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0-7 舞い踊る蒼い弾丸

 腕輪を外した少女は、確かに白い光に包まれていた。

 そして、


「―――!」


 少女が手を突き出し、念じるように短く叫ぶと、4本の何かでできた弾丸のようなものが少女の手から突然生まれだし、突進してくるネズミに高速で向かった。

 そして弾丸はネズミたちに直撃し、奇声と血飛沫をあげたあと、絶命した。


 ……一体何が起こっているのか。

 見ている自分も、訳がわからない。

 そのとき、少女は俺に向かって


「――――――! ―――――――――――!」


 と叫び、俺に手を伸ばした。

 その手を握ると――俺の体も、白い光で包まれた。


「魔法か? お前、魔法使いだったのか?」


 もちろん返事はない。

 とりあえず状況を整理しようと思ったそのとき、部下を一時的にではあるが再びすべて失った巨大ネズミが、叫びながら突進してきた。

 それを俺は、普段なら避けていたはずなのに、鉄パイプで防ごうとしているのだった。


 自分でも一体何がおこっているのかわからない。

 なぜ俺は鉄パイプで防ごうとしていたのか……。

 しかし、力を込めた鉄パイプによって巨大ネズミの突進は止まり、そしてしばらく拮抗したが、さらに思い切り力を加えると、巨大ネズミははじき返された。


 ドカーン。

 巨大ネズミが壁にぶつかり、すさまじい音と衝撃が発生する。

 巨大ネズミが倒れたと同時に、少女は再び詠唱し、ネズミの体に大量の弾丸を叩き込んだ。

 そして俺も、巨大ネズミに鉄パイプを叩き込む。


 体が、軽い。

 先ほどまで感じていた痛みも、どこかへ吹き飛んだかのように消えている。

 そして力が普段の自分とは完全に桁違いになっている。

 巨大ネズミの突進に鉄パイプで対応しようものなら、普段だったらこちらが吹き飛ばされていたはずだ。しかし、俺は逆にヤツを吹き飛ばしたのだ。

 ……これが白い光の正体か?

