魔王さま、ひとりぼっち。
ひとりは嫌いだ。でも懐かれるのはもっと嫌いだ。
裏切られひとりになった時、文句が言えないからだ。
裏切ったそいつがいないと…文句が言えないからだ。
「ピィちゃん。」
こいつは何が嬉しいのか、オレ様を見ては笑い、そして何か一言でもオレ様が言うとジャンプする。
予測不能なその言動は、時々…目が離せない。
それは…。
だから…それは…。
フン!とにかく、周りを見ないでジャンプをするものだから、いろんなところにぶつかったり、よく転ぶのだ。
心配ではない。心配しているのではない。そ、それは…間違ってオレ様の寝床にぶつかられては迷惑だからだ。
「良輔、そろそろ行くわよ。」
ママはジャンピングボーイにそう言うと、ジャンピングボーイはジャンプをするのをやめた。
口より体で感情を表すジャンピングボーイ。そのジャンピングボーイが動きを止め
「ピィちゃん…行くね。」
そう言って、じっと俺を見つめ、またなにか言った。
えっ?何を言ったのだ?行くってどこに?
ついさっきまで、いつも通りジャンプして、いつも通りにヘラヘラと笑っていたのに、どうしたのだ?
突然…予告も無しに…【行く】とか言い出して…。
これではまるで…
そう…まるであの日と同じではないか。
いつもオレ様の側にいたあいつら。最後までオレ様について行くと言っていたあいつら。なのに、あの日勇者との最終決戦の日、オレ様の目の前から突然消えたあいつらと……一緒ではないか。
…ま、待て!おい、待て!ジャンピングボーイ、待てと言っているだろう!
だが、ママに連れられて、ジャンピングボーイは鼻を啜りながら、オレ様に手を振った。
待て!ジャンピングボーイ!
待て…良…輔…。
また、オレ様は見限られたのか?!
確かに魔界では…かなり横柄だったかもしれない。
でも結構いろいろ考えていたのだ。ただ上手く…言えなかっただけだ。
今回は何がいけなかったのだ?
オレ様をピィちゃんと呼ぶおまえを無視したからか?
でも、あの名前は…カッコ良く聞こえない。可愛さを強調した名前だから、魔王としては受け入れがたかったのだ。
それともウンチを……寝床でしなかったからか?
でもこれはわかるだろう!どう考えても理不尽なことだとわかるだろう。良輔もトロールもママも、寝床でウンチはしていない。なのに…オレ様にはやらせようとする。やらなければ、綿棒で拷問。
我慢していたのはオレ様だ。
おまえがそれでオレ様を見捨てるのは…可笑しいだろう。
まだ…10日足らずではないか…。
それなのに、もうオレ様を…。
……フン!ジャンピングボーイなどいなくても良い!
だいたい、ジャンプをして話すという奇妙な子供など、こちらから願い下げだ。
また違う世界で、勇者を倒すために体制を整えるのだ!違う世界で!!
そうだ!違う世界で!
…そしてまた…ひとりになるのか…。
カチカチと時計と言うものが刻む音だけが部屋に響く。
ここはこんなに静かだったろうか。
箱の淵に顎を乗せると、ジャンピングボーイたちの居住区が見える。
テーブルの上にはトロールのゴルフというスポーツの本、そのテーブルの側の椅子にはママのエプロン。その椅子の下にはジャンピングボーイの車という小さなおもちゃ。
『ピィちゃん見て!』と言って、オレ様の寝床の横で走らせていた車と言うおもちゃ。
ジャンピングボーイの声がうるさくて、そしてその車と言う物の振動でオレ様の寝床は揺れて…腹が立って文句を言うと、『乗りたいの?』と…わけのわからんことを言う。
ジャンピングボーイはオレ様と通じていると思っていたようだが全然だった…。
でも話しかけてくれて、そばにいてくれて、オレ様を一番にいつも考えてくれて、結構…心地良かった。これからもっと一緒にいれば、本当に心が通じると思うほど、ジャンピングボーイはオレ様の話を聞いてくれていた。
それなのに…もう、諦めたんだな。
箱の中のタオルに体を寄せると、誰かに触れられている気がした。
懐かれるの嫌いだ。
裏切られひとりになった時、文句が言えないから。
裏切ったそいつがいないと…文句が言えないから。
嫌いだ。
どこかに行けるほど、まだ魔力は戻らない。
だが、もうここはいい。
もう、いい。
シーンとした部屋に俺の鳴く声が響いていた。
ピンポン、ピンポン
「…」
「…」
呼び鈴の音と、誰かが誰かを叱る声。
ガチャン。
「良輔!ピンポンしないの!」
良輔?
慌てて、顔を上げると
「ピィちゃん、ただいま~!!」
そう言って、跳ねながら近づいてきたのは
…ジャンピングボーイ。
「良輔!幼稚園から帰ってきたら、なにすんだっけ?」
「手を洗って、うがいをするの。」
「はい、よろしく」
「…はい…よろしくします。」
ジャンピングボーイはそういいながら、どこかへ走っていった。
なにがなんだかわからなくて、ママをみると
「ピィちゃん、少しはゆっくりできた?春休みが終わって、今日から幼稚園が始まったから、さっそく私もママ友とランチしてきちゃった。」
そう言ってママは小さな声で
「これからはお互い、穏やかな時間が増えるね。」
どうやらジャンピングボーイは、朝から15時ぐらいまで幼稚園とやらに行って、居住区にはいないらしい。
…という事は
オレ様は、か、勝手に…見捨てられたと思っていたのか?そして…苦い憂愁を感じていたのか?
…あ…ぁ…ああ…
あの思わせぶりなジャンピングボーイの態度はなんだったんだ!!
「ピィちゃん~!僕がいなくて寂しかった?」
寂しくなどない。
「ぼくね、すっごく寂しかった。」
…そうか…。
なぜだか、鼻がツーンとして下を向いた。
おまえも…寂しかったか…。
良輔…
そう呼んで、顔を上げようとした…ら、寝床が激しく揺れ、オレ様は箱の隅に吹っ飛んだ。
「ピィちゃん~!車に乗る?!」
…乗らんわ!!!




