彼のプロフィール
やってらんねー、ほんと。
アニメーターを目指して専門に行ったけどそこで学んだことは、夢は食えない、コミュ障は何人にも敗れる、っていう二つ。卒業はしたけど真っ当に食える職なんて結局見つからず。次までの繋ぎとはいえ、自分一人なら何とか食っていけるバイトが見つかったからマシかと思う。深夜のコンビニは昼間に比べたら客も少なく、コミュ障気味の俺には向いている。多少は時給も良いし、廃棄もらえれば食費も浮くし。
朝5時。朝番の蔵持が来ない。まあ、理由は一つだろう。裏に入って電話をかけるとたっぷりと待った11コール目で通話中になる。1秒間の沈黙。
「すみませんっ!!今から行きます!あと、20分、いや、30分で!!」
「あ、えっと、俺、後ろに予定在るわけじゃないから、焦らなくても…。」
「とりあえず、すぐ行きます!!」
蔵持はいわゆる苦学生ってやつで、朝、講義の前にバイトしているらしい。で、夕方は家庭教師。大変なんだろうけど、生き生きとして働いている。蔵持自身のことは嫌いじゃないけど、そんなところがちょっと苦手だ。
まあ、6時までには蔵持も来るだろう、と暢気に構えていたのだけど。
4時台と、5時台ってこんなに客の数違うんか……。
20分程度の時間の違いで、仕事帰りだった客が出勤前の客に入れ代わる。出勤前のせいか皆ピリピリしていて、ちょっと手を彷徨わせただけで相手の機嫌が悪くなるのが分かった。
「あっ。」
受け取った小銭を落としてしまう。
お前、今、舌打ちしたろ?何様だ?お客様か?お客様は神様か?神様なら広い心持ってるんだろ、舌打ちすんじゃねえよ。
なーんて、言葉には出せず、心の中で文句だけを言う。床に視線を巡らせたが、見つけられず、後で探すことにしてレジを打った。
釣銭を渡したところで、一つ前の客が戻ってきた。
「あの、お箸入ってないんですけど?」
よく見かける、いかにもキャリアウーマンって感じの、美人だけどちょっとキツそうな女だった。
入ってないんですけど?
じゃ、ねーよ。すみませんがお箸頂けませんか、とか言えない訳?いい年して。どうせ、そんなんだから余って嫁き遅れてんだろ?
勿論、そんな毒吐きは心の中でだけ。現実では口を使い慣れていなくてどもってしまう。
「あ、す、すいません。」
割り箸を受け取ると、はあっとイラだたしげに早足で出て行く後ろ姿を見送ってふと気が付く。
あの人、昨日の11時過ぎに来たよな?で、今、出勤して行く訳?まあ、高そうなバッグ持ってたし、ガンガン稼いでるんだろうな。俺には無理無理。
金なんて食っていける分だけ稼げたら十分。
ようやく出勤してきた蔵持と交代して、いつもより少しだけ遅く布団にもぐりこんだ。
俺の毎日なんて、こうやって過ぎて行くだけ。そう思って長い目で将来のことを考えてはいなかった。コンビニバイトなんて、十年後、二十年後までできるなんて思ってもいない癖に。なのに、今までの日常が終わりを告げると案外、焦る。
「今のシフトいっぱいで辞めてくんない?」
突然、言われた。目の前に居るのは、出向してきている店長。自分と同じ年か、一つか二つ違うだけのイケメンだった。なんつーか、ソリが合わなくて俺も苦手だし、多分向こうも俺を嫌っているとは思う。
「え?えと?あの?」
「うちさ、業績、悪くはないけど下がり気味なんだよ。知ってるでしょ?先月とか販売数のノルマギリギリだったの清沢君だけなんだよね。」
「いや。あの、でも、深夜は元々少なめだし……ノルマだけ売ればって……。」
このへんは住宅街だから、深夜の客は多くは無い。なので、季節物とかイベント物なんかは売れるも何も最低ライン越えればOKとは言われていた。
「何言ってんの?みんなプラスアルファ売ってんの。それに、こっちとしては、もうちょっと愛想良い人入れたいんだよ。」
ああ、またコミュ障は追いやられる羽目になるのか。辞めてくれ、に対して「はい」という返事をしたつもりはなかったのだけれど、じゃそういうことで、と言われてしまえば何も言えなくなってしまった。
だけどさ。今のシフトって明後日までじゃん?せめて、もう次のシフトとかまで猶予欲しいんだけど。
ってか、来月からどーんのこれ?