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0-4 出会い

「……子供?」


 部屋の奥には、4人の人間の子供がいた。

 ひとりは青い髪をポニーテールにした中学生くらいの女の子だ。そこそこ肉付きがよく、どこか活発な印象を受ける。自分とは大違いだ。

 だが俺が彼女に目がいったのはそこではない。その手である。左腕に、ずっと見ていると思わず吸い込まれてしまいそうな深紅の宝石がはめてある腕輪のようなものを付けている。

 そして、その両手は白く光っていて、他の3人の子供のうちのひとり――小学生くらいの男の子の膝の上へと掲げられている。

 

 青髪の少女の手を膝に掲げられている男の子は、今にも泣きそうな顔をしている。どうやら膝をすりむいているようだ。

 残りの2人は、小学生くらいの男の子と女の子がひとりずつ。どちらも訝しげな目でこちらを見てくる。


 俺が扉のところでドッタンバッタン大騒ぎしていたので、おそらく最年長であろう青髪少女も手の発光を中断してこっちに振り向いた。


 ……えーと、こういうときってなんて声をかければいいのかな?


 久しく人間とまともに会話した記憶がないので、どう話しかければいいのかわからない。

 それも初対面の人間で、年下で、かつ異世界人ともなればなおさらである。


 とりあえず敵意がないことを示したいので、持っていた鉄パイプを床におろして、両腕を上げて、


「やあやあご機嫌麗しゅう、ところでどうして君たち子供がこんなところにいるのかな?」


 うん、我ながらこれはないと思った。

 実際、子供たちは全員頭にクエスチョンマークを浮かべている感じだった。


「え、えーと、こ、コンニチワ」


 とりあえず挨拶してみるものの、相変わらず反応に乏しい。


 そのうち、膝をすりむいていない方の男の子――巻き髪が特徴的――が、言葉を発した。


「―――――――――?」


 それが引き金となって、他の3人もしゃべり始める。


「――?」

「――――、―――――」

「―――――――」


 ちょっと待って、何言ってるか全然わかんない。


「えと、ゴメン、何て?」


 それに対して、


「――――――――――」


 どうやらこの世界では日本語が通じないみたいだ。

 そういえば、祭壇にあった結晶からもらった情報、あれ全部英語だったような……。

 この世界の公用語は英語なのかな?

 

 ということで、今度は英語で話しかけてみる。


「えーと、は、Hello! I’m Kento and why are you here now? (やあ、俺はケント、んでどうして君たちはここにいるのかな?)」


 我ながらアレな中学英語である。

 ……やはり反応はうす……いや、よくわからない言語を話している俺を見て、4人の視線はいっそう厳しくなった。


「―――――!!」

「――――、―――――――」

「――――――――」

「――――――――――――」


 ちょっと、そんな目で私を見ないでください。ワタシアヤシイヒトジャアリマセン。

 よく聞くと4人の話している言葉は日本語でも英語でもない何かだった。

 ええい、わからん! こうなったら知ってる言語を手当たり次第言ってくか。


「こんにちは! ハロー! ぐーてんもるげん! ぼんじゅーる! ニーハオ! どぶりじぇん! ボンジョルノ! だんけだんけ! すぱしーば! ナマステ! あろーはー! イッヒビンスチュデント! チクショーメ!」


 ……傍目で見たら絶対頭おかしい人に見えるだろう。俺が向こうの立場だったら絶対通報している。

 だが、俺が言ったどの単語にも目立った反応がない。

 異世界転移ものの言語って、なんかこう、謎の技術によってなぜか知らないけど通じるようになっているか、それか言語翻訳的なスキルがあって、最初から異世界人とは普通にコミュニケーションを取れるようになっているというのがお約束だった気がするのだが。まあ、そうでないと物語が全く進まないというブラックな大人の事情が背景にあったりするのだろうけど。


