第五章
【千輪トウコ】
〈イマガイズ〉
千輪のイマガイズは半透明に白濁した水晶質の円盤である。円盤は連なったリングによって形成されており、顔の正面、左右側面、計三枚の円盤で仮面が構成される。リング同士の隙間は暗く、千輪本人の顔は見えない。正面リングの中心はおでこの辺りにあり、上方は狭く、下方は広く引き伸ばされた形になっている。目の辺りに緑色の光が灯る。側面リングの中心は耳で同心円を描く。中央からアンテナのような突起が後頭部にかけて伸びているデザインはどこか近未来を思わせる。
〈イマジン〉
千輪のイマジンは水晶質の輪。リングに触れた物体、あるいは事象同士をリンクする。リングは体に密着した状態で発現するが、リング自体をリンクすることで遠隔操作が可能。
リンクとは物理的な繋がりから因果関係まで様々。使用方法は多岐に渡り、記憶の共有、輪と自身の動きを連動させた疑似身体強化、物体と動きを関連付けた遠隔操作などが代表的だ。それ以外にも工夫次第であらゆる状況に対応できる柔軟性、発展性を持つ。
リンクさせる物体・事象は一対一でなくてはならず、起こる現象も千輪自身が起こせる範囲の物でなくてはいけない。従って、千輪が呼吸したら相手が死ぬ、といったことは不可能である。また、イマガイズは想像の力に対して防衛効果を持つため、それ相手ではすぐには効果が表れないことが多い。特に精神や体の内部となれば数回の接触を必要とする。
リングの強度は高く、体を覆えば動きを強化できるだけでなく、防御面でも活躍できる。しかし、リングが破壊されると本人の想像に大きな負担がかかり、新しくリングを出すこともできなくなってしまうため無茶は禁物である。
〈サブ〉
あらゆるものの繋がりをラインとして視覚的に認識できる。ただし、あてずっぽうで使うと大量の線が現れて判別できなくなってしまう。そのため、もうすでにわかっている関係を改めて確認するのが主な用途だ。特に、イマジンで結びつけたものを確認するときに役立つ。
これはイマガイズなしでも発動できる。
【ドグラ】
〈イマガイズ〉
ドグラのイマガイズは輪郭が煙る灰色の面である。顔の造形は目と鼻しかなく、物悲しいとも憤っているとも受け取れる表情をしている。
〈イマジン〉
ドグラのイマジンは触れた二物体の境界を曖昧にすること。固体と気体を曖昧にすれば煙のように混ざり、固体と液体を曖昧にすれば粘性の高い液体になる。固体同士の境界を曖昧にすることは不可能。
物体は曖昧になっても性質を失わず、気体であればゆっくりと元の形に戻ろうとする。気体よりも密度のしっかりした液体であれば、生物の意思で動かすことも可能である。
広範囲に拡散し元に戻ろうとする物体を強制解除することで、物体はその場で元に戻る。つまり、煙のように散り散りになるかペースト状になるという致命的な破壊を受けてしまう。ドグラはこの自身を煙状にする防御と相手を霧散させる攻撃を使いこなし、攻防隙のない戦闘を展開できる。
複数物体の境界を同時に曖昧にすることもできるが、強制解除も同時に行わなければいけない。またイマジンは長時間持続させられず、時間切れになったときにも強制解除が起こる。ドグラ本体が拡散した状態で強制解除が起こると例にもれず彼も霧散してしまう。
〈サブ〉
物体の境界をはっきりと認識できる。これは自身のイマジンの効果に限らない。そのため、深い霧の中でも対象を見失うことがない。イマジンでは自分を希薄にしても見失わず、敵の位置も把握するのに役立つ。
これはイマガイズなしでも発動できる。
【セイ】
〈イマガイズ〉
セイのイマガイズは蠢く紫肉片を抑え込む金属質の爪である。金属の爪は前方に四本、後方に四本伸びており、前方は指輪の爪のように控えめに顔にかかっている。顔には黒い丁の字があり、その腕に赤い四つの点が打たれている。後頭部の爪は先端が捻じり合わされており肉片を抱きとめている。
