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風の王  作者: zan
47/50

最初の一手

 イルは帝国を倒すことを目的としていない。全ての帝国兵を殺せば、それで満足なのだ。

 一方ハンナは、軍だけではなく帝国そのものを滅ぼすと決めている。そのためには帝国兵のみを殺していては間に合わない。民間人をも殺さねばならなかった。

 罪もない人を大勢殺すということだが、構わない。自分が奪われたものを奪い返すだけのことであり、誰に非難されようが知ったことではなかった。それに帝国自体にもう、愛想が尽き果てている。

 つかえるものは何でも利用する。なんでもやる。

 ハンナはそう決めていて、卑怯と言われようが外道と言われようが、構わないと考えている。

 必要なら。覚悟は決まっていた。


 やがて、帝都の上空へきた。

 イルもカイも、帝都へはかつて来たことがある。そのときは殺戮と宣戦布告のためだった。

 あのときに破壊した帝国軍司令部は修理もされず、そのまま放置されていた。


「その廃墟に降りてもらっていいかな。ちょっとくらい乱暴に降りてくれてもいい。あの瓦礫がたぶん、ちょうどいいクッションになる」


 と、ハンナが言う。イルは聞き返した。


「そんなことをしたら、目立ってしまうけれど。偵察というのは、こっそりするものじゃないの?」

「ああ、大丈夫。イルたちは前にもここに来て大暴れしたんだよね? 同じ失敗をするほど帝国もばかじゃないから、空の見張りはしっかりやっているだろう。

 だから、私たちがやってきたことはたぶんもう、気づいている。呼び鈴代わりに地面を揺らすくらいはしてあげようじゃないか」


 ハンナの返答に対して頷き、カイに伝える。

 意を受けたカイは廃墟へ向かって降りて行った。ほんの少し前までは帝国軍の本営だったところだ。そこへカイは、遠慮などしないでどすんと降りた。

 竜からすれば少しばかり乱暴に降りた、という程度のつもりだった。

 しかし帝都で暮らす人間たちからすれば少しばかり、などというものではなかった。たいへんな地響きが鳴った。衝撃が大地を突き抜け、片付けられてもいなかった瓦礫は浮き上がって周辺に散らばった。ひとかけらが自動車一台よりも重い欠片がだ。吹き飛ぶ瓦礫だけで何人も直接的に死傷した。