 今の俺たちなら、あの巨大ネズミを倒せるかもしれない。


 倒れていた巨大ネズミは、また叫んだ。

 そして横穴からネズミの援軍が登場。青とピンクが4体ずつ。

 すかさず少女は詠唱し、8つの弾丸を作る。そして、ネズミに向けて撃つ。

 ピンクにはすべて当たったが、青はさすがに上位種なのか2体撃ち漏らした。

 そこへ俺が鉄パイプを叩き込む。普段なら数発入れないと倒れない青ネズミが一撃で絶命した。


 さらにたたみかけるように、立ち上がり攻撃しようとしてきた巨大ネズミの足下を鉄パイプでなぎ払う。

 巨大ネズミは再び倒れ、俺は倒れたネズミの喉元に鉄パイプを突き刺す。

 巨大ネズミは絶叫。しかし、まだ死んでいない。

 右脚を倒れたままのネズミに掴まれ、放り投げられた。

 壁に激突。だが、不思議と痛くなかった。

 そこへ、少女がさらに詠唱すると、今度は巨大な刃のようなものが生まれ、ネズミのもとへ向かっていった。

 そしてその刃は、倒れているネズミの喉元へ炸裂した。


「ガアアアアアアアアアアァァァァァ!!」


 巨大ネズミはさらに絶叫した。悲鳴は部屋中に響いた。喉元からは大量の血が噴き出している。


「やったか!?」


 しかし、巨大ネズミは重たそうにしながらも再び立ち上がった。


「くそっ、あれでまだ生きてるのかよッ!」


 そこへ少女が、


「―――――、―――――!!」


 と必死そうに叫んでいた。

 よく見ると、少女を包んでいた光は薄くなっていた。

 つまり、時間切れか。

 俺の方も、体がだんだんと重くなっていくような気がした。


「早く、しないとっ!」


 俺が巨大ネズミに鉄パイプを叩き込もうとした瞬間、巨大ネズミは最後のあがきをせんと咆哮した。


「ギエエエエエエエエエアアアアアァァ!!」


 巨大ネズミが咆えた瞬間、横穴からまたもや新手の二足ネズミが登場。

 その数は、青とピンクを合わせて……30以上。

 これは、まずい。


「――――――!!」

「くそっ、数が多すぎる!!」


 ネズミの群れは俺と少女に殺到した。

 少女は最初の弾丸の魔法で、俺は鉄パイプでなぎ倒していくものの、数が多すぎてさばききれない。

 白い光の効果はまだ続いていたが、それも時間の問題である。

 このままでは――



「―――――!!」

「―――――――、――」

「――――!?」


 3人の子供の声がした。

 振り向くと、手前の部屋でネズミの大群と戦っていた3人の子供が部屋に入ってきた。

 手前の部屋では、大量のネズミの死体が転がっていた。そのグロテスクな光景に思わず吐きそうになったが、なんとか抑えた。

 3人は……ところどころに傷はあるが、どうにか無事みたいだ。


「お前ら、無事だったか! よかった!」


 そして3人はピンクや青のネズミどもを短剣で切り裂き始める。うちのアホ毛少女が俺と青髪ポニテ少女に向かって、


「―――――――!――――!!」


 と巨大ネズミを指して叫ぶ。


 俺と青髪少女はお互い振り向き合うと、無言でうなずいて、巨大ネズミの方へ向き直る。


 少女がまず詠唱し、弾丸の雨を巨大ネズミの目に向かって撃ち付ける。そして、視界を失った巨大ネズミの足を俺が鉄パイプでなぎ払う。

 このとき、発狂した巨大ネズミの腕が俺の頭を直撃した。今までは感じていなかった痛みを感じるようになってきた。

 早くしないと……だが焦るな……焦りは事故死のもとだ……。

 誰から聞いたのかわからない言葉を思わず呟いていた。


「食らえええぇッ!!」


 そして巨大ネズミの喉元に鉄パイプを突き刺す。巨大ネズミは意地を見せんと抵抗する。

 ――だがその抵抗はもう無駄だ。俺は少女の方へ向く。


「――――――――――――!」

「いっけええええええええ!!」


 少女は刃を放ち、巨大ネズミの喉元に直撃する。


「グオオオオオオオオオオオオオオアアアアアアアアアッッッッ!!」


 巨大ネズミは盛大な断末魔の叫びをあげたあと、沈黙した。



 ……。

 勝った……のか……?

 3人の子供たちも30以上の青やピンクのネズミをすべて切り終えており、横穴から援軍がくる気配はない。


「よっしゃあああああああ!! 勝ったぞおおおおおおお!!」


 4人は驚いたような顔をしていたが、うち青髪少女をのぞく3人も、


「――――――!」

「―――――、――――――!」

「―――――――!」


 と、興奮をあらわにした。


 そして青髪少女のほうを向くと、まだ白い光をかすかに保ったまま


「――――――」


 と言い、手をあげてきた。

 それに俺も手をあげると、


 ――パンッ!


 ハイタッチ。言葉が通じない中での無言の連係プレイがうまく決まった瞬間であった。


 そして青髪少女は脱力気味に


「――――――――、――――」


 と何か言うと、膝から崩れ落ちるように倒れ、意識を放りだした。


「っておい、大丈夫か!?」


 もう何度も言ってそうなセリフを口にする。返事はない。

 他の3人の子供たちも心配そうに見ていたが、近づいて確認してみると、呼吸はあった。

 倒れているというよりは、眠っているような感じだった。


「よかった、生きてる。……お疲れ」


 とボソッと呟いた。近くで見ると、活発そうな印象とは裏腹にどこか凜とした雰囲気もあってわりと可愛いな……いや、いかんいかん、俺はロリコンではない。見た感じ中学生くらいなので、ロリかどうかは微妙だが、それでも子供っぽいやんちゃな雰囲気はまだ残っている。


 青髪の少女の体からは、白い光はもう消えていた。


 ……ん? 待てよ?

