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試合と毒舌

「うわぁーっ。広いねー」


 凪咲が天井を見上げながら感嘆の声をあげる。


「そりゃ山越総合体育館だからな」


 体育館の一階部分は多くのバドミントンネットが張ってあり、二階部分は入り口から見て左右にそれぞれ席が並んでいる。


「私来たの初めて。楽しみだなぁ、試合見るの」


「ほんとかぁ? 実は内心やだなーとか思ってたり」


「そんな訳ないよ!」


 凪咲と話しながら、ずらずらとみんなで体育館の中に入っていく。


 凪咲の家に行ってから1週間弱。部活の大会のため、こうやって体育館に来ていたのだ。

 俺らの学校の他にも多数の高校が来ているため、体育館の中はだいぶ騒がしい。


 ちなみに、あの件があってから俺はだいぶ凪咲と仲良くなり、一緒に帰るような仲になっていた。


「折川さんはバドミントンの試合を見るのは初めてなんだっけ?」


「うん、そうだよ」


 もちろん平山もいる。

 帰るときも当然凪咲と二人きりではなく、もれなく平山と三人で帰っている。

 おかげで変な噂を立てられることは今のところない。


「マネージャー! ちょっと」


「あ、はい!」


 席の確保し、いざ着替えようかというとき、ちょうど凪咲が部長に呼ばれる。

 おそらく大会のことで色々と話があるのだろう。


「なんでお前そんな安心した顔してんだ?」


 俺の様子を不審がったのか、そう平山が言ってくる。


「いやだって凪咲だぜ? あいつがここにいたら着替えをこれ見よがしに見てくるに決まってる」


「なるほどな。確かにやだな」


 ちなみにだが、凪咲がストーカーであること、凪咲を『凪咲』と呼んでいることはすでに平山に話してある。当然凪咲がいる場でだ。

 凪咲がストーカーだったことに平山は少しショックを受けていたが、最終的には納得はしていた。

 ――閑話休題。



 着替えを終了し、つまらない大会の開会式に出る。

 今回の大会は埼玉県の西部地区大会だ。

 バドミントンには団体戦と個人戦が存在し、今回俺らが団体戦に出ることはない。

 だが、個人戦には出ることになっている。


 開会式を終え、トーナメントを確認すると、俺の最初の対戦相手は所山西高校の真田仁という人だ。

 ふりがなは振ってないので読み方は知らないが、おそらくその通りの読み方だと思う。

 

 所山西、通称所西はあまり強豪ではない。

 強さとしては俺の高校の山北と大して変わらないだろう。

 そこまで大変な試合にはならないはずだ。


 それにしてもまだ試合までは時間がある。

 その間暇――というわけにもいかず、他の部員の試合を見に行く。



 今見ているのは先輩たちが行っている団体戦だ。

 基本的には試合を観戦するときには、1階ではなく、2階から見ることが決まっているため、先輩が試合している近くで応援している。


 対戦相手は山越高校――通称山高(やまたか)だ。

 県内屈指の強豪校で、県大会の常連である。


「なあ平山。これ勝てると思うか?」


 隣にいる平山に訊いてみる。

 ちなみに平山は、俺よりもバドミントンが上手い。


「いや厳しいな。今3ー10だろ? 相手結構強いからな」


「……そうか」


 今現在、先輩たちはダブルスで戦っている。

 3ー10はなかなかの点差だ。

 確率はゼロではないが、逆転は難しい。


「ポイント、セブンスリー!」


 主審のコールが響く。

 また相手にポイントが入ったのだ。


「やはり山高相手じゃ厳しいか」


 突如、顧問の安藤先生が隣にやってきて、素直な感想をもらす。

 俺もそれには同感だ。


「そうですね……」


「え?」


「は?」


 普通に俺が安藤先生に同意すると、安藤先生が驚きの声を上げ、俺の方を珍獣を見るような目で見てくる。

 アラフォーのおっさんに見つめられても嬉しくはない。


「いやいやいやお前、それはおかしいだろ……」


 いやいやいや何がおかしいのだろうか。

 さっぱり分からない。


「何がおかしいのかさっぱり分からないみたいな表情するなよ。お前のその態度がおかしいんだよ」


「態度、ですか? 何が言いたいのかさっぱりなんですが」


「おいおいまじかよ……」


 先生の言いたいことがいまいちつかめない。

 はて、俺は今日何かおかしいのだろうか。


「ともひさ。お前いつもの毒舌はどこ行った? って先生は言いたいんだよ」


 ここでずっと試合を見ていたはずの平山が会話に参加してくる。


 なるほど。先生に毒舌を使わないことに違和感を感じていたのか。


「なるほど。すみません先生。ちょっと諸事情があって毒舌をやめてるんです」


「お、おう」


 俺の言葉を聞いても、いまいち先生は納得できないようだ。


 ちなみに、やめているというより我慢しているといった方が正しいのかもしれない。

 時折、素で毒舌を吐きそうになる。


「サービスオーバー、フォーセブン!」


「ほら先生。点が入りましたよ。ちゃんと試合を見てください」


 長いラリーの結果、先輩たちは点をもぎ取れたようだ。

 一応、会話に夢中の先生を注意しておく。


「私が悪いのか? これは私が悪いのか?」


「いや先生。悪くないですよ」


 うなだれる先生を平山を励ます。

 

 いや、お前ら少しは先輩を応援したらどうだ。

 ――と言いつつ俺も声を出すわけでもなく見ているだけなんだが。

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