正門前 ~ヒロイン~
――――遠野高等学園・正門前
「ふわぁぁぁ!きれーい!!」
視界いっぱいに舞い散る綺麗な桜吹雪に、思わず声を上げた。
ぽかんと口をあけて見惚れていると、周囲からくすくすと笑い声が聞こえた。
結構大きな声が出ていたみたいで、ちょっと恥ずかしい。
「おい、アホ面してんぞ。」
ちょっとむっとして見上げる。
てしっと軽く頭をはたきながらけなしてきたのは、今日から同級生になる幼馴染。
ここ最近、イライラしているようで、今も呆れたように頭を叩いた癖に周りをちらちらと覗っている。
(???高校生になって緊張でもしてるのかなぁ??)
どうしたのかな、と思って顔を覗き込むと、ふいっと顔を反らされる。
「どうしたの??顔、赤いよ?風邪でも引いた?」
熱を測ろうとして手を伸ばすと、大げさによけられる。
「っ!いいからっ!ほら、早く行くぞっ!」
幼馴染に引っ張られながら、正門を通り抜ける。
(・・・・友達、たくさんできるといいなぁ。)
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幼馴染の手を引きながら、彼は己の身に流れる魔性の血を思う。
彼女に触れているその手に、血肉に宿る異質なそれを。
鈍感な彼女には、この十数年間気付かれなかったが、それは奇跡のようなものだ。
この学園に入学すれば、自分の正体もそう遠くない未来に気づかれるだろう。
周囲からの突き刺さるような視線へ牽制するように睨み付ける。
睨み付けて、彼は惑う。
(・・・・俺も、あちら側、だけどな・・・。)
あちら側の存在が、彼女のそばにいていいのだろうか。
いっそこの身を裂いて、血を全て流せば、彼女と同じ存在になれるだろうか。いや、ただ死ぬだけだ。
異質な存在である自分がそばにいることへの迷い、彼女に正体を知られることへの恐怖。
それらを飲み込んで、彼は彼女の手を握り続ける。
(それでも、俺は、コイツを守る。)