表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
5/20

0-5 ネズミの猛撃

 子供たちと遭遇した部屋を出たあとも、迷路のような道は続いていた。

 いくつもの分岐、行き止まり、そして二足ネズミ。そろそろうんざりしてきた。

 ダンジョンといえば宝物だろう普通。それか特殊能力がもらえる秘伝の書とか。

 そういう類いのものは今のところ一切見当たらず、ひたすらネズミネズミネズミ、である。


 手足が緑のホイッスルネズミであるが、ヤツは普通のネズミに比べるとどうやら戦闘力は低いらしく、1対1ならば運動音痴な俺でも十分アドバンテージを取れる相手であった。

 そして少女の忠告(?)どおり、仲間を呼ばれる前に仕掛ければ、頭が悪いのか本能なのか、仲間を呼ばずにこちらに対応してくれるため、普通のネズミよりも楽だったりする。


 じゃあ実践編だ、と言わんばかりに普通のネズミとホイッスルネズミが2体同時に俺の行く手を阻む。

 道すがら何体ものネズミを撲殺して本来の輝きを失った鉄パイプに力を込め、迷わずホイッスルの方へ振り下ろす。

 普通のネズミが襲ってこようとするのを左足で牽制しながら、ホイッスルへ一撃を叩き込む。

 ホイッスルも抵抗しようとしてくるが、さすがにその見た目に違わない小動物のような攻撃に怯むほど俺も柔じゃない。

 叩き込んだ鉄パイプから鈍い音がし、ホイッスルが動かなくなったのを傍目で確認しながら、ホイッスルに向けて振った勢いをそのままに普通のネズミの方に鉄パイプを横に薙ぐ。

 普通の方はホイッスルほど甘くはない。抵抗してくる力は先ほどの何倍もある。

 横薙ぎ攻撃ははじき返され、相手がこちらに飛びかかってくるのを鉄パイプを横にして防ぐ。

 そして、はじかれて相手が一瞬怯んだその隙に、これまでにネズミを殺してきた経験と、あの小部屋で子供たちが見せた短剣術を思い出しながら――鉄パイプを喉元へ差し込む。


「キイイイイイイィィィィィ!!」


 普通の方のネズミは断末魔の叫びをあげたあと、沈黙した。

 ビクトリー。ケントの勝利である。

 だがゲームの世界ではないので、アイテムやお金はもらえないし、もちろんレベルも上がらない。経験値は……目に見えない形で入っているのだろう。たぶん。実際、ネズミを相手にするときの手際は初回のそれよりもだいぶよくなっていた気がする。