 4人の視線はますますキツくなり、ついに、アホ毛が特徴の小学生くらいの女の子が叫び出した。


「―――――――――――――――!!!」


 それを皮切りに、男の子2人も叫び出す。


「―――――――!?」

「―――――――――――――!!?」


 そして、青髪ポニテ少女が3人の前に立って腕を横に広げ、3人をかばうような姿勢で俺に言った。


「――――――!! ――――――――――――!!!」


 その殺気に圧倒され、俺は思わず両手を上げたまま後ろへ下がる。


「いや、襲ったりしないよ! さすがに子供から何か巻き上げようなんて俺もそこまで人間として終わってないよ!!」

 

 通じないことはわかっていながら、思わず口に出る。

 そもそも向こうが何て言ってるのかわからないし。


 そのまま後ずさりしていると、自分が入ってきた扉に背中がぶつかる。

 すると扉越しからシャアアアアだのキイイイイイだの奇声が聞こえる。


 あっ、ネズミ。

 子供たちとの会話(?)ですっかり忘れてた。


 そのとき、扉からドンッという衝撃がきたあと、扉が開いた。


「「「「「!!??」」」」」


 どうやらネズミの群れが強引に扉を破ったようである。


「うわやっべえ、ネズミどうすればいいんだ!?」


 とうろたえる俺をよそ目に、子供たちは扉を破られたその瞬間こそ驚いていたものの、次の瞬間には、膝をすりむいていた男の子以外の3人が腰のベルトに付いていた鞘から短剣を取り出し、二足ネズミの喉元を1つずつ丁寧に裁いていた。


「おぉ、すげぇ……」


 先ほどまで自分が全力ダッシュで逃げていたのがアホらしく思えてきた。そのくらい、3人の動きは洗練されていた。

 そして、気がつくと部屋の入り口にはネズミだったものが13個、大量の血の海の中に転がっていた。

 思わず吐きそうになるが、我慢する。子供たちの手前、いい大人が吐くのもみっともない。

 が、やはり死体は何度見ても慣れないものである。


 その後、青髪ポニテ少女がすりむき少年に何か言ったあと、すりむき少年は立ち上がり、4人は部屋を出て行こうとした。

 そのとき、青髪ポニテ少女は一瞬だけ俺のことをジーッと見たあと、


「―――――――――!?」


 と話し、床に転がっているネズミの死体の1体を指して、


「――――――――――、―――――、――――――――――!!」


 と叫んだあと、4人は部屋をあとにした。


 はぁ……。

 休もうと思ったけど、結局それはかなわなかった。まあ、ネズミが片付いたからよしとするか。片付けたの俺じゃないけど。


「そういえば、最後に青髪ポニテが指してたネズミって、ホイッスルみたいな音で他のネズミを呼び寄せたヤツだよな。1体だけ微妙に違うし」


 よく見ると、例のホイッスルネズミだけ手足が緑だった。

 そして、最後に少女はこう言ったんだろう、「このホイッスルネズミは見つけたら仲間呼ばれる前に殺せ」と。


「それにしても、あの3人……もしかしたらすりむき少年もかもしれないが、随分手慣れてたなぁ。一体どんな生活してるのやら」


 思わずため息が出た。


 まあ、


「とりあえずこの異世界が恐竜時代的なアレで知的生命体がいないとかいう最悪は免れたかな。まあこんな建築物がある時点でその可能性はある程度排除できたんだけど。しかもその知的生命体も俺らと同じような人間だったし。どこの世界でも生物の進化はおんなじ様な感じなのかねぇ」


 などと相変わらずくだらないことをぼやいたあと、


「しっかしどうしたもんか……。これからどうやって生きていくか。あの子たちもザ・野生児って感じだったし。うまくやっていけっかなー。言葉通じないみたいだしなぁ」


 と、途方に暮れそうになったが、


「ま、それもこれも、とりあえずここを出てから考えるか」


 青い石でできているこのダンジョンの、出口はまだ見えない。

 床に転がっている鉄パイプを拾って、俺はまた歩き出す。


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