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運命的な?出会い 1

 土曜日。

 快晴ではなく、うっすら雲がかかる夏の青空が広がった。一週間分の溜まった洗濯は昨晩のうちタイマーで回して、洗い終わっている。天気予報を見る限り、雨も降らなさそうだしと、全部外に干す。

 それが終わったら、仕事用じゃなくて休日用の薄い化粧をして、サマーニットとデニムのスカートを着た。

 まだ時間が早いせいか、デパートはそこまで混んでいなくて、ほっとした。


 心機一転に相応しく、捨てた物を全部買い直した。仕事用のアイシャドウにはルナソ○のベーシックなカラーを。休日用にはディオー○。それから、シャネ○の赤い発色が綺麗なリップカラー。

 午後に予約したヘアサロンまでに時間があったので、昼食は、前々から行ってみたいと思っていたカフェに行った。何人か私の様に一人で来て本を読んでいる人もいたけれど、店内のほとんどがカップルだ。


 いいなあ、とは思う。

 まだ歩きだしたばかりの子どもを連れた親子連れとか、腰が曲がり始めていても仲良く並んで歩く老夫婦とか、成人した子どもと買い物をしている母娘なんかとかも。

 そんな人たちとすれ違うたびに、漠然とした憧れは抱いている。あるいは、友人から結婚式の招待状をもらう度にも。ただ、口では良いなあと言っていても、心の底から羨ましいと思っているか、というのは別だ。


 強がりでも何でもなく、口で言う程、誰かと暮らすことを私は夢見てはいないのだ。


 よく自己啓発本なんかで、十年後のビジョンを持て、とかなんとか書いているけど、それが想像出来ない。仕事をしている自分なら簡単に想像が出来るのに、子どもを育てていたり、子どもがいなくても誰かと夫婦になって暮らしていたりする自分の姿が全く浮かばない。突拍子もない話だとしても、社長になった自分を想像しろという方がまだ楽だ。


 大学生だろうか。隣では、華やかな服装をしてきれいに髪を巻いた女の子達が、これから行く合コンの話をしている。

「一番上の人は、34歳くらいだって。じゃあ今日は、シューカツ合コンだね。」

「そうだね。今日の会社の人なら、話聞けるだけでも役立ちそうだし。良いかなあ。」

「あ、でも、ほとんどは26、27歳らしいよ。良い感じの人いると良いね。」

 彼女達は正しいのかもしれない。いわゆる勝ち組、というビジョンに向かって何度もトライ&エラーを繰り返す。ビジョンに向けての自己研鑽も厭わない。そうして彼氏を見つける、というステップの次は、将来の伴侶に相応しい相手かを見極める。よっぽど私なんかよりも確実に人生のビジョンを持っている気がする。

 良い人がいたら結婚したい、なんていうのは、ただの甘えだ。就職活動はお見合いみたいなもの、と言うけれどその通りだと思う。良い会社があったら働こうなんて言っている人間は、一生職なんて得られるわけがない。

 まあ、その理論に従うなら、私は一生結婚出来ないわけで。

 ただ結局は、周りが結婚しているから焦っているだけで、実のところ、それほど結婚を望んでないんじゃないか、と心のどこかで思っている。


「どうですか?短くしたついでに、ちょっと雰囲気変えましたけど。」

「ちょっと、っていうよりは大分変わりましたよね。」

 今までは、横に流していた前髪を眉辺りまで切ってもらった。背中まで長さがあったので、仕事の時はいつもまとめていたけど、思い切ってボブにしたから、このままで良いだろう。

「今までは、大人な女!って感じでしたけど、大人女子ってやつっぽいですよ。」

「もう、女子なんて年齢じゃないですよ。」

 妙に話がいつも弾む美容師さんは、見た目はクールなのに口を開くと軽いイケメンだ。相変わらずテキトーなことを言うなと思いつつ、この軽い会話がなんだか心地いい。

 そうだ。こんな風に軽く楽しく毎日を過ごせればいい。真剣なのは仕事だけでも良いじゃないか、と思ってしまう。


「ってのが、嫁ぎ遅れの考えなんだろうなあ。」

 夕食も外で食べて、軽くワインを飲んだ。ほろ酔いの気分のまま、いつもとは違う方向の駅から降りる。


 都会の夜に独特な夏の風がそよいで、随分短くなった髪を揺らす。普段、自分が使っているシャンプーと違う香りが鼻腔をついた。

 今日は色々な物を新調した。使う予定もなく貯めていた結婚資金を崩して、奮発して買いたかった物を全部買った。それから髪を切って気分も変えた。

 明日は、部屋の整理をしよう。私一人が住む部屋にはきっと要らない物がたくさんあるはずだ。作業の段取りを頭の中で描きながら、思わず鼻歌を歌いそうになる。それくらいふわふわした気分でいた。


 と、自動販売機の横を通り過ぎようとした時。照明が明るくて影になってた所から人が出てきた。と、思った瞬間突然口を押さえつけられて、マンションの垣根の茂みの陰に引っ張り込まれてしまった。もがこうとするが、腕ごと後ろから抱えられてしまって、動かせない。こんな事態なのに、どこかで今日買ったばかりのトップスを汚さないようにと気にしている自分に少し驚いた。同時に、少しだけ落ち着いて思考が動き出す。


 形振り構わず本気で暴れるか。いっそこのピンヒールを急所に食い込ませてやろうか。あ、足届かないから無理か。

 お金払ったら離してくれるかな。うーん、でも今日散財しちゃったから現金は財布に入ってないや。

 ってか、むしろしばらくアソコを使う予定もないし、いっそヤっちゃう?最悪妊娠しても育てられるでしょ。

 あー、でも青姦は嫌だなあ。汗かいたし、せめてラブホでシャワーくらい浴びたいなー。


 なんて。

 いやいや、そういう問題じゃないし。これヤバいよね??

 何とかして助けを求めようともがくけど、ぱっと見痩せ型な男でも、男の力は男の力。敵う訳がない。

「こ、こ、声、出すなよ??」

 お前、襲ってるのにビビってんじゃん、と突っ込みを入れながら、ビビりまくっている声が以外と若くて……というか幼くて、おや?と思った。

「こっちは、死のう、と思ってやってんだ。捕まったって気にしないからな。声出したら、だから、こ、こ、殺すぞ!!」

 脅してるのか怪しい程に相手がビビっているせいで、反って余裕が出来てゆっくりと相手を観察する。薄暗い中じっと相手を見つめてたら。

「な、なんだよ??」

 あれ?この人……なんだか見覚えが……。

 わざと、ではなくてほんとに無意識で、口を押さえていた手をちょんちょんと、つついた。あまりにも自然な流れだったせいか、相手も思わず手を離してくれた。

「どうせなら、うち来ない?清沢さん?」

 そうそう、御用達のコンビニの深夜にいる子じゃない?

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