第五章
【千輪トウコ】 ちわとうこ
目立たなく大人しい少女、千輪はイマガイズだった。その第一印象も彼女を知るごとに払拭されることになる。事実、彼女は決断力や行動力に優れているのだ。
〈エデンの外〉からの脱走経験があり、サブで物事の繋がりが視覚的に見えてしまう。そのことから他人に心を開ききれない傾向にあるようだ。しかし、皆瀬たちの交友を通じて徐々に信頼し合うことの意味を自覚していく。
関連:人物 序章/第一章 千輪トウコ
【コモン】 こもん
一部の者が想像の力を管理するのではなく、全員が想像に目覚めることを理想に掲げる組織〈リビジョン〉の頭。各個がイマジナルに対する対抗手段を持つことで、彼らと平等な関係になり、真の平定を成せると信じていた。しかし、イマジナルの増殖速度が想定をはるかに上回り、イマジナルとの橋渡し役のケイジでも抑えきれなくなったことで計画にほころびが生じる。
それでも自分の理想のために〈ウィズダム〉と戦ったが、皆瀬たちとの戦闘中、飾有町とその住人が誰かによって作られたものだと気づいてしまい、アドマインに消されてしまう。
彼は〈エデンの外〉に収容されていたものの、想像の力を失わなかった例外だ。その平凡な容姿のため、収容者だとはジョウさえも気付くことができなかった。
与えられた力を理不尽に奪い去られることへの怒りが、コモンの原動力となっていたのかもしれない。
【ケイジ】 けいじ
特殊の能力を持ったイマジナルで、本来の姿は想像上のドラゴンに酷似する。身に秘めた力もまさに伝説的で、硬質の金属を飴のように曲げ、イマジンによる攻撃を一方的に押し返せるほど。
ドラゴンの姿ではその力がさらに解放され、鱗は一切の攻撃を通さず、顎は鉄を易々と食いちぎり、羽ばたきは暴風を生み、火球はあらゆるものを一瞬で気化させ熱風を吹き荒れさせる。
能力は本能を檻に閉じ込める首輪。これによりケイジ本人だけでなく、イマジナルを人間に限りなく近い姿へと変化させることが可能。首輪には適性があり、今の姿で満足しているイマジナルには効果が出ない。
ちなみに彼の名前はコモンがつけた。ケイジが彼を慕っているのはそのためである。認識されることが最上の欲求であるイマジナルにとって、名前とはそれほどに大きな意味を持つのだ。
【アーガイル】 あーがいる
ケイジによって人型になったイマジナル。几帳面で合理的な痩身の男性で、軽薄で他人の神経を逆なでする言動が目立つ。ひし形模様を気に入っていて、それが入ったニットベストを愛用している。
能力は演算。アーガイルが五感で感じ取った全ては、彼独自の単位で瞬時に数値化される。特に距離関係の演算が戦闘では活躍し、まるで相手の行動を予測しきっているかのような動きを可能とする。加えて、その挑発的な口の悪さでじわじわと相手の精神を追い詰めていくのが得意技だ。
本来の姿は菱形の鱗で覆われた大蛇のようで、その一枚一枚がハッチのように開閉する。開いた姿はまるで花のようだ。鱗の下には緑の眼球があり、全方位の観測を容易にすると同時に、開いた鱗はずらりと並んだ剣さながらの殺傷力を発揮する。口には噛みつぶすことに特化した臼状の歯が並ぶ。しなやかな体は音を立てずに移動することができ、鱗の開閉でわざと出した音に気をとられた得物の背後に暗殺者のごとく忍び寄ることができる。
【フラー】 ふらー
ケイジによって人型になったイマジナル。モデル顔負けの均整のとれたすらりとした体とすべすべした肌を持つ女性。髪の毛はベリーショート。人型にはなったものの、人間の感覚や感情を理解できない。そのため、話し方は淡々として温かみがない。
フラーの人間様に見えているのは、すべすべした陶器のような殻であり、表面は滑らかだが裏側は安山岩のような多孔質になっている。フラーの本体はその穴の中に潜む極細の線虫だ。細さに見合わない強靭さと細いゆえの鋭い切れ味を持つ。その上、筋肉のように伸縮させられるため、割れた殻を元通りにはめ直したり、弾丸のように高速で発射したりできる。