 叩きつけられた地層も黙っておらず、振動が帝都を襲った。地震が起きた、と帝都は大騒ぎになる。いくつかの老朽化した建物が崩れ、新しい建物の壁にも亀裂が走る。

 このせいで、帝国軍司令部だった廃墟は元の形を残さず、完全に崩れてしまった。これにまぎれて、ハンナとイスハはカイの背から降りる。

 イルたちは直後に飛び立って、そのまま北へ飛んでいく。

 降りるところも、飛び立つところも特に隠していない。かなりの帝国人におそらく目撃されただろう。

 レッサードラゴンの巨体があまりにも目立ったため、降りた二人に気づくものはなかった。彼女たちは、隠密行動を始めた。


 ハンナは軍用コートを纏って、ブーツを履いている。帽子までかぶって、初めてイルと出会った時と同じ姿だった。

 帝国軍参謀であったそのままの姿をとっている。

 憎たらしい帝国軍の服を着ることで、この気持ちを忘れないようにしたかったのだ。


 この廃墟はすでに無人だった。衝撃で浮き上がった瓦礫はまだ地面に落ちきっていない。

 その間に、ハンナとイスハは走って逃げた。今はまだ、目立つ時ではないのだ。


 地震の直後にもかかわらず、竜の目撃情報が伝わったのか、周辺が大騒ぎになっていた。

 帝都から逃げようと無駄な努力をする人もいる。原因を探ろうとしたのか、あるいは震源がわからないのか、かえってこちらに近づいてくる人間も少なからずあった。

 情報は錯綜し、混乱している。

 こうしたところにこそ、つけいるスキが生まれる。だがハンナは、すぐにはこの混乱に入り込まなかった。彼女は別のところへ顔を出す。


 周囲に立ち並ぶ家より、ひときわ大きな屋敷が見えた。ハンナはそこに向かって歩いていく。

 屋敷というよりも要塞のような、立派な門構えの屋敷だ。警備のためか、何人か体格の良い男たちが周囲を歩いている。

 ハンナは気にしなかった。帝国軍で支給されているコートを着込んだまま、堂々と真正面から突っ込んだ。

 イスハも特に、話しかけることに意味を見出せないので黙ってその後ろについた。どうせ訊いても答えてくれないと考えられたからだ。

 あまりにも堂々と歩いていくハンナであったが、警備の男たちが近づいてきた。


「待て。それ以上近づくな」


 先ほどの地震で、彼らも警戒を強めているのだろう。

 その言葉には凄みがあり、警告であるということがはっきりとわかる。

 構わず、ハンナは無視して歩き続けた。警備の男たちはすぐに動いた。こういう、言っても聞かない者に対して彼らはこれまでも対応してきている。憶することはなかった。

 一人が腰から警棒らしいものを取り出して振り下ろした。これがハンナのこめかみへ強かに命中する。

 だが、金属製の警棒はハンナの髪の毛一本も傷つけることができないで、跳ね返された。


「なっ?」

 

