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十九話「俺、テンシに出会う」

 それはスライムのような白い肉塊であった。羽を模した突起物があり、人の顔を思わす三つの穴、軟体生物のような這いずり回る足がある。肌はぬめりとした鈍い光を反射させ、こんにゃくのようにも見える。


 口らしき穴からは、シューシューと蒸気のようなものが漏れ出し、あたかもこちらを威嚇しているようであった。


「これが、テンシ……?」


 人の顔のようなものをした得体のしれない生物に攻撃を躊躇っていると、先に動いたのはテンシの方だった。


 独り言のように口を動かしたかと思うと、光の球が現れたのだ。


「っ! やばい、散れ!」


 俺の言葉に縦の隊列になっていた皆が左右に跳ぶ。その瞬間光の球が炸裂した。


 炸裂した光の球は一筋の光線と変わり、避けた俺の横をかすめていく。危ない。隊列を崩していなければ、全員直撃するコースだった。


 しかしこれでテンシの敵意はマックスであることが分かった。次はこちらからだ。


「仕留める!」


 俺は牙を剥き、真っすぐとテンシの身体に向かう。ためらいはあるが、テンシの肌に齧り付いた。


「――何だこれは」


 歯が感じたのはテンシのゴム質の肌であった。弾力があり、伸び縮みして上手く噛み千切ることができない。これでは感染させることができない。


 俺が四苦八苦していると、テンシに動きがあった。


 またボソボソと話したかと思えば、今度は空気がたわむような高音が耳を貫いたのだ。


「う、うるさ」


 俺はつい口を離し、耳を押さえてしまう。その隙を逃さぬとばかりに、テンシは肉を伸ばして俺に向けて叩きつける。


 その動きは緩慢であるが、後ろに跳んで逃げた俺の前を通り過ぎ、地面を割った。


「離れて!」


 リズが声を上げ、胸を張って弓の弦を引く。放たれた矢は外れず、テンシの額らしき場所を射止める。


 けれども貫通はしない。これもまた硬く柔軟な肌で跳ね返されてしまう。


「ターンアンデッド!」


 メリアが呪文を唱えて除霊の術を唱える。しかしこいつはアンデッドではないようだ。白い光に包まれるも、微動だにしていない。


「にゃにゃにゃあ!」


「潰れろ」


 続くようにニィモとジルが、それぞれ斬撃と打撃を繰り出す。これもまた丈夫な肌の形を変形させるばかりで、効果がないように見えた。


 こちらの持ち札が全く効かないことに、俺達は驚き慌てる。


「撤退、撤退しろ!」


 俺の号令で皆は後方へ退避する。そのまま、テンシの遅い足も幸いして、最初の実験室のような部屋まで逃げることができった。




 扉に閂をかけなおし、俺達は作戦を練り直すことにした。


「傷さえつけられれば、そこから歯が通ると思うんだが、どうしたものかな」


「こちらの攻撃が効かない以上、からめ手が必要だ。例えば火とか――」


 メリアは実験室にある薬品棚に視線を移す。


「薬品とかだな。そういえば、ここが実験室ならテンシの記述が残っていたりしないのか?」


 俺の言葉に、皆はなるほどと納得した。そして、手分けして手掛かりとなりそうなものを探すことにした。


 家探しをしてみると、書き物机の引き出しから一冊のノートを見つけた。どうやらここにいた錬金術師のもののようだ。


 俺はページをめくり、その記録を読んだ。




 ――テンシ、と言ってもその実像は皮肉の塊である。弾力のある肌は刃も槍も通さず、一匹を城の外に誘い出して重質量で押しつぶすことでやっと倒すことができた。


 また、火を恐れるようで火炎樽の使用を試みてみた。しかしテンシは怯みはしても、火によって滅することができなかった。


 城の多くの者はテンシを閉じ込めることを主張している。だが、私はこの地下室奥底にいるシャイという謎の知恵者に会い、錬金術の教えを請いたい。


 私は最後の手段として、薬品を使ったテンシの除去を行おうと思う。




 日記の末尾には、こう書かれており、続きはなかった。


「失敗、したんだろうな」


「けれども薬品による効果は記述されていない。試す価値はあるでしょう。念のために油の瓶も持っていきましょう。牽制にはなるはずだ」


 俺達は実験室で準備を整える。幸い油もたっぷりあり、薬品は数多く残っていたので問題はなかった。


 最終手段として、束ねた丸太を城外に設置し、万全の備えはできた。


「では行きましょう」


 メリアに促されて、俺達は地下室へ二度目の挑戦をするべく、向かった。


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