線虫は異様に細く肉眼ではまず捉えられない。それを利用し、欠片を飛ばして張り巡らせた自身の体によって得物をバラバラにするのが彼女の戦法だ。
人間味に欠けるフラーだが、人間に対するあこがれは強く持っている。初めて買い物をして手に入れた銀のブレスレットを最後の戦いでも大事に身に着けていたことからもそれが窺える。
本来の姿はモダンアートのような白いアーチで、見た目通り自身では移動できない。イマジナルの基本欲求は人間に認識されることのため、このような通常の生物ではありえないような外観になることも十分にあり得る。
【アトモス】 あともす
ケイジによって人型になったイマジナル。丸々と太った禿頭の老人で、明るく朗らか、のんびりした性格。個性が衝突しあう〈リビジョン〉の仲裁役に回ることもしばしば。
アトモスの体には脂肪が蓄えられているのではなく、空洞に青白いガスが詰まって腫れているのだ。このガスが彼の能力。このガスに触れたものの重さを限りなく空気と同じに近付けてしまう。結果、物体は無重力下に置かれたかのようになる。後は簡単な力でアトモスが打ちあげてしまえば、ガスの効果が切れるとともに逃れようのない力、重力が敵を仕留めてくれるという寸法だ。
能力はガスが漂う範囲内全てのものに効果が及ぶ。そのため性格に反して戦闘で連携を取るのは苦手である。
宇宙空間と異なるのは空気抵抗が存在する点だ。面積の広いもので扇ぐことで姿勢制御したり、推進力を得ることが可能。
本来の姿はフジツボ状の突起をいくつも持つ巨大な風船で、その突起から体内で生成したガスを猛烈な勢いで噴出することが可能だ。軽くなった物体がこの暴風に耐えるのは容易ではなく、確実性は欠けるものの攻防一体の強烈な技となっている。しかし、より無差別になってしまうため、チームプレイには一層向かなくなる。
【ヒマラヤ】 ひまらや
ケイジによって人型になったイマジナル。筋骨たくましい、白髪髭面の男性で露出した腕は剛毛に覆われている。人間への感心が強く、特に人間の嗜好品への興味は尽きない。中でもタバコはヒマラヤのお気に入りである。
ヒマラヤの能力は触れたものを認識できなくすること。効果は白く塗りつぶされるように発揮され、色だけでなく陰影まで完全に真っ白になる。背景が白ければ視認するのは不可能だ。そして生物であればその部位の認識が消え、自由に動かせなくなってしまう。対峙しながらも姿を消し、敵を一方的に無力化できる恐ろしい能力だ。
白塗りを認識できるのは能力を使ったヒマラヤだけ。他の者は白くなった物体を見ることはできないが、それはしっかりとその場に存在している。手を伸ばせば触れるし、何かとぶつかれば音も出す。
ヒマラヤの指から漏れる白煙は冷気のように見えるが、白く塗りつぶされた空気が拡散し煙のようになっているもの。これは白塗りにした物体を視認させにくくするほか、距離感を狂わせ、自身を隠すのにも役立つ。
本来の姿は白い毛で覆われた3メートル近い大男で、まさに雪男といった外観だ。背中にパイプ状の突起が六つ並んでおり、そこからもうもうと白煙を噴き出すことができる。姿を隠す能力は飛躍的に上昇し、体格の向上によってさらに屈強で打たれ強くなる。しかし、人間の強さに心打たれたヒマラヤはイマジナルではなく人間として消えていくことを選んだ。
【ラバ】 らば
ケイジによって人型になったイマジナル。その容姿を一言で表すならば、巨大。3メートルを優に超える巨躯で、動きは力強く鈍重。人型になったにも関わらず話すことができないが、相手の言葉は理解できるようだ。表情にも乏しいが、あまり好戦的な性格をしていないのは確からしい。
ラバの場合、体の構造が能力そのものだ。彼の本体はオレンジ色に輝く丸いコアで、そこからほぼ無尽蔵にドロドロに溶け熱された岩を生みだすことができる。溶岩はラバの体からあふれ出た分は数秒で冷え固まってしまうが、それまでの短い間、自由に動かすことが可能。欠損した体を素早く溶岩で充填することもできるため、コアを破壊されない限り半永久的に活動できるのが強み。攻撃と治癒を両立するラバの体の仕組みに気づかなければ、倒すことは容易ではないだろう。
