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風の王  作者: zan
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プロローグ② 追われる竜

 二匹の竜が激しく戦っていた。

 だがよくよく観察してみればそれは戦いというよりは、一方的な攻撃を片方が必死にかわしているだけであった。

 攻撃を仕掛けている竜は、邪竜と呼ばれる種族だ。ただの竜ではなく、竜の中でも最も強いとされる、伝説的な種族であった。身体も人間などとは比べ物にならないほど大きく、その力も圧倒的だった。

 それと戦いあうのは、竜の中でも弱い部類に入る種族だった。こちらは劣等竜とか、レッサードラゴンと呼ばれる。他の立派な竜に比べてもあまり強いとはされていない。

 つまり両者の力の差は歴然としていた。


 逃げ回っているレッサードラゴンの名は、カイという。

 彼はそれまで特に奇異な生き方をしてきたわけでも、悪道に堕ちたわけでもない。竜が住まう地域においては普通に生まれて普通に巣立ち、山に暮らす獣たちをたまに狩っては食らうような、ごくごく、普通の竜として暮らしてきている。

 それが突然、邪竜の奇襲をうけた。戦っても勝てないとはわかっているので、逃げるしかない。

 運がなければ、最初の一撃で勝負は決まっていただろう。そのほうがむしろ、楽に死ねていてよかったかもしれない。

 単に『巣』と決めた場所でごろごろとしていただけ。

 それがなぜ邪竜に襲われるのか、その心当たりもない。邪竜は強い。攻撃にかすってしまっただけでも、傷を負う。

 カイも自分が弱小な竜であることは承知しているが、それでも何もしないで殺されるというわけにはいかない。


「なぜ俺が?」


 カイは自分に問いかけてみるが、答えはでなかった。

 邪竜の攻撃は強烈だ。爪を一振りするだけで空気を切り裂き、真空さえ生み出す。まともに当たっていれば、カイの体は両断されていただろう。邪竜がふざけて、遊びで攻撃を仕掛けているわけではない。完全に、殺す気で攻撃を仕掛けられている。

 かわし切れない攻撃に、カイの体は傷だらけになってさえいた。しかしこのくらいですんでいるのが不思議なくらいだ。なにしろ、相手は邪竜なのである。

 カイは『巣』を捨てることに決めた。それしかなかった。レッサードラゴンのカイは、ほうほうの体で脱出を図る。

 すると邪竜の攻撃は止まった。まるで自分が以前からそこの主であったかのように、悠然とカイの『巣』に入り込んだ。それで何事もないような風でいる。


 まさか俺の『巣』を奪い取りたかったのか。


 カイは驚きに固まり、かつての自分の『巣』に居座る邪竜を見た。

 くつろぐのに適した土地を見出し、山肌を掘り抜き、自らの手でつくった『巣』を奪われ、彼はそれ以上の言葉もない。

 大多数の竜は『巣』を自分ではつくらない。自然にできた地形を利用するか、他の竜が放棄した『巣』を乗っ取るか、死んだ竜の『巣』を使うかしている。

 レッサードラゴンのカイの場合、弱い部類の竜ということもあり、そうしたことのできる土地がすべて奪い取られていた。だから彼は自分ですべてを作り出すしかなかった。彼は仕方なくそうしただけだった。

 カイは自分の『巣』にさほどの価値があるとは思えなかった。巣作りのコツなど誰からも教えてもらえない。我流で掘り抜き作ったもの、どれほどの価値があるというのだろうか。

 それでも邪竜がこうして自ら奪い取りにきたということは、欲しかったということなのだろう。あの程度の『巣』に住まうことが、邪竜にとって快適であるとも思えなかったが。


 ともあれ、レッサードラゴンのカイは『巣』を追われる始末となった。

 彼のことを心配してくれそうな友もないではないが、友まで邪竜に襲われるようなこととなってはいけない。カイは、竜の住まう地域から少し遠ざかることを決意した。

 人のいる地域に飛び、山奥などでこっそりと営巣して暮らすことにしよう、と考える。人間たちに特に興味があるわけでもないが、あちらもわざわざ竜に手をだしてはこないであろう。

 このまま彼らの近くに間借りするようにすれば、もう少しの間はおそらく生きていける。

 カイはそのように考え、とうとう竜の住まう地域を去った。

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