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二十二話「俺、防衛をする」

 城の尖塔から邪な勢力の軍勢が見えたのは、楽しい晩餐を食べた次の日の朝の事だった。目測で到着は後十時間ほど、こちらの場内がゾンビ達の最終準備で忙しくなる。


 敵は大部隊だ。丘の稜線の端から端まで蟻の大軍のごとく湧き上がってくる。敵の兵士は遠目でも槍を掲げ、旗を振り。その黒いシーツはこちらの城に至ろうとしていた。


「こちらは六百と少し。向こうは――」


「ざっと見でも三千はある。こちらの五倍か」


「……今からでも逃げる気は?」


「ない!」


 俺とメリアを含む五人は城壁の上で敵の様子を伺う。敵の大軍を見たニィモは縮み上がり、ジルとリズは緊張しているようであった。メリアは戦争慣れしているせいか、少しも動揺が見られない。


 俺に至っては、ゾンビになってから戦いにためらいを持つということを忘れてしまい、いつも通りにしていた。


 敵の様子を遠目に眺めていると、向こう側に動きがあった。俺の弱視でも空に変化があるのがわかる。蚊柱のような群体が無数、こちらに向かってくるのだ。


「ケント、敵のワイバーン部隊だ! 目測でも百はいる!」


「よし、迎撃態勢だ」


 ニィモとジルは空中の戦いはできないので下がってもらう。リズは弓で対空をしてもらうために残り、メリアは戦況判断のため残ってもらった。


 ワイバーンの軍勢は悠々と飛び、城から三百メートルほどまで近づいてきた。


「バリスタは各自獲物を狙え! テンシゾンビはビームで迎撃だ!」


 俺は直接命令と半随意命令を使い分け、ワイバーンを狙わせる。命令通り、バリスタの矢が射出され、光線が空を翔ける。


 ワイバーン達は部隊を散開させ、次々と空の攻撃を避ける。その間にもワイバーンは城壁の上に差し掛かる。


 至近距離で見たワイバーンはただ兵士が騎乗しているだけではない。ワイバーンも兵士も鉄の鎧を装着し、ワイバーンの脚には綱で何かを吊り下げていた。


「火薬樽と岩だ。ケント、リズ、気を付けろ!」


 そうメリアが警告を飛ばした時、火薬樽が城壁内の広場で炸裂する。あるいは岩が降って来て、不運なゾンビを押しつぶしすりつぶし、転がっていく。


「そこっ!」


 リズが城壁に低空で向かってきたワイバーンへ、矢を射かける。矢は空を裂き、見事ワイバーンの片目を射抜いた。


 目を射抜かれたワイバーンは痛みで方向を見誤り、城壁に激突して上に乗せていた兵士と共に絶命した。


 そうしてワイバーン部隊は搭載していた火薬樽と岩を落としつくすと、敵の大軍勢へと帰還していく。


 その後もワイバーン部隊がありったけの物を城に落としてきたが、こちらもやられっぱなしではない。


 俺は城外と城内に堕ちたワイバーンをゾンビ達に感染させるよう命令し、三体のワイバーンゾンビを得た。どのワイバーンゾンビも飛べなくなるほど翼を損傷してはおらず、これを反撃に用いることにした。


 ワイバーンは身体が小さい故、ゾンビは五体ほどしか載せられない。それでもワイバーンゾンビ三体で合計十五体のゾンビを敵へ送り出す。これで敵の軍勢にゾンビパンデミックを起こせれば混乱は必至だ。


 ワイバーンゾンビからの空挺ゾンビは一定の効果を得た。ゾンビ達は五十人ほどの敵兵を感染させ、一部敵の行動をかく乱した。しかし、敵の軍勢も対策は早い。火が弱点だと判明しているのか、すぐさまゾンビ達を火だるまへと変えていく。


 ワイバーンゾンビもいつの間にか墜とされており、奇襲はあまり成功とは言えなかった。


 敵はワイバーンゾンビの出現で敵に攻撃手段を増やすことを危惧したのか、ワイバーンの出陣を控えた。代わりに、敵軍は本格的な包囲をすると共に武装した豚のような種族を出してきた。


 メリアによれば、それは豚科ローテイル族というらしく、邪な勢力で代表されるローテイル族であるそうだ。


「アンデットは出してこないんだな」


「それは、こちらの聖なる土魔法の結界で近づけないのでしょう。シャイさんの言った仕掛けの一つが役に立ったようだ」


 豚のローテイルは梯子と丸太だけを持って城壁と城門に殺到する。俺は城壁の敵には丸太と石を、城門には煮え湯や煮え油を注ぐように指示をする。効果は一定量あり、敵の侵攻は遅くなった。


