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七話「俺、アンデッドと間違えられる」

 上級アンデッドに勝利したのだのも束の間、ここにきて問題が発生した。


 その問題とは、増えてしまったゾンビの処理だ。もちろん、このまま有効活用すればいいのだけれど、修道院まで連れて帰るわけにはいかない。


 そんなことをしたら、今度は修道院が俺を邪な者と判断して攻撃してくるに違いない。俺はメリアに二度も襲われるのは勘弁してもらいたかった。


 解決方法としては、この四百体と少しのゾンビを、このまま坑道に隠しておくことだ。それが最善策だ。


 俺は万が一にも誰か生者が入って噛みつかれぬよう。ゾンビ全員を休眠状態にしておくことにした。これなら、発見はされても犠牲者を増やす心配はない。


 昔なら、この逆のことを心配していたのに、人生とは分からないものだ。


 俺は独り、坑道から森の中を抜けて墓地へ、更に南下して修道院に急いだ。もう日が昇り始めているからだ。


 このままではもぬけの空のベットを見られてしまう。そうなれば、夜どこへ出かけたか詰問されるに決まっている。


 修道院に着くと、俺は素早く窓枠を越えて部屋の中に舞い戻った。


「ケント。起きてるかにゃあ。起きてるなら、朝食だにゃあ。早く準備するにゃあ」


「お、おう。分かったよ。すぐ行く」


 なんとかニィモが扉を叩く前に部屋に帰りつくことができ、俺は安堵した。


 俺は身体の汚れを軽く落とし、食堂に向かった。そこでは夕食と同じように食べ物が並んでいた。


 ただし、夕食よりもさらに質素で、朝食はパンと水しかない。


「今日はお客様がいらした記念です。いつもは朝食をいただきませんが、特別です。御祈りを始めましょう」


 俺はゾンビ特有の飢餓感に襲われて、アンデッドを少しでも食べておけばよかったと少し後悔しつつ。少ないパンを水に溶かして有り難く朝食をちょうだいした。


 そんな朝食の間、急に修道院の門を強い調子で叩く音が聞こえてきた。


「朝から騒がしいにゃあ。はいはいにゃあ」


 ニィモが門を見に行ったのを見送ると、しばらくしてから閂が開く音と力強く門が開けられる音が聞こえた。


 客人にしてはやけに騒がしい。急用だろうか。


「ちょっと見てきますね。ケントはそのまま食事を続けてください」


 そう言われても、門で何があったか気になって食事が進まない。俺はメリアの勧めを敢えて無視して、門の様子を見るべく席を立った。


 門に向かうために礼拝堂に入ると、メリアと男が言い争っている声が聞こえてきた。


「修道女長メリア、貴様には邪な勢力をヒチの村に手引きした容疑がかけられている。今すぐ、領主様の元へ出頭せよ」


「冗談。あの領主の前に罪人として出て来いと? お断りだ。第一、ヒチの村の人々に訊いてみな。私はアンデッドの蔓延を防ぐために戦った。ここのニィモもジルもだ。援軍をよこさずやっと来たと思えば、つまらない嫌疑をかけて、領主は一体どういう了見をしてるのでしょうか?」


 メリアは初めて会った時のような凄味で、騎士らしき甲冑を着た男と相対している。


 甲冑を着た男も、後ろにいる部下の兵隊たちの手前、何より与えられた任務のため後に引くわけにはいかず。直立したまま、反論する。


「この騒ぎの元凶をいち早く追及するための領主様の命令だ。まさか、領主様に逆らうわけにもいくまい。今、この修道院は百人の兵士が囲んでいる。それに私以外の騎士も馬に乗って控えている。逃げようとは思わぬことだな」


