母親が言うと、蓮人と華恋が驚愕の表情を俺に向ける。


 なんてこと言うんだ。

 知り合いですらないわ。


「お、お兄ちゃん……女たらし」


「とも……まじか」


 お兄ちゃんは女たらしじゃありません。

 蓮人も信じるなよ。


「あんな変質者が俺の知り合いなわけないじゃないか」


「さっきから化け物だの変質者だの変なのだの酷い言い草だよ!」


 母親と話していると、転校生が会話に割り込んでくる。

 ふとそちらに顔を向ける。


 ――あ、可愛い。

 と不覚にも思ってしまい、目をそらしてしまう。


「ごめんなさいね凪咲(なぎさ)ちゃん。この子照れてるだけだから」


「いえいえ、謝るのはこちらです。ただの彼女予定と言っただけの私を家に上げてくださって」


「別にいいのよ。いつでも来てちょうだいね」


 彼女じゃなくて彼女予定って言ったんだな。

 余計なこと言いやがって。


 ていうかどっちも違うけどな。


「来なくていい。妹たちに悪い病気がうつる」


「私は病原菌か何かなの!」


「こら、あんたはそうやってすぐ毒を吐く」


 母親にバシーンと軽く叩かれる。


 ――別に叩かなくてもいいじゃないか。


「いえ、私は気にしないので。それと竹林くんごめんね。弟さんと妹さんかわいかったからつい抱きついちゃって。」


「い、いや別に気にしないけど。」


 やめてくれそんな顔で俺を見ないでくれ。

 女性に耐性がないからキョドるだろ。


 くそ、母親がにやにや気持ち悪い笑みを浮かべている。

 からかう気満々だ。


「お母さん、その顔やめてくんない。普段の顔同様腹が立つ」


「しれっと母に毒を吐くな。普段の顔そんなに腹立つ?」


「うん」


「うんじゃないよ。ひどい息子だね」


「ふふふふ、仲いいんですね二人とも」


 俺と母親との会話を聞いていた転校生が突如笑い出す。

 心外なことを言うなこやつ。


「お兄ちゃんと一番仲良いのはかれんだよ!」


 俺に抱きつきながら、静かに俺らの会話を聞いていた華恋が突如、抗議の声をあげる。


 嬉しいこと言ってくれるな華恋。

 もっと撫でてやろう。


 華恋は歳の差が大きいからか、特に俺になついてくれている。


「華恋にそこまで言わせるとは。とも、あんた母の華恋をとらないでくれないかしら」


 うちは蓮人以外は皆、華恋が大好きだ。それはもう中毒レベルに。


 よって花恋は竹林家のアイドルと化している。


 だからといって息子に対抗心燃やしてどうする。


「あ、別にお母さんも好きだよ」


「まー華恋大好き!」


 そう言って母親は俺から華恋をひったくる。


 ――手持ちぶさたなので蓮人でも抱いておく。


「離せよ!」


 だがすぐにふりほどかれてしまった。



「じゃあそろそろ私帰ります」


 そう唐突に凪咲は言い始めた。


「あら、帰っちゃうの?」


「はい、長居しても悪いので」


「全くだ。」


「あんたはすぐそうやって。はぁ、とも。送ってあげなさい」


 え? 送る? 何で俺が。


 とそのまま言おうとしたら、


「文句言わない」


 と有無をいわさず決定された。


 ――理不尽だ。





 ◇◇






 送っている道中はもちろん会話がない。


 き、気まずい。


 だがとりあえずなぜ俺の家を知っていたのか訊きたい。


 よし、訊こう。

 だいぶ慣れたからテンパらないと思う。


「あのさ、なんで俺の家が分かったの?」


「え? あー、担任の先生に聞いたの」


 じいいいいいいいいい――。

 怪しいな。


 普通人の個人情報をほかの人に教えるか?


「そんなに怪しい? 私怪しくないよ」


 と言いながら俺の目を見返して、


「だって私竹林くんの彼女予定だから。」


 と若干頬を染めながらそう言った。


 不覚ながら、またも見とれてしまった。


 ――それと会話の脈略が全くつかめない。

 俺と会話する気あんのかこいつ。


「……俺君と会ったことないんだけど」


「ごめんね、一方的に。でも一ヶ月後くらいに竹林くんから告白されて彼女になるから」


 会話がかみ合ってるようでかみ合ってない。

 何言ってんだこいつ。


「変態と付き合う趣味はありません。お引き取りを」


「変態じゃないから! それに今は帰ってる途中だよ?」


「すまん、妄想女だったか。間違えた」


「別に妄想じゃないから!」


「ごめん、そう言う人無理だから、俺の半径三十メートル以内に近づかないで」


 よしよし、テンパらないで毒を吐けている。

 いいぞ、俺。


「暴言がひどいよ! 近づけなかったら学校にもいられないし、竹林くんの後ろをついていけ……いや、何でもないです」


 おい、こいつ今とんでもないこと口走りやがったな。


 ――この女やはりとは思っていたが。


「お前、俺をストーカーしてたな?」

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