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気持ちと告白

 俺は走った。

 体力の続く限り走った。


 息が切れる。横っ腹が痛い。

 胸が苦しい。心臓の鼓動がうるさい。


 けど俺の足は止まらなかった。

 たったひとつの目的地へ向けてがむしゃらに足を動かす。


 伝えなければならない。俺の気持ちを今すぐ。

 それで後悔しようとも、立ち直れなくなったとしても。

 隠すべきじゃなかった。蓋をするべきではなかった。

 自覚して、感じて、想って、伝える。これが本来の姿であり、本来あるべき姿だ。


 俺はバカだ。

 そんなことにも気づかなかったのだから。

 過去にケジメをつける時が来たのだ。

 

 だからなんとしても――この気持ちを伝えるッ!








 ◇◇









 走っていった俺がたどり着いたのは凪咲の家だ。

 今回で訪れるのは3回目である。


 荘厳な門の横にあるインターホンを押す。


『はい』


 前回と同じく、玉置さんらしき女性の声が聞こえる。


「こんにちは。竹林知久です。突然すみませんが、凪咲さんに用があって来ました」


『かしこまりました』


 玉置さんがそう言うと、門が音をたてて開き始める。

 凪咲の家の敷地に足を踏み入れ、息を整えながらゆっくりと玄関まで歩いていく。


 玄関の扉の前に立つと、いきなりその扉が開き始める。

 開けたのは、その扉から出てきた玉置さんだった。


「ようこそおいでくださいました」


「こんにちは、玉置さん。急に申し訳ありませんでした」


「お気になさらず。お嬢様はいつもの部屋にいらっしゃいます。私はしばらく出かけますので、ごゆっくりどうぞ」


 ――この人、一体なにをすると思っているのだろうか。

 しないからな? フリじゃないぞ?


 玉置さんの視線を浴びながら、凪咲の部屋に向かう。


 凪咲の部屋の扉の前に立つ。

 深呼吸をひとつ――。


『コンコン』


「……純子さん?」


 ノックすると、中から凪咲の声が聞こえる。


「俺だ。竹林だ」


「ともくん!」


 俺がそう言うと、中ががたがたと騒がしくなり、ドアが勢いよく開かれ、中から驚いた顔の凪咲が出てきた。

 目が合い、俺は恥ずかしさでつい目をそらしてしまった。

 それは凪咲も同じようで、お互いにもじもじとしてしまう。


「……入っていいか?」


「……うん。いいよ」


 凪咲の後に続いて部屋の中に入る。

 そこはやはり何も変わっていなかった。


「私、ともくんに近づいちゃいけないんだけどな。華恋ちゃんとの約束が」


「……それなんだが、もういいよ」


「え?」


「もう良いって言ったんだ」


「で、でも華恋ちゃん怒るよ! 約束破るんだし」


「もういいんだ」


 もういい。

 華恋をないがしろにする訳じゃない。

 華恋には後で謝らなきゃいけないことだが、別に今は関係ない。

 ただ俺は――。


「……誰」


「え?」


「誰なの!? 君は私の知ってるともくんじゃない!」


 凪咲は俺を指さしながらそう叫ぶ。

 失礼な話だ。

 いや、自業自得か。


「俺はちゃんと俺だよ。そういうことじゃないんだ。ただ――」


「ただ、何?」


 凪咲は顔を俺にぐっと近づけてくる。

 近い。非常に近い。

 俺の顔の熱が上がっていくのが分かる。


 正直この先は言いたくない。

 死ぬほど恥ずかしいからだ。


 だけどここでへたれたら男としてどうなんだって話だ。

 この機を逃したら俺は一生後悔する。

 そんなの絶対に嫌だ――。


「凪咲が好きなだけだ」


「………………え?」


 ――――。

 ――――――――。


 長い沈黙が走る。

 時間がたつたびに顔の熱が上がっていく。

 心臓の音が頭に響く。


 凪咲の方をちらりと見ると、凪咲は顔を真っ赤にしながら固まっていた。


「……なんとか言ってくれよ」


 俺は固まったままの凪咲に発言を促す。

 そうしてくれないと俺のメンタルが持ちそうにない。


 だが、凪咲は発言するでもなく、その目から一筋の涙を流した。


「ちょっ! え、え?」


「あ、ごめん。ただ嬉しかっただけ」


 凪咲ははにかんで笑いながら涙を拭う。

 その姿に俺は少し戸惑ってしまった。


「そりゃよかった」


「うん。私ね、最初はともくんのことが好きだった訳じゃないの」


「うん、知ってる」


「知らないとおも――え?」


「だから知ってるって」


「……うそ」


「ほんと」


「……まじか」


「まじだ」


 逆に知らないとでも思ってたのだろうか。

 俺は最初から分かってたぞ。

 あの視線が好意ではなく、ストーカーのような視線だってな。

 俺に好意を抱いてるのではなく、俺にただ執着だってことぐらい分かる。


「あはは、バレてたか。そう、私はともくんに好意を抱いてたわけじゃない。だけどね――」


 凪咲は一呼吸おくと、俺の目をまっすぐ見つめ、


「今はともくんのこと好きだよ」


 そう言って綺麗にほほえんだ。

 その顔のあまりの美しさについ見とれてしまう。


「お、おう」


 俺はその顔を直視できずに目をそらす。


 いつから好きになったか気になるが敢えて訊かないことにする。

 それを訊くのは無粋ってもんだろ。


「これで晴れて恋人同士だね」


「そうだな」


「私の宣言も現実になったね」


「あの俺の彼女予定って言ったやつか」


「違うよ。言ったじゃん。一ヶ月後にともくんが告白するって」


 そう言って凪咲はいたずらが成功した子供のように無邪気に笑う。

 あれはまじで言ってたのか。

 だとしたらすげーな。


「……そういえば言ってたな。予言者か凪咲は」


「違うよ。私はただの――」


 凪咲はくるっと後ろを振り向き、顔だけこちらに向く。

 その顔は今まで見たことがないくらい綺麗で、その目はまるでブラウンの宝石のように光り輝いているように見える。


「ともくんのストーカーだよ」

1章完結です。2章はストックをためてから1週間後に更新を再開しようと思っています。


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