 男はまるで鉄骨でも叩いたような腕のしびれに、言葉もない。

 こうしたことも、イスハの目には当然のものとして映る。竜の子とただの人間の力関係というのは、そういうものなのだ。

 男たちは激高してハンナの顔を殴ったり、その小さな体にしがみついたりするが、いずれも無駄だった。

 警棒でもだめなのだ。拳などでどうにかできるはずもない。痛い目を見せてやろうとハンナを殴った男の拳は、折れた。しがみついたところで、ハンナは止まらない。


「どいてろ」


 まとわりついた男たちが鬱陶しくなったハンナは、左手で彼らを振り払った。軽く振っただけだが、それだけで屈強な男二人が振り回されて地面に倒れる。


「おい、そいつを止めろ!」

「侵入者だ!」


 死んではいない。警備の男たちは咄嗟に、仲間たちへと通信を行った。

 思わずイスハが問いかける。だが、ハンナは何も答えなかった。何事もなかったように門をくぐって、中に入った。

 すぐに男たちが集まってきた。武器を持っているものも含め、十数人ほどだろう。


「ふざけやがって、叩き殺せ」

「三十回は犯してからだ」


 彼らは口々にハンナとイスハを罵った。そうしながら、つかみかかって引き倒そうとした。

 すでに勝ったと確信して、女郎屋に売り飛ばそうと話す者も何人かいた。

 つかみかかられても、ハンナは涼しい顔で足を止めなかった。殴られても刺されても、何の痛痒もない。

 適当に腕を振り払って、彼らを吹っ飛ばした。屈強な男たちも、竜の子にかかってはたまらない。まるで馬にでも蹴られたように吹き飛んでいく。

 圧倒的だ。男たちは次々とハンナにつかみかかっては投げ飛ばされる。彼女の後ろに控えているイスハをおさえようとした者もいるが、同じ結末となった。

 一通り男たちをあしらったところで、ハンナは背中から対竜ライフルを抜いた。


「なっ」


 誰かが凶器の登場に、身をひるませた。あまりにも大きな、たぶん彼らは見たこともないような恐ろしい銃。

 口径が大きすぎる。子供が撃てるようなものではない。

 だがハンナはまるで気負っていない。人を殺すにはあまりにも威力のありすぎるその銃を持ち出し、引き金に指までかけているというのに、何も変わらない。


 ああ、この人は本当に帝国というもののかけら一つも残しておけないほど、怒っているのだろう。


 冷静にイスハがそのように分析したが、それほどの大きな怒りを鎮める手立てを考えつかない。だから、あきらめた。

 何もできないまま、ハンナは指を引いた。撃つ。

 室内で撃つような銃ではない。稲妻のような衝撃と轟音がその場に突き抜ける。

 あっという間に何人もの人間が挽肉にかわり、大量の血をその場にまき散らす。馬鹿げた威力で人体を突き抜けた弾丸は壁をも壊し、射線上にいた人間を残らず殺した。

 強大な破壊力は衝撃で周辺の人間をも巻き込み、骨や肉を抉り取った。


 かろうじて傷を負わなかった者も、その表情が驚愕に染まった。右肩から先を失った者もあった。彼は座り込み、呆然とハンナを見上げている。

 思い出したように、天井あたりから床へ血と肉片が落ちた。削ぎ取られた死体の一部がそこまで吹き飛んでいたのだ。

 ハンナは眉一つ動かさない。呆然と自分を見上げていた男を右足で蹴り殺した。

 無傷であるはずの男も、その無慈悲な様子を見て動けなくなる。彼は失禁し、膝から崩れ落ちた。


 ハンナは悠々と歩いて、奥に向かう。行く先にはカギのかかる扉もあったが、蹴りであっけなく開く。砕ける扉もある。

 彼女について先に進むうち、イスハにもわかった。ここは、街の無法者たちが寄り集まる場所だ。マフィアの本部と言っていい。

 いってみれば、犯罪行為で生計を立てる連中の巣窟だ。

 思わず、イスハは口を開いた。


「ここで何をするのですか?」

「私は思いつくだけの手段を投入するつもりでいるんだ」

 

