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正門前 ~モブ~

――――遠野高等学園、正門前



「いやいやいやいや、入学式日和のいい天気だわ!」


『遠野高等学園 入学式』と書かれた立て看板を前に、仁王立ちする。

桜吹雪舞い散る景色を見やり、ふははははは、と哄笑。


周囲に人気はない。どころか、前後左右、入学式のある学校の正門前だというのに人っ子一人いない。

いや、一人いた。


「お~い、そこの女子!もう入学式始まるぞ~!」

「ふふふ、これからのことを考えると、血沸き肉躍るわっ!」

「え、ちょ、無視っ?!無視されてんの?俺?!!」


そう、何を隠そう!この私こそ、この学園、否、乙女ゲーム『妖怪恋見聞録~学園には危険がいっぱい~』のモブに転生した女生徒なのである!!

テンション高いとか、この子頭おかしいとか思っちゃいけませんぜ。奥さん。

この日を迎えるために苦節十五年・・・。

長かった・・・。長かったのよ、と(おとこ)泣きをする。


「泣き始めた?!なんで?!ご、ごめんな???いや、俺はただもう入学式が始まりそうだから、ちょっと急いでほしいな~なんて思っただけで、ね?」

駄菓子菓子(だがしかし)っ!それも今日までよっ!」

「あれ?!俺絶対関係なかった!謝っちまったじゃねーかっ!」


この表向き普通の学校だが、妖怪やら陰陽師やら一般人(パンピー)やらが蠢く、中々にしてデンジャラスな学校だ。主に一般人に。

そんな中に、数百年に一度生まれる、『神無月の巫女』という名のヒロインが入学するところからゲームは開始される。

『神無月の巫女』は、神々が出雲に集結した際の対外抑止力として生まれた存在が起源とされている。

数百年の間隔を空けることは謎だが、問題は抑止力としての霊力。

妖怪にとっては究極の御馳走であり、陰陽師にとっては神に近しい至高の存在で、この学園で壮絶な取り合いがこれから行われる。

そう、取り合い、ならぬ殺し合いだ。


「青春ってことかな☆いいよねぇ~、美形同士のやり取り(殺し合い)とか・・・。萌えるww」

「・・・おーい、帰ってこーい。って、げっ!もう、入学式始まってんじゃねーか・・・・。」


そう、美形だ。

乙女ゲームならではの、ひゃっほい美形キャラだ。

主要キャラは必ず美男美女であり、モブであるこの私もゲームの恩恵にあずかって、前世に比べれば雲泥の差の高顔面偏差値を頂いている。主要キャラには遥か及ばないが。

あの二次元で美しかったキャラが、三次元となってどうなっているかは、小躍りと称して盆踊りをしてしまうほどに楽しみだ。


「(お、踊り始めた、だと???!)・・・電波か・・・。これが世に言う、電波なのか???そんな存在を前にして、俺はどうしたらっ?!!」


おおうっと、こんな序盤で浮かれていてはいけない、いけない。

小躍りならぬ盆踊りをやめ、心を落ち着ける。

なぜなら、私には、そう!!使命があるからっ!


「し、しめい?!!指名、誌名、四迷・・・・。使命、、そうだなっ!新入生は入学式に出席するという使命があるぞ!一緒に行ってやるから、ひとまず向かおう!なっ?!」


まずいまずい。この私の熱き思いが図らずも口から零れ落ちていたようだ。

お口チャックせねば。この使命は人に漏らしてはいけない。

の、だが・・・。ほうほうそんなに聞きたいか聞きたいのかそうかでは致し方ないな、そんなに聞きたがられては私としても隠すなど心苦しくなってしまうしな。

仕方がないなー、話してあげよう。


このゲームには、イケメン妖怪&イケメン陰陽師共に奪い合い、かつ言い寄られるヒロインの他にもう一人、主要な女性キャラ、ライバルがいる。

それが、月神凪だ。

月神家唯一の生き残り、百代目現当主であり、歴代最強と歌われる陰陽師な彼女は、その力でヒロインを影ながら助けつつ、妖怪な攻略対象者と反発しつつ、陰陽師な攻略対象者の視線をその実力で奪っちゃう、美人さんだ。

そして、ここが重要なのだが、本ゲームにおいて彼女は90%の確立で死亡する。

そう、90%。交通事故も生活習慣病も真っ青の死亡率だ。


「ふふふ・・・。それも私という存在を条件に入れていない割合(パーセンテージ)に過ぎない・・・。」

「・・・・せめて・・・せめて、会話を・・・。言葉のキャッチボールをしてくれ・・・。」


その彼女を、モブという微力な存在である私が助けるのだ!