 ――殺すことに慣れていくのか……。

 何か複雑なものがあったが、何もしないと殺されるのはこちらである。これも仕方のないことなのだ。そう思うことにした。




 その後、10分は経ったであろうか、相変わらず迷路のような廊下を進んでいくと、その終点に大扉があった。

 扉を開けてみると、そこは何度も見たような上り階段。今までの直線の階段とは違って今回は螺旋階段であったが。

 また上がるのか……と思いながら階段に足を向けていると、上の方からなにやら音がした。


「ん? なんだ?」


 階段を上っていくにつれ、音は大きくなる。

 そしてその音は――獣の奇声のような音と、人間の悲鳴のような音、そして金属音。


「さっきの子供たちがネズミと戦っているのか?」


 とはじめは軽い気持ちだったものの、音はやまないばかりか、獣の奇声はいっそう大きくなり――というか数が増え、それに対応して金属音も増えていく。

 なにやらただならぬ事態が発生していると感じた俺の足取りは自然と速くなっていた。


 階段を上りきった先には、扉。

扉を開けると、生け贄の祭壇から出て最初にたどり着いた大部屋と似たような部屋が広がっていた。

 違うのは、入ってきた扉の他にはあるのは正面に1つの大きな扉だけ……と、横側の壁にはまるで後から無理矢理掘られたような穴がいくつかあったこと。

 そして、階段の下から聞こえてきた音の発生源が、部屋の奥の方にあった。


「おい、大丈夫か!?」


 通じるはずもない言葉を、思わず叫んだ。

 先ほどの巻き髪少年が、ネズミ5体を相手に戦っていた。

 いや、戦っていたのは巻き髪少年だけではない。アホ毛少女とすりむき少年の姿もあった。

 それぞれ、複数のネズミを相手にしていた。


「――――――!!」


 一番近くにいた巻き髪少年が叫ぶ。もちろん何を言っているのかはわからないが、必死さは伝わってきた。

 3人とも短剣を手に持ち、それぞれネズミの喉元を掻き切っているのだが、ネズミの数が多すぎて対応しきれてない。


 巻き髪少年に向かって、3体のネズミが同時に襲いかかる。


「うおりゃああ食らえッ!!」


 俺はそれを後ろから、1体を鉄パイプで叩き落とし、1体を足で横から蹴りつける。

 そして3体目は少年の短剣の中に飛び込んでいった。


「――――――――!」


 巻き髪少年は叫ぶ。

 やはり内容はわからないが、俺は一言「おう!」とだけ言うと、今度は4体を相手にしているアホ毛少女のもとへと向かった。

 少年のところにはまだ2体いるが、あの手つきなら大丈夫だろう。


 同じように、少女が一度に相手しているネズミの半分を引き受けて、対応する。

 さすがに2体なら自分でも相手できる。

 1体を横薙ぎで振り落とし、もう1体は足で牽制したあと縦振りで頭に鉄パイプを叩き込む。

 そして少女のところにいた4体のネズミもすべて撃破し、2人が安堵したのもつかの間、少女が俺の後ろを指さして叫ぶ。


「――――――――――!!」


 後ろを向くと――ネズミが2体、俺に奇襲してきていた。


「あっ、やべっ」


 ネズミの牙が俺に向かおうとした瞬間、いつの間にか自分の前にいたネズミ5体を片付けていたすりむき少年が2体のネズミを背後から同時に短剣で切り落とした。


「――――――! ―――――――!!」

「うわっ、あぶねえッ! サンキュッっと!」


 当然お互い意味は通じてないが、こちらが感謝の意を述べると、向こうもうなずいているような気がした。


 だが、喜ぶのはまだ早いとばかりに、部屋の横穴から新手のネズミが入ってきた。

 その数、8体。

 うち2体は手足が緑のホイッスルであった。


「―――――」

「―――、――――――!!」


 巻き髪とすりむきの2人が短く言葉を交わしたあと、すぐにホイッスルの方へ駆け寄る。

 それを妨害しようと襲いかかった他のネズミを、俺と少女で対応する。


「――――!」

「キエエエエエェェェェ!!」


 ホイッスル2体は瞬時に絶命し、2人の少年がこちら側に加勢してくる。


「しかし、見事な連携だなッ。普段から、こういうこと、してんのかッ?」


 ネズミを相手にしながらそうぼやいていたとき、あることに気づいた。


 ――青髪ポニーテールはどこだ?


「おい、そういえばあいつはどこだ!?」


 通じるはずもないのについ出てしまう言葉。

 だが、それで何か察したかのように、アホ毛少女が俺の長袖シャツの裾を引っ張って叫んだ。


「―――――――――!!」

「えっ!? なに!?」


 少女は俺が入ってきたのとは反対側の扉を指していた。

 そしてさらに叫ぶ。


「―――――――、―――――!」

「あそこにいるのか!?」


 ――ったく最年長がなんで先に行ってんだよ……という考えは、次のやりとりで消えた。


 ネズミ第2波を凌ぎきったと思った瞬間、横穴からさらに新手が6体。

 俺が鉄パイプを構え直した瞬間、少女は再び扉を指して叫んだ。


「――――――!」


 そして少年2人も俺に向かって、


「――――!」

「―――、――――――、――――」


 3人の目は、助けを求めるそれだった。

 青髪ポニテはあの奥で戦っているのか……。


「んじゃ、ちょっとここ頼むぞ!! お前らも気をつけろよ!!」

「―――――――――!!」

「――――!」


 子供たちの声を背中に、扉へ向かった。

 ――おいおい、ここは任せて先に行けは死亡フラグだぞ。まあ、たぶん俺より手慣れてるから大丈夫だと思うけど。

 ボソッとそう呟いた俺の声は、無限湧きしてくるネズミ相手に子供たちが奮闘している音の中へと、消えていった。




 扉の先には、生け贄の祭壇と同じくらいの巨大な円形の部屋が広がっていた。

 そして、そこに青髪のポニーテールの少女はいた。


 ――少女が相手をしていたのは、形や大きさは今までのネズミと同じであるが、全身が青い二足ネズミが6体。

 そして、人間の大人ほどはあろう巨大な紫の二足ネズミだった。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