本来の姿は定まっておらず、コアが溶岩を纏いながらさまよい歩く非常に危険なイマジナルだった。
【エド】 えど
〈エデンの外〉から脱走したイマガイズ。未知の物への恐怖よりも好奇心が勝ってしまうタイプ。度の強いメガネに白衣と、いかにも研究者風の格好をしている。
大学の研究職員で生物学を専攻。頭の固い教授と物分かりの悪い学生との板挟みで心的ストレスに苛まれていた。そんなエドの支えとなるのは妻だけだったが、夫婦仲は決して円満ではなく、些細な口論から諍いへと発展する。妻の的を射た暴言混じりの反論に血が上ったエドは、思わず彼女を突き飛ばしてしまう。妻はテーブルの角に頭をぶつけると動かなくなった。フローリングには赤い染みが広がっていく……。エドは茫然とした。出てくるのは現実に則した解決策ではなく、非科学的な妄想だ。時間が巻き戻れば、いやこの死体が誰にも見つからなければ……。そんな強い念が彼をイマガイズにした。妻の死体がフローリングにずぶずぶと沈んでいく。まるで流したてのセメントの上にあるかのように。
エドの殺人は発覚することがなかった。だが科学では説明できない事象、そして妻が死んだという事実は彼を狂わせてしまった。エドは探す。妻が一人ではさびしくないように、今日も新しい友達を探す。
当然、そんな暮らしは保てない。〈ウィズダム〉に発見され〈エデンの外〉に収容されたのだった。
〈リビジョン〉に組み込まれてからは、フラーと行動を共にする。
【カザマ】 かざま
〈エデンの外〉から脱走したイマガイズ。コモンの思想に心から共感して〈リビジョン〉に参加したのは彼だけだ。緑の丈の長いコートと後ろに撫でつけたうねる髪が特徴。
イマガイズに目覚めたとき、カザマはこれを世の中のために役立てようと考えた。彼には妻子がいたし、イマジンを悪用してもいない。それらを一切無視して〈ウィズダム〉は彼を〈エデンの外〉へ収容した。カザマは考えた。一体、何が悪いのだろうと。それが飾有町の仕組みだと結論付ける時間は、十分カザマに与えられていた。
〈リビジョン〉ではリネンという少年と行動を共にする。
【リネン】 りねん
〈エデンの外〉から脱走したイマガイズ。猫のようなふわっとしたくせ毛の少年。コモンがオオクマをあっさりと殺したのを見て、しかたがなく〈リビジョン〉に参加する。
性根の優しいリネンは戦いに向いていない。〈リビジョン〉のイマジナルを恐れ、他のイマガイズと打ち解けられない。ただカザマだけは例外で、リネンは組み分けを無視してカザマと一緒に行動するようになる。母子家庭で育ったリネンにとって、カザマは本当の父親のように思えていたのかもしれない。
【ウズ】 うず
〈エデンの外〉から脱走したイマガイズ。露出の高い服に目の粗い網タイツをつけ、首にマフラーを巻いている少女。内向的、かつ反抗的。イマジナルを心底毛嫌いしていて、特にアーガイルとは仲が悪い。しかし、アトモスに身を呈して逃がしてもらったことから、ウズは考えを改めざるを得なくなる。
ウズは〈リビジョン〉に属してはいるが、誰のためにも戦わない。目的はただ一つ。自分自身の納得である。彼女は自分が嫌っていた存在に助けられた。その事実を受け入れ、納得できるまで彼女は戦う。
【アドマイン】 あどまいん
皆瀬が生み出したイマジナル。巨大な樹状の結晶に蔓が絡みついた姿をしている。根元には箱型のディスプレイがあり、飾有町全体と皆瀬のイマガイズを認識するための窪みがある。
能力は調整。皆瀬が生み出した飾有町を監視し、皆瀬が意図する状態に保つのがアドマインの役目である。皆瀬は定期的にアドマインの元へ向かい、飾有町を適切な状態に再起動する必要があった。
最終的に皆瀬の全イマジンを分け与えられ、皆瀬たちが作り上げた新しい世界を管理する役目を与えられた。