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十六話「俺、城を攻める」

 領主の城に着いた俺は、まずゾンビの軍団を、百体ずつ四つに別けた。そして領主の城を完全に囲み、攻城に必要な装備を支給して、到着した次の日の朝には一斉攻撃を開始した。


 領主の城は八メートルほどの城壁で守られ、深い堀と複雑な土手で壁に張り付きにくく造られている。その中には約三百人の兵士がひしめき合って、城の守りに備えている。


 大してこちらは四百体のゾンビとワイバーンゾンビと数人の生者、城攻めには些か数が足りないように見えた。


「援軍が来る前に、城を落とせるでしょうか」


 メリアはゾンビ達の後ろでメイスを片手に、心配そうにしている。メリア自身、幾度か城を攻めた経験があるのだろう。今の戦力の少なさを嘆いている。


 実際、ゾンビ達は城攻めに難儀している。元々歩みが遅い上に、足場が悪いのだ。そのうえ、頭上からは矢が雨のように降り。ゾンビがそれで動けなくなることはないものの、侵攻は更に遅くなっている。


 そうしてやっと城壁の根元にたどり着いても、壁の上から今度は石が降ってくる。これにはゾンビも頭を潰されるか、身体を欠損されるかして動けなくなってしまう。


 苦労して梯子を城壁に掛けても、登るのがこれまた遅い。なめくじのように這いずりあがっても、城壁の上から簡単に梯子を外されて地面に叩きつけられてしまうのだ。


「城壁の方はともかくとして、門の方は上手くやってるんじゃないか? ほら」


 城門の方に目を移すと、ゾンビ達は破城槌の丸太を上手く運んでいる。城門に接近すると、順調に叩き始めた。


 ただしそれもすぐに止む。城門の仕掛けで上から燃えた油が注ぎ込まれ、乾燥したゾンビを燃料として丸太がよく燃えたのだった。


「……」


「ダメみたいね」


 遠目から見たところ、門は木造に金属の板が張られたもので、松明の火程度では燃えそうにない。ワイバーンゾンビの火炎放射ならば、時間をかけて燃やせるかもしれない。ただし、ワイバーンゾンビ本人が城門の仕掛けで燃えなければである。


 俺は考えあぐねた末、一度ゾンビ達を後方へ退かせることにした。


 俺は急遽、それぞれの城門を観察していたニィモ、ジル、リズを戻して作戦会議を開いた。


「あの城に弱点はないのか?」


「無理だわ」


 最初に口を開いたのはリズだった。


「奇をてらっていない造りだから奇襲や奇策も使えない。城を落とすなら単なる数の勝負になるわ。高さもあるからこちらからの矢も届かないわ。お手上げね」


 俺はニィモとジルを見た。


「こっちも無理そうだにゃあ。軍事の専門じゃないから分からないにゃあ」


「横に同じ」


 俺は絶望的な意見を聞きつつ、腕を組んで考えた。


「こうなったら一か八かワイバーンゾンビを出すか。しかしこいつを失うとこちらには切り札がなくなる。乱暴に出すわけにはいかない。かと言って他に戦法がないわけだし――」


 俺が考えあぐねていると、横でメリアが口をはさんだ。


「ケント、ここは陣を引き上げて態勢を整えるのも考えた方がいい。今のままでは兵数が足りていない。悪戯にゾンビ達の数を減らしても勝ち目がないじゃない」


「うぬぬぬ……」


 俺が腐った頭を無理に回転させていると、ニィモがこんなことを言い始めた。


「せめてあの高い壁が歩いて越えられるほど、低ければにゃあ」


「それは無理。そもそも壁がない城なんてない」


 俺はニィモの言葉にピンときた。ゾンビが映画やゲームで壁を越える時はどうしていたか、思い出したのだ。


「それ、いけるぞ」


 俺は自分で思い描いた作戦に、頬をほころばせた。




 ゾンビは死を恐れない。それは比喩ではなく、意思がない死そのものだからだ。それを利用する。


 作戦はこうだ。


 ゾンビに丸太や梯子を持たせて、ただがむしゃらに壁に向かわせる。それだけだ。


 ただ一つ違うのは、俺がこう命令するのだ。


 城壁の前に死体の山を築けと。


 例え火であぶられようと、石や丸太を落とされた肉塊に変わろうと、その結果ハエに苗床にされてウジの住まいになろうとも、シロアリの蟻塚のように天を目指せと。


 その命令を、俺は四方にいるゾンビを一方面に集め、一か所に集中させた。


 この作戦は諸刃の剣だ。ゾンビ達の消費が早く、失敗すればもはや城を攻めることはできない。しかし、それを差し引いても行う価値のある断行だ。


 ゾンビは何度も何度も死体の山を転がされ。上にのしかかったゾンビに圧壊させられても、波のように群がり、頂上を目指す。


 結果、ゾンビ軍団の半分の犠牲を払い。目の前の城壁には円錐を半分に割ったような道が切り開かれた。


「よし、血路は開かれた。俺はワイバーンゾンビと共に出る!」


 城壁の上の敵兵は何とか越えてきたゾンビを槍や盾で防いでいる。そこに巨大な影が迫る。


 俺はワイバーンゾンビの上に乗り、八メートルある城壁を悠々と乗り越えた。これには槍や盾では防げない。城壁の隊形はあっという間に崩された。


 城壁の通路には魔法使いらしきローブを着た者の姿もあった。けれども撤退する兵士の波に飲まれて、上手く演唱を唱えることができないようだった。


 その間に、俺がワイバーンゾンビに指示を出して、魔法使いを火だるまに変えてしまった。


「城門を開けろ! 波を途絶えさせるな、味方を増やせ! 勝利は目前だぞ」


 減ったゾンビは増やせばいい。殺して殺して、増やせばいい。


 噛みつき、かみ砕き、怨嗟と悲鳴を飲み込み。死の行進曲は門内に響き渡る。城門はゾンビによって開かれ、あるいは兵士自ら門を開いて逃げ出し、勝敗の帰趨は決した。


 後は領主の首を貰い受けるだけだ。俺はワイバーンゾンビから降り、血肉の残飯に彩られた道を悠々と歩いて城内に入場した。


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