 彼女から白い光が消えているってことはつまり……



 知らぬが仏。気づかないほうがいいことも世の中にはある。


「いってぇ!! 背中とか右腕とか噛みつき跡ばっかりで痛い! 頭も殴られた感じのガーンとした痛みがひっどい! あと鉄パイプ持ってた両手も地味に痛い! そして全身にすりむき傷があって風吹いたら死んじゃう! 骨も何本かやられてるっぽい! まあ普通に歩けるからまだなんとかなるけど全身痛すぎて死にそう! 助けて!」


 言葉が通じないのをいいことに、俺は叫びまくった。

 子供たち3人は、呆れた目でこっちを見ていた。



 巨大ネズミの喉元に刺さっている鉄パイプを引き抜くと、鉄パイプは真ん中から真っ二つに折れた。


「お前も、ここまでありがとうな」


 なぜか自然と手に馴染んだその鈍器は、役目を終えたかのように散った。


 そんなことをしていると、アホ毛の少女が俺のシャツの裾を引っ張り、入ってきた方とは反対側の扉を指した。

 他の2人の少年も、準備完了とばかりに短剣を手に持ち上着を着て待機している。

「あそこに行けば、出られるのか?」


 返事はない。ただ、アホ毛少女はうなずいているような気がした。

 眠っている青髪少女を負ぶって、扉へと向かった。


 扉を開くと、直線の上り階段があった。

 一応、青髪少女を背負っている俺を中心にして、3人の子供たちが短剣を持って輪形陣で敵襲に警戒した。

 果たして敵はこなかったが、その上り階段は今まで上ったどの階段よりも長く感じた。

 そして階段を上り終わった先にはやはり扉。だが、扉の外からは風の音が聞こえる。


「やっと、外に、出られる……」


 扉を開けると……


「うおっ、さみぃ!!」


 外は吹雪いていた。風が傷口にしみる。すごく痛い。

 外には見渡す限りの草原が広がっていた。雪は少ししか積もっていなかったが、まさに真冬の寒さであった。長袖Tシャツにジャージズボンの軽装ではかなりキツい天気であった。そういえば、子供たちもわりと厚着してたな。戦闘中は脱いでたけど。


 直後、3人の子供たちが一斉に叫ぶ。


「――――――――」

「――――!! ――――!」

「―――、―――――!?」


 そして、走り出した。


「おい、ちょっと待て……って、えっ!?」


 向かった先には、人間の大人の男が10人くらい。と、中学生くらいの少年がひとり。それぞれ斧や(なた)(くわ)やボウガンといった武器を持っている。

 男たちは、全員俺を警戒するような目で見ている。少しでも変なことをしたら殺すぞ! というような目で。

 ……えっ、ちょっと待って、ダンジョンから脱出できて晴れてハッピーエンドじゃあないんですか!?


 中学生くらいの少年が、俺のところに駆け寄り、


「――――――!! ―――――!」


 と、何か言ったあと、俺が背負っている青髪の少女を引ったくるようにして持って行った。


 そして、大人の男たちのうち、真ん中にいる40代くらいの男が、


「―――――――――――――!!」


 と何か叫んだ。

 それを皮切りに、他の男たちもいろいろと言い出す。内容はわからないが、そこに怒気や殺気の類いが含まれているのはわかった。


 やっぱり殺されるんですか。

 もう戦いたくないです。さっきのネズミ共との戦いで疲れました。ほら、傷だらけでしょう? こんなのひねり潰すなんて造作もないですよ。武器もさっき壊れちゃいましたし。

 そういえば、体がさっきからやたらと熱い。こんなに吹雪いていて、凍てつくような寒さなのに、まるで今にもとけてしまいそうなくらい。不思議だなぁ。

 あと、こっちきてから何も食べてないからおなかすいたなぁ。喉も渇いたなぁ。

 ああ、もう疲れた。


 そうして俺は、吹雪く草原の中で意識を放り投げた。


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