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七つの世界とカオス食堂  作者: 赤いオジサン
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亜人に襲われた!?剣も魔法も要らねぇ!〇〇スだ!

良く晴れて朝日の眩しい日。

二人の青年は緑生い茂る近くの森へと山菜採りへと出掛けていた。

背中に背負った篭いっぱいにキノコや木の実、山菜を収穫して自分達の経営する料理店での食材にする予定であるのだったが・・・。


「もう嫌です!二度とあなたと山菜採りには出掛けません!」

「そう言うなよマール。帰ったらお前の好きなビーフシチューをたんまり作ってやるからよ。」


山菜採りに来たはずの二人の男は足場のそんなに良くない森の中を走っている。たまに背中にしょっている篭から食材となる筈の山菜が溢れ落ちようともお構いなくだ。


「帰ったら!?何を呑気な事を!僕たちは今、凶悪なリザードマン3匹に追われているんですよ!」

「相手は二足歩行のトカゲだろ?お前は元兵士だからトカゲくらい何とかしてくれよ。」

「その元兵士が命の危機を感じているからこうやって逃げてるんですよ!」


後ろを振り向くと自分達よりも軽快に二足歩行のトカゲが迫ってきている。三匹とも質の悪そうな銅の剣と盾を携えている。

初級冒険者あたりからくすねたに違いない。


マールと呼ばれる青年はこのままでは追い付かれると判断して山菜篭を地面に置いて腰に携帯していた鉄の剣を引き抜く。


「おい、マールバラ。それは大事な食材だ。捨てていくなんて許さんぞ。」

「どこまで呑気なんですか。ここで迎え撃つのであなたは隠れていてください。もう追い付かれます」

「勝てるのか?」

「僕には秘策があるんです」


マールバラはニヤリと思わせ振りな笑みを浮かべると足場の良い場所でリザードマンを迎え撃つために距離を詰めた。


「まずは速攻!」


先頭のトカゲ男に斬りかかる!

か、遠くから見たのとは違ってリザードマンは結構背丈が高く身長が優に2mはある。

体の大きさに臆したマールの一撃は勢いを欠いて相手の銅の盾で簡単に防がれてしまう。

すかさず二撃目を繰り出すが、今度は剣で弾かれて更に相手のカウンターも受けてしまう。


「うぁっ!?」


胸に鈍器のような銅の剣の一撃が直撃するが、幸い鉄の胸当ての部分だったのでダメージにはなり得なかった。

しかしマールバラにお互いの実力差を認識させるには充分だったのだろう。彼の顔から笑みは消え、焦りの気持ちが沸き上がってきた。


「(ともあれ、早くこの一匹だけでも片付けないと!)」


再び斬りかかるが盾で防がれて反撃が来る。その反撃を避けてもう一度攻撃すると共に、マールバラは奥の手を発動させた。


「(さて、剣戟との二段攻撃に対応出来るかな!?)」


手のひらを前に出してこう叫んだ。


「ファイアーボール!」


手のひらから放たれた火の玉がリザードマンに襲いかかる。

が、それすらも盾で防がれてしまった。


「まだまだぁ!」


火の玉は弾けて大きく燃え上がり、トカゲの体全体を焼き尽くす。


「残りは二匹!」


他の個体にターゲットを切り替えようとしたが、目の前のリザードマンはまだ絶命しているわけではなく、最期の一撃とばかりにマールバラに剣を突き立てて来た。


「何だって?」


彼はそれを肩に受け、ほぽ同時に飛んできた弓矢によって足も射られてしまった。

立ち続けることもできずにヘタリ込むしかない。これは命の危機でもある。


「もう一発、火を出せるか?」


絶望が見え始めたマールバラに声が掛かる。それは戦闘力など無いに等しい当店の筆頭料理人からであった。


「目くらましだ。攻撃に使うな。」


マールバラは頷いて剣を鞘に戻した手で魔法を放つ。


「メギドフレイム!」


今度は火の玉ではなく火炎放射であたりに炎を巡らせる。

と同時に筆頭料理人は鞄から得たいの知れない手の平サイズの玉を取り出して炎のなかに投げ入れる。


「これは?」


すぐに玉は大量の煙を出し始めて辺りの視界は完全に遮断されてしまう。

トカゲが炎で焼ける臭いと真っ黒の煙だけが周囲を支配した。




「お前が戦ってくれたお陰でここが見つかってな。」


煙に巻かれながらも命からがら逃げ込んだのは小さな洞窟。

奥に行くほど狭くなり、20mも進めば行き止まりに差し掛かってしまった。


「でもここ、アイツらに見つかったら逃げ場がないじゃないですか。」

「向こうはあと二匹だろ。お前の魔法で倒せば良い。この狭さなら避けようがない」

「…、撃ててあと一発です」

「冗談だろ!?それじゃあここは俺たちの墓場じゃないか!」


怪我を負ったマールバラを壁を背に座らせると料理人は足に刺さった矢を引き抜いて回復魔法を唱え始めた。


「魔法、使えるんですね。」

「魔力も適正もあまりないから治癒に時間は掛かるがな。まあ紳士のたしなみって奴だ。『お嬢さん、俺とヒールしてかない?』ってな。」

「で、その勝率はいかほどで?」

「お前のリザードマン戦よりも高いことは確かだ。あと、俺が合図したらこれを被れ。」


マールバラは何か帽子のようなものを渡された。



ヒーリングの魔法でマールバラの怪我が完治する頃合いに招かざる客が二匹洞窟内に侵入してきた。先頭のトカゲが二人の前に姿を現すとマールバラは手の平に最後の火の玉を作り出して相手に向ける。


