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0-8 出会い りていく

 ――目を覚ますと、そこには知らない天井が広がっていた――


 という言い回しはそこらのWeb小説やライトノベル等以下略それ以外に自分の置かれている状況を説明する表現を思いつかなかった。


 どこだ、ここ。


 その知らない天井は薄黒い青の石のようなもの……ではなく、どこか暖かみを感じる木の板であった。

 俺は、ベッドで横になっていた。そのベッドはとても高級感満載とは言い難かったが、それでも体を温かくして眠るには十分だった。

 部屋は全体的に質素な感じ。ベッドと小棚とランプと窓以外これといったものは見当たらない、必要最低限のものは揃えましたよというザ・客間みたいな印象を受けた。小棚の上には水の入った桶が置いてある。

 窓の外を見ると、まだ日の出ている時間帯で、雪は降っていたが吹雪いてはいない様子だった。


 ……生きてる。

 あのとき、男たちに殺されなかったどころか介抱してもらったのか……。


 なんだか疑わしくなり、アニメとかラノベでよくやってる、生存確認の動作をしてみた。

 まず目をこする。そして目をひらく。うん、さっきと景色は変わらない。

 続いて頬をつねる。うん、痛い。

 そして自分は何であったか思い出してみる。俺はミヤブチ・ケント、22歳、大学生、靴のサイズは24.5。それ以外のことは覚えてない。

 ……うん、生きてる。


 痛いといえば、そういえば傷はどうなったんだ?

 微妙に骨折してたような気がしてたが、今は普通に動けそう。

 ベッドから出て、少し動き回ってみた。

 背中と右腕にあった噛みつき傷は、跡こそ残っていたものの、ほぼ塞がっていた。全身のすりむき傷も少しヒリヒリするけれどほとんどなくなっていた。

 動いてみた感じ、巨大ネズミとの戦闘後みたいな全身の痛みはすでに消えていた。あと、なんかとろけそうな感じも今はない。


「誰かが治療してくれたのかな……」


 だが、根本的な問題は残っている。


「やっぱり、ここはどこだ……?」


 そう呟いた瞬間、別のことが気になり始めた。


「そういや、あの青髪ポニテはどうした?」


 巨大ネズミとの戦闘で共闘したあと、気を失ってしまった少女のことが気になりだした。確か男たちの中にいた少年が持って行ったような……。あのときのやりとりは意識が朦朧としていてあまりよく覚えていない。

 

 そもそも、あのダンジョンを出てからどれくらいの時間が経ったのだろうか。誰が治療してくれたのか。わからないわからないわからない尽くしである。


 とりあえず、この狭い客間にいても問題の解決にはならないので、一回外に出てみるか。

と思ってドアを開けたら、ドアの前には人がいた。


「―――――――!?」

「……どうしました?」


 シスターみたいな格好をした若い女性がいた。年齢は20代くらいだろうか。深緑がかった長髪が特徴的である。そして濡れタオルを持っている。


「―――――! ――――――!!」


 彼女は少し嬉しそうに言ったあと、急いで部屋を出て行った。


 濡れタオルを持っていたということは、彼女が介抱してくれたのだろうか。しかし、あの女性は一体何者なんだ……。相変わらず言葉通じないし。


 人間がいることが確認できたから、少し待ってみようか。そう思って客間で少し様子を見ることにした。さすがにここがどこだかわからない言葉通じないで勝手にやって生きていける自信はない。さすがに向こうから何かしらのアクションがあるはずだろう。うん。我ながら受け身でゆとりである。


 そして、しばらく待っていると、客間のドアが開いた。

 そこには、知ってる顔があった。


「―――――――――!!」

「あれっ、なんで……ってちょっ、まっ、うわっ!」


 例の青髪ポニテ少女である。が、今は髪をおろしているのでポニテではない。じゃあなんて呼べばいいんだ。青髪少女か。

 彼女は嬉しそうに叫んだあと、こちらに抱きついてきた。


 女の子に抱きつかれるなんてたぶん生まれてこのかた初めてではないだろうか。

 なんかドキドキする。ムズムズする。なんだろうこのむずがゆい気持ち。それになんかいい匂いがする。


「――――――! ――――!」


 彼女はなおも嬉しそうにはしゃぎ、語気を強めてくる。


「ちょっ、えーと、こういうのどうしたらいいんだ?」


 そんなシチュエーションに出くわしたことがない俺は動揺する。


「ま、まあ、そんなに心配してくれてたのかな、えーと……。と、とりあえず、そっちの調子は大丈夫?」

「――――――! ―――――――!」


 ほとんど会話になっていない言葉のドッジボールである。


 ……まあ、なにはともあれ。


「ありがとう」


 とだけ言った。

それに対し、彼女は怪訝な反応をする。


「アリガ、トゥー?」


 うん? なんか変なこと言ったかな?

 彼女は俺を指したあと、


「――――――、アリガトゥー?」

「アリガトゥー、――――――――――??」


 と、アリガトゥーをしきりに会話に組み込んでいた。

 ちょっと待て、こいつ俺の名前アリガトゥーだと思っているだろ!


「ストーーーーーップ!! 俺の名前はアリガトゥーではない!」


 手も首も横にブルンブルン振り回して全否定。取れそうなくらい振った。

 どうやらこの世界でも首を横に振るのは否定の意ととらえられるらしい。たぶん。

 彼女は手を振りながら、


「―――――――? アリガトゥー?」


 たぶん、「アリガトゥーではないんだね?」って言ったっぽい?

 その後、彼女は俺を指し、質問した。


「――――――?」


 短い質問であった。もちろんなんて言っているのかはわからない。

 だが、質問の意味は話の流れからなんとなくわかった。


 俺は、姿勢を正し、呼吸を整えてから、短く返した。


「ケント」


 そう、俺の名前は……。


「俺の名前は、ケント、だ」


それに対して、彼女は、


「ケント? ――――――ケント?」

「そう、俺はケントだ」


 そして、俺は彼女を指し、こう言った。


「君の名前は?」


 彼女は一言だけ返した。


「アリッサ」


こんばんは、gechosenです。

ここまで読んでくださってありがとうございます。

今回にて第0章「青の神殿」編は区切りとなります。

ようやく地上に出た主人公ですが、この先何が待っているのか。

この先もお付き合いいただけると嬉しいです。

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