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魔王ピィさまの野望  作者: 夏野みかん
5/8

魔王さま、ひとりぼっち。

ひとりは嫌いだ。でも懐かれるのはもっと嫌いだ。


裏切られひとりになった時、文句が言えないからだ。

裏切ったそいつがいないと…文句が言えないからだ。







「ピィちゃん。」


こいつは何が嬉しいのか、オレ様を見ては笑い、そして何か一言でもオレ様が言うとジャンプする。

予測不能なその言動は、時々…目が離せない。


それは…。


だから…それは…。


フン!とにかく、周りを見ないでジャンプをするものだから、いろんなところにぶつかったり、よく転ぶのだ。

心配ではない。心配しているのではない。そ、それは…間違ってオレ様の寝床にぶつかられては迷惑だからだ。



「良輔、そろそろ行くわよ。」

ママはジャンピングボーイにそう言うと、ジャンピングボーイはジャンプをするのをやめた。


口より体で感情を表すジャンピングボーイ。そのジャンピングボーイが動きを止め


「ピィちゃん…行くね。」


そう言って、じっと俺を見つめ、またなにか言った。

えっ?何を言ったのだ?行くってどこに?

ついさっきまで、いつも通りジャンプして、いつも通りにヘラヘラと笑っていたのに、どうしたのだ?


突然…予告も無しに…【行く】とか言い出して…。


これではまるで…


そう…まるであの日と同じではないか。


いつもオレ様の側にいたあいつら。最後までオレ様について行くと言っていたあいつら。なのに、あの日勇者との最終決戦の日、オレ様の目の前から突然消えたあいつらと……一緒ではないか。




…ま、待て!おい、待て!ジャンピングボーイ、待てと言っているだろう!


だが、ママに連れられて、ジャンピングボーイは鼻を啜りながら、オレ様に手を振った。


待て!ジャンピングボーイ!

待て…良…輔…。



また、オレ様は見限られたのか?!

確かに魔界では…かなり横柄だったかもしれない。

でも結構いろいろ考えていたのだ。ただ上手く…言えなかっただけだ。


今回は何がいけなかったのだ?

オレ様をピィちゃんと呼ぶおまえを無視したからか?

でも、あの名前は…カッコ良く聞こえない。可愛さを強調した名前だから、魔王としては受け入れがたかったのだ。


それともウンチを……寝床でしなかったからか?

でもこれはわかるだろう!どう考えても理不尽なことだとわかるだろう。良輔もトロールもママも、寝床でウンチはしていない。なのに…オレ様にはやらせようとする。やらなければ、綿棒で拷問。


我慢していたのはオレ様だ。

おまえがそれでオレ様を見捨てるのは…可笑しいだろう。


まだ…10日足らずではないか…。

それなのに、もうオレ様を…。


……フン!ジャンピングボーイなどいなくても良い!

だいたい、ジャンプをして話すという奇妙な子供など、こちらから願い下げだ。

また違う世界で、勇者を倒すために体制を整えるのだ!違う世界で!!


そうだ!違う世界で!

…そしてまた…ひとりになるのか…。



カチカチと時計と言うものが刻む音だけが部屋に響く。


ここはこんなに静かだったろうか。


箱の淵に顎を乗せると、ジャンピングボーイたちの居住区が見える。

テーブルの上にはトロールのゴルフというスポーツの本、そのテーブルの側の椅子にはママのエプロン。その椅子の下にはジャンピングボーイの車という小さなおもちゃ。


『ピィちゃん見て!』と言って、オレ様の寝床の横で走らせていた車と言うおもちゃ。


ジャンピングボーイの声がうるさくて、そしてその車と言う物の振動でオレ様の寝床は揺れて…腹が立って文句を言うと、『乗りたいの?』と…わけのわからんことを言う。


ジャンピングボーイはオレ様と通じていると思っていたようだが全然だった…。

でも話しかけてくれて、そばにいてくれて、オレ様を一番にいつも考えてくれて、結構…心地良かった。これからもっと一緒にいれば、本当に心が通じると思うほど、ジャンピングボーイはオレ様の話を聞いてくれていた。


それなのに…もう、諦めたんだな。


箱の中のタオルに体を寄せると、誰かに触れられている気がした。




懐かれるの嫌いだ。

裏切られひとりになった時、文句が言えないから。

裏切ったそいつがいないと…文句が言えないから。


嫌いだ。



どこかに行けるほど、まだ魔力は戻らない。

だが、もうここはいい。


もう、いい。


シーンとした部屋に俺の鳴く声が響いていた。






ピンポン、ピンポン

「…」


「…」


呼び鈴の音と、誰かが誰かを叱る声。


ガチャン。


「良輔!ピンポンしないの!」



良輔?

慌てて、顔を上げると



「ピィちゃん、ただいま~!!」

そう言って、跳ねながら近づいてきたのは


…ジャンピングボーイ。


「良輔!幼稚園から帰ってきたら、なにすんだっけ?」


「手を洗って、うがいをするの。」


「はい、よろしく」


「…はい…よろしくします。」

ジャンピングボーイはそういいながら、どこかへ走っていった。


なにがなんだかわからなくて、ママをみると

「ピィちゃん、少しはゆっくりできた?春休みが終わって、今日から幼稚園が始まったから、さっそく私もママ友とランチしてきちゃった。」


そう言ってママは小さな声で

「これからはお互い、穏やかな時間が増えるね。」


どうやらジャンピングボーイは、朝から15時ぐらいまで幼稚園とやらに行って、居住区にはいないらしい。


…という事は


オレ様は、か、勝手に…見捨てられたと思っていたのか?そして…苦い憂愁を感じていたのか?


…あ…ぁ…ああ…


あの思わせぶりなジャンピングボーイの態度はなんだったんだ!!






「ピィちゃん~!僕がいなくて寂しかった?」


寂しくなどない。


「ぼくね、すっごく寂しかった。」


…そうか…。

なぜだか、鼻がツーンとして下を向いた。

おまえも…寂しかったか…。


良輔…


そう呼んで、顔を上げようとした…ら、寝床が激しく揺れ、オレ様は箱の隅に吹っ飛んだ。



「ピィちゃん~!車に乗る?!」




…乗らんわ!!!


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