竜との出会い
気づけば長い間眠ってしまったようだった。窓の外は暗く、静まり返っていた。
「さて、どうしたもんかな」
勇者パーティーの一員になるという夢が潰えた以上、これからのことを考えなければならない。しかし、全くと言っていいほど、そんな現実的なことを考える気力は起こらなかった。
少し外を散歩してみることにした。僕が住んでいるこの街-[アランドクス]-の夜風は、涼しげで心地よく、いくぶんか、荒んだ心を和らげてくれた。
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どれくらい歩いただろうか。道の両脇には背の高い植物が茂っており、気づいた時には、ずいぶんと街の外れまであてもなく来てしまったようだった。
その時だった。
「キュウ……」
何者かの鳴き声が聞こえた。力は弱く、助けを求めるような声だった。
「わ、誰かいるの?」
「キュウ、キュウ……」
問いかけに答えるように、再度鳴き声が聞こえた。どうやら、茂みの中から聞こえているようだった。
恐る恐る、茂みをかき分け声の主を探していると、足元に罠にかかっている何やら小さい生き物を見つけた。
「これってもしかして……ドラゴン!?」
小さい生き物-鱗と翼を持ち、爪ろ牙を持つもの-は罠により深く傷を負い、身体は泥と血にまみれ、長い間ここに放置されていたようだった。辺りには罠から逃れようと暴れ、のたうちまわった痕跡がある。
「すぐ楽にしてあげるからね、そのままじっとしてて」
罠がより深く鱗に刺さってしまわないよう、注意深く仕掛けを解いた。しかし、その傷口は大きく、その小さいドラゴンは悲鳴をあげるように鳴いた。
「傷を手当てをするね、<ヴァイサ・ヘイル>」
白く淡い光が傷口を包み込み、傷口を塞いだ。ただこれは応急処置で、表面を覆っただけだ。内部を治療するには、もっと実力のある術者が必要だ。
「キュウ、キュウキュウ!」
小さいドラゴンは感謝するように、明るい声で鳴いた。
「良かったぁ、けど、なんでこんなところにドラゴンがいるんだろう……?」
古代の神話ではドラゴンが多くいた時代もあったそうだが、現在ではもうほとんど生息していない。現物を見るのはもちろんこれが初めてだ。
「わぁ!!!」
そんなことを考えていると、突然ドラゴンの身体が白く光り始めたのだ!!
ーそしてその小さなドラゴンは、可憐な少女へと姿を変えた。
髪はまるで満開の桜のような鮮やかなピンク色で、腰までかかるほど長く艶やかにまっすぐと伸びていた。
目はパッチリと開かれ、黄色い瞳が覗かせている。
そしてその細い身体には不釣り合いな程に成長した胸が大きく膨らんでいた。
「き、君は一体……誰!?」
さっきまでドラゴンだった、その少女はゆっくりと口を開いた。