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八話「俺、断頭される」

 空は快晴で雲一つなく、その日は雨が降る心配はなかった。村の人々は朝の支度を終え、元気に一日の農作業に向かおうとしている、その最中であった。


「ヒチの村の方々よ。聞いてくれ。ここに罪人メリアの罪を告白する!」


 村の広場に急遽造られた死刑台に俺は首と腕を拘束され、本物の騎士隊長が僅かな部下と共に、大声で喧伝している。俺を見せしめにして極刑にするためだ。


 何故、そんなことをするかと言えば、目当てであったメリア以下二人に逃げられてしまったからだ。まさか追撃の際、馬に乗った騎士二人も殴り殺されるとは思いもよらなかったのだろう。


「罪人メリアはヒチの村にアンデッドを手引きし、領主様の土地を私欲から簒奪しようとしていた。それが大罪であることは言うまでもあるまい」


 演説のわりに、村の人々の反応は冷ややかだ。それは普段から祈りを捧げさせてくれて、病気や怪我の治療もしてくれて、あまつさえアンデッドから村を守っていてくれていたのがメリアだったからだ。


 領主の部下の話とは言え、にわかに信じられるものではない。村人たちは大声で主張しないものの、口々に疑いの言葉を口にしていた。


「疑問に思うのは仕方あるまい。罪人メリアの手口はあまりにも巧妙だったからだ。だが、安心してほしい。その証拠はここにある」


 騎士隊長が死刑台の上にいるアンデット顔の男を指し示す。つまり俺だ。残念ながら、俺は今メリアの罪を偽造するための格好の見世物になってしまっている。


「おお、まさか」


「信じられない。しかしあの男と修道女長様と一体何の関連が?」


「間違いに違いない、修道女長様ご本人がいれば否定されるはずだ」


 それでも村人への宣伝はあまり効果がない。傍目から見れば、アンデッドを捕まえてメリアの悪口を言っているようにしか見えないのだろう。やはり、本人であるメリアがいなければ効果は薄い。


