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二十話「俺、賢人と出会う」

 二度目のテンシとの遭遇は、そんなに時間がかからなかった。


 後を追ってきたのかもしれない。テンシは身体を蠕動しながら、門のすぐ目の前まで迫っていた。


「薬品を試す。炎で動きを止めてくれ」


「分かった」


 メリアら四人で油の瓶をテンシにぶつけ、それに松明を投げ込む。すると、テンシは驚いたように火の点いた身体を悶えさせる。ノートにあった通りだ。


「まずは、何だこれは? 濃硫酸か。いけっ!」


 俺は濃硫酸の瓶をテンシにぶつける。テンシは濃硫酸を受けると、白い煙を上げて更にのたうち回る。


「効いたか?」


「いや、これは」


 だがテンシの反応はそれだけだった。肌が焼けただれた様子はなく、傷ひとつない。薬品や炎で傷つかないのか、こいつは。


「次、次はアンモニア。アンモニア!? まあ、仕方ない」


 俺はアンモニアの瓶を投げつける。割れた途端、周囲に強烈な悪臭がまき散らされる。


「臭いにゃああああ!」


 その中でも鼻が良いのか、ニィモが床に転がる。


 当然、嗅覚に優れた俺も頭をひどくバンキングさせて、臭いに耐えている。


「つ、次!」


 俺はその後、科学的な知識がなければ知らぬような名称の薬品や、異世界限定そうな薬品の名前を覚えながら、次々と投げ入れていく。


 けれども、どれもテンシの肌を傷つけられない。ただ周囲に悪臭や刺激臭のバリエーションを増やしていくだけだ。


「クソッ! 全部使い切っちまった。効きゃしないぞ!」


「それよりも、少し炎の勢いが強くないか?」


 メリアが指摘する直前に、ニィモが油の瓶を更に追加していた。


「にゃあ?」


 炎の勢いが増していく、これはもう軽い火遊びではない。火事だ。下手をすれば、実験室まで火が延焼しかねない。


「水! 水う!」


「分かった」


 ジルとリズが実験室まで戻って、水の入った木のバケツを担いで戻ってくる。そういえば、実験室には井戸があったのだ。そこから水を汲んできたようだ。


 水で消化を始めると、それが火の中を突き進んできたテンシにも掛かった。


「あっ」


「じゅわわわわ!」


 すると、テンシは水が蒸発するような叫び声を上げて黒い煙を上げたのだ。


「まさか、水が弱点?」


 試しにジルが水を掛けると、またテンシは声を上げ、溶けている。肉も柔らかそうになっており、これなら歯が立ちそうだ。


「十分だ。後は俺が」


 俺は前進して、テンシに噛みつく。


 今度は、テンシの肌をスポンジのようにくしゃりと食むことができたのであった。




 地下室のテンシに弱点の水を掛け、ゾンビ化により灰色のテンシが三十体ほどに増えた。


 テンシゾンビを操ってみたところ分かったことだが、最初に唱えていた魔法は聖なる音の魔法と聖なる光の魔法というものだった。テンシは魔法の失敗のせいか、大量の魔力を保有しているらしく、遠距離攻撃は申し分がなかった。


