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一話「俺、墓場に降り立つ」

 俺、つまらない人生に軽く絶望している。名前はケント、冴えない男だ。


 学校での生活もダメダメ、出会いもなければ冒険もない。成績も中の下、部活には入っていないし、趣味もネット掲示板を荒らす程度の男。彼女無し、友達もいない。


 そんな俺の人生が一変したのはある日、ゾンビパニックが起こり、ゾンビに噛まれた時だ。


 俺は他のゾンビと違い、意識が消えず理性もあり、考えることができた。


 そこで俺はピンときた。ならばこのゾンビパニックを、ゾンビとして満喫してやろうと。


 俺は自分の能力を測った。まずはゾンビとしての身体能力、これは他のゾンビと同じく高い膂力があり、他のゾンビと異なって走ることができた。


 更に意識を飛ばせば他のゾンビを操り、集団戦法も待ち伏せ戦法も自由自在と知って、俺は有頂天。それから次々と生存者を捕らえ、食み、感染させ。ゾンビパニックは増大していった。


 俺は一人、得意げになっていた。


 そんな時、俺は不運にも生存者の運転していたトラックに轢かれてしまった。




「散々じゃねえか」


 俺は死んだ。いや、ゾンビである状態を死んだというなら、既に死んでいるのだが、もう一度死んだと思った。


 少なくとも、トラックに轢かれて意識が暗転した時、そう思った。けれども状況はそうでもないらしい。


 ここはどこだ。俺はいつの間にか、アスファルトの上から冷たい地面の上に倒れていた。


「ここどこだよ。俺は都会のコンクリートジャングル育ちの都会っ子だぜ。こんな自然あふれる場所なんて来たこともないよ」


 辺りを見回すと、近くに大きい石があった。よく見れば、それには文字が刻まれている。


「シンジー・B・ロメロ。ここに眠る?」


 文字は見たこともない。少なくとも英語で書かれたものではないのに、俺は文字の意味を理解することができた。何故だかは分からない。


 だが、俺の脳細胞はぴかりと光った。トラック、見たことのない場所、見たこともない文字、なのに理解できるその理由。


 俺は異世界に来てしてしまったのではないか!


 俺は全身を見る。それが正しいなら、俺はゾンビではなく、生者に。


 戻ってはいなかった。


 どう見ても、身体は一部腐っており、嗅ぎなれた死臭がする。着なれた擦れた洋服を着ており、俺はトラックに轢かれる以前の姿をしていることが分かった。


 よくよく見渡せば、石と思っていたのは上手に彫刻された墓石であった。他にも墓石が整然と並べられ、ボロの木柵とうっそうとした森が見える。


 どうやら、ここは人里離れた墓地のようだ。


 俺は愕然とした。これではただゾンビの死体として墓地に捨てられただけではないか。そして見慣れないスペルが分かるのも、ゾンビとしての特殊能力が一つ増えただけなのかもしれないのだ。


 俺はそれでも異世界にきた、という一縷の望みを捨てず、立ち上がった。

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