「ぐぬぬぬぬ」


「あきらめた方がいいぜ。俺達が思った以上にヒチの村人の、メリアへの感謝は想像以上らしい。作戦を変えたらどうだよ?」


「黙れ! アンデッドの分際で私に意見をするな!」


 俺はただ無駄口を叩いているわけではない。こうして騎士隊長を怒り心頭にして時間を稼げば、援軍が来る。そう、文字通り街を飲み込むほどの大群が。


 俺は机上の空論で浮かれていると、作戦を見事に打ち砕く出来事が起きた。


「助けに来たぞ、ケント!」


「……到着はまだだぜ、メリア。もう少し状況を鑑みてくれよ」


 俺が落胆する間もなく、村の外れから奪った馬に乗って颯爽とメリアが現れる。ニィモとジルはどうしているかというと、もう一頭の背中に二人で乗っている。


 いくらメリアのような実直な性格とは言え、異常に護衛の少ない死刑台が罠だと判断できないとは、計算に入っていなかった。


「よしっ。包囲せよ!」


 死刑台に駆け寄るメリアを見届けて、村の家々の陰から兵士が飛び出してくる。


「しまった。罠だ!」


 そうだよ。見え透いた罠だよ。


 俺が落胆していると、騎士隊長が死刑台に上がり剣を抜いた。


「待て! ケントはアンデッドではない。ただの病人だ! 彼は関係ない。解放してくれ」


「そうはいかない。この包囲網抜けられるとは思えんが、証拠隠滅を防ぐためにこの男は処刑する」


 ひどい論理だ。ただ単にメリアや村人に対する見せしめを欲しているだけではないか。


「死刑執行!」


 騎士隊長はためらいもなく剣を振り下ろす。すると俺の頭と両腕が見事に寸断された。


「おのれ! 関係ない病人を!」


 メリアが怒りに燃え、死刑台に直行しようとする。


 だがその前に、メリアとその場にいた全員の耳に不自然な地鳴りが聞こえてきた。


「なんだ?」


 誰かが、そう呟くと、音の正体はすぐに見つかった。


 動く死体だ。動く死体が森から村を飲み込む津波のごとく現れる。足は速くなく、小走りする程度だが、既に橋を我先にと渡り始めている。


 数が多すぎ、橋から零れ落ちた動く死体も、水に浮き不規則な遊泳で村側の岸を目指して猛進している。


 これには騎士隊長も兵士もメリアも村人も、皆肝をつぶした。


 だが歴戦の騎士隊長とメリアだ。対応は速い。


「包囲は中止だ! 急いで扇陣を作れ、槍隊は一列目、歩兵は後衛にて槍隊を守れ! 急げ急げ!」


「ニィモ、ジル、急いで村人を反対側の村の外へ誘導して、バラバラに森の中へ逃がしなさい。ここは私が食い止める。急ぎなさい!」


 皆それぞれ思いつく対策でのろまな動く死体が村に到着するまでの間、準備を整える。


 騎士隊長は兵士に扇陣を完成させると、自分をその後方へと配置した。


「アンデッドに槍で距離をとれ、剣を持つものは頭部の切断か手足の切断を狙え、半端な切傷は効果が薄いぞ。

 安心しろ、敵は馬鹿正直に突撃してくるだけだ。訓練通りにすれば例え五倍の差でも勝てる」


 騎士隊長が豪語し、兵士達はなけなしの勇気を振り絞って隊列を維持した。


 そして、動く死体の先端と扇陣が激突する。と思われたその時だった。


 動く死体は急に誘導されたかのように先端を分けて両翼に展開した。


「ア、アンデッドが迂回してくるぞ!」


「い、いかん。円陣を組め。急げ!」


 動く死体は槍の先を避け、扇陣の両端の切れ目に殺到する。両端には後衛の剣を持った兵士が控えており、一時は勢いを抑える。


 けれども、陣形を変えるまで間に合わない。そもそも一度決めた陣形を戦闘中に変えるなどというのは高度な戦法なのだ。斥候として来た彼らにそこまでの力量はない。


 動く死体は両端の槍が向かない場所や、慌てて陣形を変えて穴が開いた場所に殺到する。もうこれは恐慌状態、全軍潰走の一歩手前だ。


「な、何故こんなことに。たかが下級のアンデッドどもだぞ」


「それは俺が直接命令を飛ばして戦略を練ったからさ。それにこいつらはアンデッドじゃない。ゾンビだ」


「な、何だと!?」


 騎士隊長の後ろから、急に声がかかる。振り向くと、そこにはなんと頭と腕を斬られたケントの身体があった。


「おーい、身体。おれはこっちだこっち。」


 ただ声の主は斬られた身体の方ではない。斬られた体の更に後方にいる頭と腕の切れ端の方だ。


 飛ばれた身体は従順な飼い犬のように、頭に向かって飛ぶように走っていく。


「はー、頭を斬られるなんて久しぶりだな」


 俺は腕と頭の切断面に合わせて接着する。接着は案外早く、頭も腕も固定された。


 それを目撃した騎士隊長は更にひどく落ち着きがなくなっていた。


「き、貴様。不死身か―――まさか邪刻の者か? それとも聖刻の者か?」


 邪刻? 聖刻? そんなものに聞き覚えはない。ただ、不死身に近い身体なのは合っている。


 実際のところ、異世界に来る前は頭がつぶれて身体の三分の一を失っても再生することができた。ただし、頭髪の一部は戻ってこず、この身体は復元性にいささか問題があるらしいことも判明している。


 そう考えてみると。トラックに轢かれた程度で果たして俺は死んりするのだろうか。もしかしたら、死んだのではなくトラックにぶつかる。というのが、異世界に転移転生する条件なのかもしれない。これは稀代の大発見だ。


 惜しむらくは、発見した成果を披露するトラックはこの世界にはない。今は、存分にこの異世界生活を楽しむべきだろう。


「だからお前たちも、俺の計画の一部になってもらおうか」


 俺は戸惑う騎士団長との距離を詰める。騎士団長は怖気づきながらも、剣を振るう。


 袈裟に斬られた俺の身体は肩口の鎖骨から肋骨の途中まで裂けた。


 しかし、それでは致命傷に至らない。


 俺は剣が刺さったまま騎士団長の両肩を掴む。そして、うっ血したかのように青く染まった顔面は避け、その首筋に噛みついた。


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