「これなら相手がドラゴンを用いてきても撃ち落とせるな」


 俺はうきうきしていた。今度こそ、空を飛ぶドラゴンを手に入れて空を翔けるつもりでいるからだった。ゾンビが空からやってくるなんて、夢が溢れる光景ではないか。


 きっと、それは敵方にとっては悪夢になるだろう。


 俺達五人はそうして地下を進んでいく。地下のテンシはほとんど狩りつくしたようで、先ほどから影も形もない。もしかしたら全滅したのかもしれない。


 そうして奥へ、奥へと向かうと、初めて地下の部屋に行き当たった。


「何の部屋でしょうか」


「もしかしたら、ダンジョンのご褒美。お宝部屋か」


 俺はあまり注意を払わず部屋の中に侵入した。


 部屋に入ると、俺は松明で照らした。そうすると、向かい側の部屋の隅に白い姿を見つけたのだった。


「テンシか?」


「いや、私はそれとは別物だよ」


 白い姿は返事した。よくよく見れば、そいつは白い肌に長すぎる手足を持った人型の存在だった。見間違えたのは、そいつが膝を抱えて小さくなって座っていたからだ。


 また、こちらを見ている顔は落ちくぼんだ眼をしており、高すぎる鼻、広すぎる耳は人間離れした特徴であった。


「何者だ」


「私はシャイ、孤独な男だよ」


 俺はシャイという名前に聞き覚えがあった。確か、錬金術師のノートにあった知恵者の名前だ。


「そんな頭のいい奴が何でここに? 迫害されているのか」


「いや、私はすすんでここにいるのだよ。私はここを動くつもりはないし、話すことしかできないからね」


 俺はもっとシャイという男に近づくべく、部屋の奥へと進もうとした。


「止めておいた方がいいよ」


「――ぶぼっ!」


 俺は突然空気に激突した。それは見えない壁のようだ。俺はシャイにそれ以上、近づくことができなかった。


「これは私の呪いのようなものでね。光と音以外は私に近寄れない。私には空気も、水も、食料もいらないからね。孤独なこと以外は大して困らない」


「部屋から出ようとは思わないのか?」


「私はこの孤独を愛していてね。それに非干渉主義なのだよ。外のことについて関心はない。外から訪れる客は、大事にしているがね」


「どのくらいここに?」


「千年を過ぎた頃から数えるのはやめてしまった。君たちのような客人が現れたのも何年振りか。何百年ぶりか分からない。部屋のシミの数だけでは、日数を数え切れなくてね」


 シャイは寂しそうにも楽しそうにもせず、退屈なことのように話した。


「もし帰るなら。部屋を出て右側壁に右手を付いて帰るのがいいだろう。そうすれば複雑な迷路を迷わずに帰れるはずだ。私の覚えている限りね」


 シャイはそう親切に道を教えてくれた。


「待ってくれ。部屋から出ないと言っていたが、この城は邪なる勢力に攻められるんだ。助けてくれないか」


「助けたいのは山々だが、私は部屋を出るつもりはないし。そうだ。実験室の隠し倉庫を知っているかい。城の秘密の通路も教えようか。城の数ある仕掛けも教えよう。何なら防衛に適した兵器の作り方も教えよう。他には――」


「分かった! 長くなりそうなら髪とペンを用意するから待ってくれ」


 俺達は地上に戻ると紙とペンを用意させ、シャイの言葉をまとめた。


 シャイは物知りだった。俺も現代知識に精通しているので博識のつもりだったが、シャイのそれは実用的な知識だった。


 肌に取り付くと離れにくい油の作り方。バリスタの造り方。投石兵器のより精度の高く強力にする方法。また城の秘密通路、脱出通路、結界魔法の発動方法などなど多岐にわたるものだった。


「そういえば」


 シャイは一通り話した後、こんなことを訊いてきた。


「アンデッドのような君、君はここの世界とは別の世界からやってきたようだね」


「――! 分かるのか」


 ニィモとジルとリズは何のことかわからぬような顔をしていた。


「君には魔法の臭いを感じてね。こちらの世界に来るには、向こう側で正確な結界術を作るか、ある種の手続きをとる必要があるのだよ。君の場合珍しい。君からは空間を割るような強い力が作用したようだね。普通なら、死んでもおかしくないはずだよ」


 それはトラックに轢かれたことだろうか、やはり異世界トラック説は正しいようだ。


「もしよければ、私が元の世界に戻してあげようか」


「できるのか?」


「ああ、こう見えても私は時空間魔法に精通していてね。人間程度なら好きな場所、時間、別世界に送れる。まあ、それがわざわいしてこんな身体になってしまったようなものだがね」


 俺はその提案に心を動かされるものがあった。けれども、最初の頃から気持ちは変わっていない。選ぶことは決まっている。


「ありがたいが、あいにく俺はこの世界でやりたいことがあるんだよ。元の世界とは別の、俺の力を制御した新しいやり方を試したいんだ。だから帰ろうとは思わない」


「……そうか。それならいい」


 シャイはそれ以上、言葉を続けなかった。


 俺達はシャイとの会話を終えると、新しい戦力となったテンシゾンビを連れて、地上へと戻った。


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