 ハンナは遠回しな回答をして、それからはっきりとこう言ったのである。


「ここは今日から、私のものだ」


 次の扉を開けた時、銃声が彼女たちを迎えた。大部屋の中に十名近い男が銃をもって、待ち構えていたのだ。

 何の警戒もなく扉をあけたハンナとイスハは銃弾をまともに浴びた。何度も撃ち込まれたが、ほとんどは外れた。それでも、イスハは肩と腹に三発以上銃撃を受けた、と感じた。

 前にいたハンナは脳天と、胸元、胴体と、全身に十二発受けた。頭だけでも三発は受けたと感じた。

 銃声が止まると、残弾のなくなったクリップが床に落ちる音がそこらじゅうで鳴った。一人が八発、きっちり撃ったのだろう。

 ハンナは、軽く息を吐いた。


「それでおわり?」


 もちろん、ただの銃で彼女たちは倒れることもない。血の一滴も出なかった。

 新式銃程度では、竜の子は殺せない。

 ハンナ・フォードは床に落ちてしまった軍帽を拾って、埃を払う。再び頭にのせて、目深にかぶった。


「化け物め」


 銃を持っていた男たちは、青ざめている。頭に銃弾を食らって生きていられるような人間はいない。次のクリップを装填にかかることも忘れてしまったようだ。


「糞が!」


 と叫びながら一人の男が剣を振り上げて一足飛びに向かっていった。そのまま振り下ろして、ハンナを叩き斬るつもりだろう。

 そこでようやくハンナは手を伸ばし、振り下ろされた剣を奪う。

 間を置かずに奪った剣を横凪ぎに振りぬくと、男の首が飛んだ。鮮血が部屋の中を汚した。


「いい剣だな、よく磨かれている」


 首を失った男の死体を踏んで、ハンナは前に進んだ。

 しかしこれ以上の奥はない。この大部屋が最後の部屋だった。

 ハンナは足を止めて、周囲を見回した。


「ここのボスはどいつだ」


 数秒ほどしてから、一人の男が堂々と進み出てきた。組織をまとめるにふさわしい貫録を備えた初老の男で、背筋を伸ばしている。


「俺がボスだ。あんた、ここに何しにきた」

「この組織をもらいにきた」

「何をバカなことを言っている」

「いや、そうだな。もらいにきた、というのはおかしかった。もう、もらっているといっていい。

 お前たちは暴力的な手段で部下たちを支配しているはずだ。だが私はそれ以上の力を見せた。

 だからもう、お前たちの組織を手に入れたも同然だろう。今後は私の命令を聞いてもらう」


 ボスは、呆れたようだった。

 だがそう言いながらも彼は冷静に計算をしていた。

 異常な女が二人でやってきて、銃でめちゃくちゃに撃たれて痛がる様子もないのだ。何をすればこいつらを殺せるのか、今のところ分からない。とりあえずいえることは、今この場でこいつらを殺す手段は恐らくないということだ。

 アジトは破壊され、部下は半分以上殺されている。それで、奴隷にしてやるだの、運がいいだの。どこまでも上から目線である。

 それも仕方がない。確かにこの女は強い。いうだけのことはあった。

 どうすればいいのか?

 ボスが権威を取り戻すためには、この場でこの女を殺すしかなかった。だが、それは恐らく無理だ。

 命よりも体裁や仁義を重んじるということはないが、ここでこの女にひれ伏して全面的に服従を誓うのはさすがに影響が大きすぎる。下部組織は威厳を失った彼らの指示にもう従わないだろう。

 とはいえ。

 そんなことをしては、この組織の価値は激減する。

 この女はどうしたいのか。

 そこまで考えた結果、ボスは頭を下げなかった。


「俺たちに何をさせようというんだ?」

「お前たちは私の奴隷になる。とりあえず表向きは今まで通りに仕事にかかって楽しむことを許してやる。

 看板を変えろとも強制しない。新たな方針はおおまかに私が決める」

「で、あんたはそれで何が得になるんだ」

「私はこの国の警察組織には、非常に恨みがある」


 嘘ではない。帝国に住んでいる人々の全てに恨みがあるので、警察にいる人間にも恨みがある。

 ボスはハンナの目をみて、先を促した。


「それで?」

「奴らに恥をかかせたいし、報復もしたい。そのための都合のいい手足が欲しかった。

 だから、お前たちを使うことにした。ひとまず、お前らは娼館の経営をもっと拡大しろ」

「娼館ならとっくにやっている。もっとやりたいのはいいが、他の奴らとの兼ね合いもある。いきなり事業拡大はできん」

「商売相手は全部私が叩き潰す。娼婦も都合してやる。お前らは経営するだけだ。

 もっと客を増やせ。金を搾り取ってこい」

「なんだと?」


 ハンナは平然として、こう言った。


「お前たちは本当に運がよかった」


 なるほど、と冷静に思ったのはボスではない。彼はそのようなことを考えられなかった。

 この場で楽観的に物事を考えられているのは、イスハだけである。

 何かとんでもないことをやろうとしている、というのはわかっていたが、このマフィア組織の乗っ取りですら、何かその下準備の一環に過ぎないらしいのだ。

 おそらくまずは大金が必要なのだろう。娼館はとても金入りがよい。それを拡大していけば、儲かるはずだ。

 しかも、商売相手になるような者たちをすべてつぶすと言っているのであれば、市場は独占だ。やりたい放題である。

 逆に言えば、『ここ以外の娼館を運営している組織はすべてつぶされる』ということでもある。たまたま選ばれたお前たちは非常にラッキーだった、というのだから、『つぶされる』というのが非常に大変なことだということは間違いない。