「百人!? 呆れた。その数がいれば私がアンデッド狩りをする必要もないわ。一体そんな戦力が何ほっつき歩いてるんだか!」


「口を慎みたまえ、修道女長メリア。そこまで逆らうならば、ここで捕えるしかあるまいな。ひっとらえろ!」


 わっ、と。メリアの元に、門外で控えていた部下の兵士達がなだれ込んでくる。


 メリアは槍を向けられても逃げようとはしない。その後ろにはニィモが隠れているからだ。


「ちょ、ちょっと待ってくれよ」


 俺は壁に飾ってあった鼻の短いペストマスクのような仮面を顔に装着すると、壁に掛けられていたフードを目深に被り、槍の穂先へ跳んでいった。


「ケント! 下がっていてください。これは修道院と領主の間の問題です!」


「俺の計画では、そうもいかないんだよな。それに女性のピンチに動かないのは男の恥だろ」


 甲冑を着た男は珍妙な格好をした乱入者に少し驚いた様子だったが、すぐに調子を取り戻した。


「何者にしろ。領主様の命令を阻むならば死刑と同罪だ。槍隊! 突け!」


 槍を持っていた兵士は甲冑を着た男の命令を受け、躊躇なく俺を刺してきた。


 五本の槍が、俺の胸や腹に突き立てられる。


「ケ、ケント!」


「っ! 大丈夫だよ。この程度怪我のうちにも入らない。しかし―――」


 俺は五本の槍を抱きかかえると、肉に刺したまま持ち上げる。兵士たちは力を入れて握っていたにも関わらず、槍を取り上げられ唖然としていた。


 五本の槍を束ねて引き抜くと、俺は吠えた。


「領主の命令とはいえ、一般人を刺すとはどういう考えをしてやがる。手加減しろよ!」


「こ、こいつ不死身か!?」


 甲冑を着た男は流石にうろたえた。目の前で槍に刺されても揺らぎもしない存在を見せられては、その反応は至極当然だろう。


「メリア様、ニィモ。受け取れ」


 ジルが遅れてやって来て、後ろから二人に武器と防具を渡す。ジルも既に鎖帷子に身を固めており、手にはハンマーを持っている。


 メリアは防具を装備してメイスを、ニィモは防具を着て二振りのナイフを煌めかした。


「さあ、どこからでもかかってくるにゃあ!」


「ケント、独りでは戦わせませんよ」


「お、おう」


 いつもたくさんと独りで戦ってきた俺にとっては、それはありがたい言葉だった。けれども、俺が今腐った脳内で考えている作戦は、それが最適解ではない。


「じゃなくて、ここは任せてくれ。三人はどこかに逃げて、体勢を立て直してくれ」


「しかし、それでは」


「ここでは多勢に無勢なんだ。後で助けに来てくれれば四人とも助かる可能性がある。今は、一点突破して逃げ切ってくれ。追撃は俺が引き受ける」


「……わかりました。ただし、必ず生き残っていてくださいよ。ニィモ、ジル!」


 メリアを先頭に三人が食堂に入る。続いて、裏口を蹴り破る音が響く。その音に、甲冑を着た男も兵士も我に返った。


「し、しまった。追いかけろ!」


「そうはいかないな!」


 五本ある槍のうち、四本を投げかけて牽制する。最後の一本はそのまま手元に残して、俺は兵士の集団に飛び込んだ。


 兵士はまだ新たな槍を構えてはいない。俺は兵士を素通りして、まずは指揮官らしき甲冑を着た男を仕留めに行く。


「と、止め―――。がああっ!」


 俺は手に持っている槍を短く持って、甲冑を着た男の鎧の隙間に槍先をねじ込む。槍は見事に首へ刺さり、そこから鮮血が飛び散った。


「ああ、伝令がやられた!」


 兵士の言葉に俺は舌打ちした。なんだ。ただの伝令かよ。


 俺はすかさず、その伝令の鎧を脱がし、首筋に噛みつこうとした。


 けれども、それは無数の槍衾によって防がれる。


「―――クソッ! 数が違う」


 俺の身体はそのまま槍衾で地面に押し付けられ、身動き取れなくなった。


 その衝撃で、フードと仮面が外れてしまう。


「こいつ、顔を見ろ! アンデッドだ。やはり修道女長は邪な勢力と通じていたぞ!」


「俺はアンデットじゃ、クソッ! 邪魔なんだよ。この槍」


 何度か槍を叩きつけられ、それでも死なないと判断した兵士たちにより。俺は身動きが取れないよう、拘束されてしまった。


 作戦とはいえ、散々な仕打ちだ。後で必ず後悔させてやるぜ。


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