虫、あるいは無機質な機械のような様相を見せる顔部分と、いかにも有機的で得体の知れない肉部分の対比が不気味なイマガイズだ。金属質の爪は鋭く、さらにそれに凶暴なイメージを加えている。
〈イマジン〉
セイのイマジンは自傷。セイの体内に潜むイマガイズと同質の爪で、カニのような節を持つ。数は四本。攻撃としては爪本来の鋭さを利用した変哲のないものだが、これに特徴がある。
まずは、爪によってセイが受けた傷は瞬間的に再生できる。相手の攻撃を受ける直前に腕を斬り飛ばせば、攻撃を受けずに済む。さらに飛ばした腕からも爪を出現させることができるため、奇襲にも向くのだ。爪は力強く、セイ本体を重力に逆らって易々と天井に固定できるほど。四本そろえば、移動速度もかなり早い。そしてなにより不気味だ。
爪による自傷は出血がかなり抑えられるがゼロではない。そのため、あまり無暗に多用できないのが弱点。
〈サブ〉
血液を常人の数倍のスピードで作り出せる。
だが、それでも間に合わないらしく、セイはいつでも貧血気味である。
これはイマガイズがなくても常時発動している。
【エイラ】
〈イマガイズ〉
エイラのイマガイズは目の周辺を覆う漆黒の仮面である。それは全くの黒であるのに内部で光を乱反射し、カットされたオニキスのような輝きを持つ。下方に行くほどシャープになるデザイン。目には濃藍色の平行四辺形が埋められている。
〈イマジン〉
エイラのイマジンは身の丈もある巨大スプーンだ。デザインは華奢だが意外と切れ味もある。このスプーンで触れた影を物質化するのが能力だ。
スプーンは影を液体のようにすくうことができ、これが出現の基準となる。すくった影を空間に浴びせることで、基準点からそこへ向かって影が立体となってせり上がる。出現した物体は真っ黒で異様な硬度と粘りを持つ。要は頑丈。だが新しく現れた光には弱く、周囲が明るくなると液状に溶けだし、ものの数秒で元の陰に戻ってしまう。
影物質は影の元となる物体の性質も有しており、エイラ自身の影を物質化することで戦闘を任せることが可能。
〈サブ〉
エイラのサブは闇を影に分断すること。一様に真っ暗な空間でもエイラはそれを影の集合と認識できる。これにより、彼女は周囲が暗ければ暗いほど真価を発揮できる。同時に夜目も効くようだ。
これはイマガイズなしでも発動できる。
【コタツ】
〈イマガイズ〉
コタツのイマガイズは石のブロックを組み合わせた面だ。白茶けた石は古びていて、所々欠けや風化が見られる。右目を中心に擦り窪む構造があり、仮面の縁から伸びる赤いギザギザしたグラデーションが窪みを囲う。赤い部分は岩石部分と対照的に磨かれたリンゴのような光沢をもつ。
〈イマジン〉
コタツのイマジンはイマガイズと同質の石球。赤いグラデーションは下部を覆う。この石球の周囲には独自の重力が働き、ざっくりといえば物体を引きつける。地面やそれに固定されている物体、あるいは超重量をもつ物体を引き寄せることはできないが、それらに向かって石球を高速で飛ばすことができる。
石球はいくつかに分裂させることができ、その度に大きさと引き寄せる力が弱まる。
石球を設置し、その間をコタツが縦横無尽に飛び回る。敵を誘導し、石球の間に来たら挟み込んで動きを封じる。これがこのイマジンの基本戦法である。必殺技はらせん状に配置した石球の間を回転しながら突進する蹴りだ。
〈サブ〉
サブは身体強化。これはイマガイズなしに発動できない。
【キジマ】
〈イマガイズ〉
キジマのイマガイズは機械的なゴーグルを備えた仮面。鼻の部分がくちばしになっており、本人の顔の印象をより強めたものに見える。
〈イマジン〉