 ハンナは彼らに対して決定事項を淡々と伝えて、命令を下すのみだった。

 何か確認をとったり、質問をしたりはしない。

 完全に力の差がある以上、協議や話し合いといったものは求めていないのだろう。要求が満たされなければ、彼らもすり潰して別の組織に話を持っていく。


「私は帰るが、ここにはこのイスハを置いていく。

 念のために言うが、次に私が来るまでに勝手に方針を変えていたり、逃げ出したものがいた場合には、ここは更地になる」


 最後にイスハも初耳の決定事項を彼女はぶち込んできた。

 まさか、帝国の情報を集める傍らこんなところで連中の監督をしなければならないとは。だが、逆らうことはできない。

 イスハは溜息を吐いた。諦めたのだ。

 自分もハンナ・フォードの配下なのだ。服従する以外にはない。



 レッサードラゴンのカイは、帝国側に邪竜の存在を感じ取っていた。先ほどまで背中に乗せていた帝国側の竜の子「イスハ」からは、奴の匂いがする。

 つまり邪竜は自分たちと敵対している帝国に肩入れしている。少なくとも血を提供しているのは、間違いない。

 ということはなんらかの形で人間たちの間に暮らしているということになるが、少なくとも互いの敵対関係は継続しているとみるべきだろう。

 むろん敵がその気になれば、決着などほとんど瞬時についてしまう。レッサードラゴンのカイには、邪竜に抗う術など全くない。彼が『巣』へ突進してくれば、その体当たりだけでイルはおろか、カイの体も千切れ飛ぶだろう。

 なぜすぐにもそうせず、血を帝国に提供するなどというもったいぶった方法をとっているのか。単に、じわじわと追い込んで楽しむつもりなのではないか。意地の悪い狩猟者のように。


 結局、奴はいつでもこの俺を殺せるのだ。


 カイはそれを知っている。つまり自分はいつ、死ぬことになるかわからない。竜の子たちが可哀そうに思えた。

 近いうちに自分が殺される。黙っていれば、おそらくその巻き添えでイルやハンナも死ぬ。

 話したところで、どうにもならないことだった。だが、せめてイルには言っておこうと思う。自分なら何も知らずに死ぬよりは、知っていたほうがあきらめもつくだろうと考えたからである。

 邪竜はそれほど強い。カイたちが生き延びるには戦って勝つという選択肢以外にはないが、力の差がありすぎる。言ってしまえば次元そのものが違うのだ。カイとて竜であるが、邪竜と比べてはその力は矮小と言わざるを得ない。カイがかつて邪竜と対峙しながらも生きていられるのも、そのすべての力を回避と逃走に使ったからなのだ。そして何より、邪竜がその場でカイを殺そうとしなかったからである。

 つまりいって、怪物である。

 そんなものをどうしろというのか。

 レッサードラゴンのカイには、諦めるという以外にその答えが出ない。それでも抗って塵になるまで戦うというのなら、後には何一つ残らない。無駄を承知で逃げるというのであれば、わずかな時間は生きていられるかもしれないが、結局は殺されるだろう。

 何よりイルたちには目的があって、使命感のもとに行動しているわけである。それを邪魔することは気が引けた。

 せめて彼女らにしてやれることがあるなら、してやろう。運ぶだけならいくらでもしよう。

 そうした気持ちから、カイはハンナをもその背に乗せて飛ぶことに同意していた。

 イルほどではないがハンナも同情に値する運命を背負っているのだ。ハンナ・フォードは決して愚かな人物ではないし、大罪人というわけでもない。

 確かに彼女が竜の血を浴びた以上、人間の限度を超えた重量と筋力をもって、敵軍を打破するのはたやすい。時間さえかければ帝国をも平らげることができるだろうし、ハンナほど頭がいいのであれば、その期間を短縮することだってできる。

 邪竜があちら側にいるが、その邪竜も本気で帝国に肩入れしてるわけでもない。飽きれば去るだろう。

 帝国を本当に滅ぼすことができるかもしれなかった。

 だがそうして滅ぼした後、そのあと、彼女はどうするのか。人間たちに交じって生きていくつもりなのか。

 どのみち奪われたものを奪い返すというような戦いでは、心を慰める以上のものは求められない。心を燃やして戦い、敵を滅ぼした後に待っているものは、灰になった自分自身と焦土だけだ。

 何があるものか。

 その未来に期待するところがない。何一つとして、希望がもてない。

 カイはハンナに深い同情を抱きながらも、何も言わなかった。

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