それが我が使命・・・。ふふふ・・。腕が鳴るわ。


「うあっ!そういや俺、一年の担任だよ!・・・うわ絶望した、入学式早々絶望した・・・。いや、まだ希望はある!!おい、お前!聞いてないかもしれんが名前はっ!」

「あ、鹿毛彰子(かげあきこ)と申します。」


「聞いていた、だとっ???!・・・普通に無視を・・・いや、突発性難聴・・・いやいやいや、もうそこはすでに問題ですらないっ!」


かげ・・・かげ・・・、と呟く男性、先ほどの発言からして、おそらくこの学園の先生のようだ。

それにしても、かなりのイケメンである男性に自分の苗字を連呼されるのは、中々どうして面はゆいものがある。


突然目の前でイケメンが平伏、いやorz状態になった。

おおうっと、私にはそんな趣味などないが、仮にも人生の先達たる先生様が地面をえぐるように平伏したのだ。

致し方ない。本当に不本意だが。


「だぁぁぁ!畜生っ!せめてもの希望で他のクラスの名簿から探しちまった!おれの・・おれの一年間が・・・・・・・・・・おい、鹿毛。」

「はい、なんでしょうか。」

「なぜこちらに足を上げている。」


イケメン先生が、平伏したままこちらを睨み付ける。解せぬ。


「え、だって先生が突然目の前で平伏したので、踏んでほしいのかと。」


がばっ、と擬音が付きそうなほどの勢いで、イケメン先生が立ち上がる。


「お、おれがっ!そんな特殊性癖の持ち主に見えるのか?!いや答えるな!おまえは何も答えず考えず速やかに体育館へ直行しろ!」

「そういえば、イケメン先生。先生は私の担任のようですのでお尋ねしたいのですが、私は何組なのでしょうか。」


素直に上げた足を下げ尋ねれば、先程まで羅刹と化していたイケメン先生がちょっと微妙な表情で答える。


「イケメっ、・・・いやいやこいつのことだ普通の意味じゃなくてなんかの隠語だ俺、惑わされるな俺。・・・鹿毛はA組、だ。早く体育館に行け。」

「おやおや、イケメンという褒め言葉を素直に受け取れないなんて・・・。先生の人生にいったい何があったのでしょう・・・。御労しい・・。」


よよよ、と目元を抑えていると、イケメン先生に襟首を掴まれた。いい笑顔だ。


「鹿毛。俺はこの短い邂逅の中で、お前という存在に対抗する術を理解したぞ。」

「いやだ、先生。確かに私は先生に比べて十数年しか生きていない若輩者ですが、会ってほんの数分しかたっていない相手に、底が浅い人間だと言われるなんて。ちょっと傷つきました。」


いい笑顔に青筋を立てるという器用なイケメン先生は、襟首を掴んだ状態で歩き始める。私を引きずりながら歩く。


「そう、物理だ。お前に対抗する手段は物理だ。俺は古文担当で今まで物理学はすこぶる苦手だったが、今日から物理という法則がこの世に存在することに神に感謝することにする。」

「やれやれ。担当する幼気な生徒が傷ついているというのに。先生、会話、というものはキャッチボールのように的確に返すものですよ??」


引きずられながら、この遠野高等学園の正門を通り抜ける。


「俺はこの学園の教師でこいつはこの学園の生徒だから拳という名の制裁は体罰に相当するから堪えろ俺。」


呪文のようにつぶやくイケメン先生に引きずられながら、満開の桜を眺める。


(・・・・私は生きて、いられるかな。)


それでも、やることは変わらないけど。

湧き上がる熱い想いを飲み込み、引きずるイケメン先生に問いかける。


「そういえば、新入生代表の挨拶ってプログラムの何番目ですか?ちゃんと挨拶考えてきたんで、できれば言いたいんですが。」

「神はこの地を見捨てたっ!!!!!!」



再び平伏したイケメン先生に放り出された私は、やれやれだぜ、と呟いて、今度はきちんと踏みつけた。




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