キジマのイマジンは何の変哲もないナイフに見える。だがこれは相当厄介な代物だ。能力は開封。切っ先が触れたものを開けることができる。鍵はもちろん、生物の目や口を開かせたり、構造がはっきり分離されていればイマジナルの装甲だってはがすことが可能だ。
本来探索向きのイマジンだが、キジマの経験がこれを戦闘に耐えうるものにしている。
〈サブ〉
サブは身体強化だが、俊敏さと器用さに特化している。力比べは得意ではない。
これはイマガイズなしでは発動できない。
【イセキ】
〈イマガイズ〉
イセキのイマガイズは下部の縦に並んだスリットと目の上についた台形の取っ手以外何もない、シンプルなものだ。頭部全体を丸く覆う。ところどころにへこみがありボコボコしている。
〈イマジン〉
イセキのイマジンは太く長い鎖。単純に振り回しても強いが、鎖は生きたように操作できる。対象に絡みついた後は、思う存分叩きつけ引き摺り回すだけだ。イセキ本人に巻きつけることで鎧のようにしたり、ワイヤーアクションをすることも可能。
〈サブ〉
サブは身体強化。これはイマガイズなしには発動できない。
【セイジュ】
〈イマガイズ〉
口元を覆う、迷彩様の複雑な柄をしたマスクがセイジュのイマガイズだ。マスクの縁から頬にかけて硬くごわごわした毛が生えている。
〈イマジン〉
セイジュのイマジンは犬のようなイマジナル。顎と四肢が異様に発達しており、噛みついたら最後、何があっても離さない。これは能力によるものではなく、単純な力によるものだ。噛みついた後は四肢で踏ん張り、得物の行動をとことん阻害し、体力を奪っていく。弱ってしまえば止めを刺すのは容易い。
瞬間的な決定力こそないが、第五巡回班が堅実に持久戦を立ちまわれるのはこのイマジンの貢献が大きいためだろう。
〈サブ〉
不明。だが、セイジュは鼻が効く。これがサブではないかと考えられる。
【コモン】
〈イマガイズ〉
コモンのイマガイズは獣の面。全体に茶褐色の気が隙間なく生えており、緑の瞳をした大きな目が主張している。耳は三角にとがっている。口はあまり尖っておらず、生えている歯は人間の物に近い。だがその作りは遥かに頑強であり、特に犬歯の発達が目立つ。
噛みついたりはできないが、目はぎょろぎょろと動き、瞳が大小する。
〈イマジン〉
コモンのイマジンはコピー。人間の行動に限り、あらゆるものを一目見ただけで完全になぞることができる。イマジンさえもだ。だがイマガイズに備わった力、サブだけは真似できない。
想像の力でありながら、コピーは複製に過ぎず想像力をほとんど使わない。ごく小さなコストで他人のイマジンを操れるため、結果的に何倍にも強力になった力を複数操ることができるのだ。敵対するイマガイズが多ければ多いほど圧倒的な力を発揮するイマジンである。
〈サブ〉
コモンのサブは観察眼。イマガイズの緑の瞳でコピーに必要な情報を一瞬で読みとることができる。
これはイマガイズなしでは発動できない。
【エド】
〈イマガイズ〉
エドのイマガイズは顔に被さった棺である。掘り起こされた棺が立ち上がる過程をストロボ撮影したように、喉を支点にして首から顔までを断続的に覆っている。棺の蓋が顔の真ん前についているため、エドの顔は横の隙間から僅かに見えるだけである。蓋の正面には大きな手形がついている。
〈イマジン〉
エドのイマジンは、巨大な球根のような形状のイマジナルだ。無生物、特に地面や壁などに抵抗なく潜り込むことが可能で、下部から何本も伸びるらせん状の肉紐で泳ぐように移動する。能力は死体操作。肉紐が連結した死体に無生物潜行の効果を与えた上で自由に操作できる。死体は生前よりパワフルに動くが、細かい動きはできない。
常駐させることが可能で、連結した死体は腐らない。エドは常に自分の足元にこのイマジナルと複数の死体をひそませているのだ。