また、敵が梯子の中腹まで昇ってきたところで、秘策の一つを披露する。


「杭出せ!」


 俺の号令と共に、城壁の仕掛けが作動する。杭が梯子を割り、登っていた敵兵を地面に叩き落とした。


 火も傾いてきた成果、その日の戦闘はそこまで。城壁に登れた敵兵は一兵もおらず、後方へと撤退していった。明日はこうもうまくはいかないだろう。




 次の日、攻城二日目、援軍到着まで後、五日。


 敵からはカタパルトによる岩や火薬樽の投射の他、一日目と同じように豚科ローテイル族が城門と城壁に殺到してきた。


 一日目と違い、梯子と丸裸の破城槌だけではなく、テストゥドと呼ばれる荷車に破城槌を収めて城門に向かってくる。また、荷車の屋根には鞣した革が張りつけられ、火が点きにくい工夫がされていた。


 こちらは煮え油に火を点けて浴びせかける。だがその程度では荷車を燃やすことはできなかった。


「ならこちらは秘策二つ目だ!」


 俺はシャイに教わった松脂と油の混合物を使うことにした。これは元々、中々落ちない油を兵士に張り付けるものだが、ここでは荷車を燃やすのに使う。


 混合物を掛けると、黒いその液体は松脂のおかげか屋根に張り付いて落ちない。そこに松明で火を点けると、油なので燃え始めた。油は流れ落ちないので、燃えにくい革でも延焼し始めた。


 城門が守られたことに安心していると、遠くから不穏な影が映った。


 それは三メートルほどの巨大な生物だ。一つ目に一角を持ち、赤い肌に毛は少なく、人のような手と馬蹄のような脚を持っていた。


「あれはビックリム! あれだけの数を持ってくるなんて」


「何だ? やばいのか?」


「あれは前線突破用だけではなく、城門破壊のための生体兵器だ。門が壊される前に酒を用意しろ」


 メリアが言うにはあのビックリムという生物は火に強く、煮え油を掛けても怯みもしないそうだ。その代わりに、酒で簡単に酩酊するらしく、戦場でも前線にすぐ酒が行き渡るように常備されるほどらしい。


「酒はまだある! ゾンビ共」


 俺はゾンビに命令を飛ばし、倉庫からワイン樽を持ってこさせる。それを、城門を叩き始めたビックリムの上に全て浴びせてやった。


 効果は抜群で、ビックリムは尻もちをつき、眠りこけてしまった。戦場であるのにずいぶんと図太い奴だ。


 その隙に、リズがたった一つの目を射抜き。ビックリムが暴れて敵の陣地を荒らし始めた。


 敵陣が混乱しているうちに、こちらも新しい作戦を実行させる。その名も<特攻ゾンビ軍団>だ。


「落とせ落とせ」


 ゾンビ達は丸太と石を投げる調子で同胞のゾンビを豚科ローテイル族の上に落とす。ゾンビ達を使い捨てる城壁からの片道切符だ。


 城壁に殺到している豚共の肉のクッションもあり、ゾンビはそのままの状態で送り届けられた。豚共は味方に押し合わされ、逃げはない。落とされたゾンビ達は豚共の鎧の合間から出ている余計なぜい肉を噛み、豚ゾンビを増やし始めた。


「よし、これで」


 だが敵の反応はまたしても早い。後続の人間の兵士達は長槍でゾンビ化した豚をせき止め、味方ごと炎の魔法で粛々と処理している。


 そのあまりの数に、城壁の上には香ばしい肉の臭いが漂い始めた。


「あ、これ焼き肉の臭いだ」


 俺は生前数少ない焼き肉を食べた思い出を想起した。確か、家族と食べたのが最後だったはずだ。ただ一年ほど前の事なのに、家族の顔が思い出せなかった。


 ともかくゾンビの特攻作戦は敵兵を減らしたものの、こちらのゾンビの減りも速い。特攻作戦は一時中止となった。


 城壁の上での攻防、城門の前でのビックリムと破城槌の接近を阻止していると、傾いていた日が地平線に沈み始めた。


 それを合図にするように、その日の敵軍は後方へと下がり始めた。


「丸焼けになった死体は、使えないな。死体を選別してゾンビ共に処理させないと」


 二日目の攻防はそうして何とか防ぐことができた。


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