「なるほど、狭い場所なら魔法を避けられずにすむか。考えたな」


甲高い声。その声の主はリザードマンだった。

トカゲ人間は人間の武具を多少扱える程度の知能はあれど人語を話せるほどの頭の良さは持ち合わせていないはず。

追い詰められている二人は大いに驚いてお互いに顔を見合わせてしまった。


「先程はウチの若い衆が失礼をした。先走りすぎて返り討ちにされる低能など要らんが。」

「最近のトカゲは随分とお喋りだな。お喋りついでに言っておくが、俺らに危害を加えず退散するなら今度会ったときに女の口説き方を伝授するぜ。」


先頭のお喋りトカゲが後からついてきたもう一匹を制止させた。

どうも話せるのはこの一匹だけらしい。

料理人もマールバラの腕をそっと下ろさせて魔法を解除させた。


「いや、俺が知りたいのは女の事よりもこの世界についてだ。俺は元人間でな。車にハネられて意識を失ったらトカゲ人間の姿になってこの地にいた。」

「なんだって?」


トカゲの口にした言葉に大きく反応したのはマールバラはだった。


「マール、お前何か知っているのか?」

「いえ、最近流行りの小説の類いにそう言ったのが多くて…。異世界転生モノって言うんですよ。それがまさかこの世界にも?」

「あー、俺もそれは聞いたことがあるな。しかしよもや転生先がリザードマンとはな。人間よりも体は丈夫だから条件としては悪くなさそうだが…」


トカゲの口から思いもよらぬ言葉が出たと思ったが、話にはまだ続きがあった。


「俺だけではない。オークやゴブリンなどの亜人種にも同様の転生者が発生している。俺たちは何のためにこのように生まれ、何を目指すのか…。俺はそれが知りたいのだ。」

「他にも転生者が!?これは大変な事態ですよ!帰って皆に知らせないと。」


相手の言葉に興奮を隠せないマールバラに対して料理人は落ち着き払っている。というよりも、むしろ冷ややかな態度だ。


「漫画の見すぎだろ。」

「えっ!?」

「俺には奴等の殺気と食欲が失せたようには思えんのだが。」


それを聞いてリザードマンはキョトンとした後、ニヤニヤと笑い始め次第に笑い声を高らかに上げていった。


「お前クールだねぇ。殆どの人間がそっちの奴と同じような反応をして後ろからグサリとさせてくれるのによぉ」

「まあそんなところだろうな。異世界転生した所でこの世界には魔王も勇者も居ないから出来ることなんて日々の食欲を満たす位だ。お連れサンのソワソワ度を見ると良く分かる。」

「くそっ、騙したのか!?」

「おめでたい奴らだぜ。この洞窟に敗走した時点でテメーらの実力なんて知れてる。生きる希望に満ちた状態から死の恐怖に叩き落とす様を見たかったんだがなぁ!」

「くっ!」


マールバラは表情を固くして剣を抜いて構えた。


「違うな。お前は間違っている。大いにな。」


料理人が言い放つ。


「マールバラ。さっきのマスクをしろ」

「えっ!?あ、はい」

「俺は別にここに逃げ込んだのではない。そうだな、料理人的に言えば『仕込み』をしに来たんだ。」

「なんだと?」

「そしてそれは充分になされた。あとは、『料理』するだけだ。」

「何を言っている?晩飯になるのはお前らなんだよ!」

「トカゲの肉は鶏と似た食感らしいがどうなんだろうな?まあ、使おうとも思わんし食材に出来ない品質になるから論外だが。」

「野郎ぶっ殺してや…!」


リザードマン二匹の動きが止まった。そして手に持っていた剣と盾がまず地面に落ち、その後膝をついて倒れてしまった。


「えっ!?何!?」


()()マスクを被ったマールバラはキョトンとしながら倒れて動かなくなったトカゲ男達を眺めていた。


「ああ、神経ガスだよ。お前がマスクをしたタイミングで開栓しておいた。」

「何ですか、それ?」

「科学文明の異世界で最も人間を殺している兵器だ。目に見えないので感づかれ難いが外で使うとガスが拡散して威力に信頼性が見出だせなかった。だからこの洞窟に誘き寄せたのさ。」


料理人は鞄から栓の空いた小型のガスボンベを地面に放るとマールバラから剣を借りてリザードマン達の軟らかな首の動脈をかっさばいて絶命させた。


「でも、何でマスクをしていないのに大丈夫なんです?」

「湖で魚をとる内に3分くらいなら息を止められるようになったからな。とはいえそろそろ苦しくなるからここを出るぞ。」


二人は毒ガスの充満する洞窟をそそくさと後にし、外に置きっぱなしにしていた山菜篭を背負い直すと街への帰路についた。



「いやー、危なかったですね。でも毒ガスがあって良かったです。」

「運が良かっただけだ。他にも拳銃くらいはもっていたがあのリザードマンの鱗に通用したかは怪しい。まあ囮役がいたからどうとでもなりそうだったが…。」

「えっ?まさか僕の事!?」

「初級火炎魔法程度を切り札にしている兵士崩れに何を期待するんだ?鼻息荒くして憤ってたから20連射くらいするのかと思ったぞ?」

「普通の人間なら5発が限度ですよ!まったく、もう山菜採りになんて行きませんからね!」

「まあそう言うなって。シチュー作ってやるから。」

「だから僕がシチューの具になるところだったじゃないですか!?」


山菜篭を背負った二人のやり取りが朝の森にこだましていた。

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