〈サブ〉
エドのサブは球根イマジナルが連結した死体の管理である。死体の位置、欠損の具合を視界に入れずとも把握できる。
これはイマガイズなしでも発動できる。
【カザマ】
〈イマガイズ〉
カザマのイマガイズは顔から耳にかけて覆う、つるりとした緑の面である。目や口、鼻はなくのっぺりとしている。勾玉の尖った方を上に向けた形の突起が正中線上と左右の顎のラインを延長して並んでいる。
イマガイズのデザインではないが、カザマ本人の髪が突起で乱された気流を表現するかのようにうねっている。
〈イマジン〉
カザマのイマジンは風に乗る。木の葉というよりも、風の一部になることができる。これにより敵の手足が起こす風に乗って攻撃を容易にかわせる。風上であれば素早い移動を可能とする。攻撃面でも優秀で、風に乗りつつ繰り出す攻撃は、身体強化のサブに勝るとも劣らない威力を生みだすのだ。
このイマジンはスイッチ方式であり、風に乗るか乗らないかをカザマが決定する。常駐させておけばカザマの意思と関係なく発動するため、よほど先を読んだ攻撃でなければカザマを捉えることはできない。
〈サブ〉
カザマのサブはバランス感覚。咄嗟の空気の流れで姿勢を崩しても、滅多なことで転倒することはない。激しく回転しながら着地しても、足をくじく心配は無用だ。
これはイマガイズなしでは発動できない。
【リネン】
〈イマガイズ〉
リネンのイマガイズは頭部全体を覆う鈍い黄金の仮面で、周囲には見たこともない文字のような図形のような模様がびっしりと彫り込まれている。顔の造形の凹凸は精巧に作られているが、目と鼻、そして口の部分がくり抜かれてしまっているため立体感を損なってしまっている。また顔の中央には溝があり、左右に開くようになっている。
仮面の下に見えるのはリネンの顔ではない。仮面の内側は暗く、詳細はうかがい知れない。
〈イマジン〉
リネンのイマジンは白い包帯。弱い力で自由に動かすことができる。能力は仮死。巻きついた物体の機能やエネルギーを一時的にゼロにする。包帯自体に力はほとんどないが、巻きつかれると一瞬止まったようになり、さらに動かせもしなくなるため、そうなってから逃れるのは難しい。
包帯を出せる量には上限があるが、破壊された瞬間から再び上限まで出せるため、包帯にいくら攻撃を加えられてもリネンは痛くも痒くもない。
リネンは包帯をある程度、耐久性の見込める塊にして敵の元へ転がすように送り込む。そしてじわじわと追い詰めていくのだ。
仮死の範囲は細かく設定でき、神経を仮死にする包帯を厚くリネン自身に巻くことで、不死者のように粘り強く戦うことができる。しかしこれはダメージを軽減しているわけではなく、痛みによるブレーキが一切なくなっているだけだ。激しい戦闘は命に関わる。
〈サブ〉
不明。まだサブに目覚めていない可能性もあり。
【ウズ】
〈イマガイズ〉
ウズのイマガイズはぬめりを感じさせるこうもり傘状の面。サザエのように見える飛び出した目と、むちゃくちゃに密集した鋭く細い牙が目立つ。鼻は二つの小さな穴が空いているだけの簡素なものだ。
〈イマジン〉
ウズのイマジンは他空間に存在する海。現空間に重なるようにして存在し、ウズはその存在を感じとれるものの通常は干渉できない。
この海には光が淡く差し込んでいるが、深海並みの水圧があり生きた物が一切存在しない。微生物の死骸が白い砂漠のようにどこまでも続き、雪のようにゆっくりと降る。所々に異様な海洋生物らしい骨が頭を見せているだけの寂しい場所だ。
普段は干渉できない他空間にある海だが、そこにある死骸を媒体に現世界に繋がる穴をあけることが可能だ。現世界では穴から大量の海水がもの凄い勢いで噴き出すことになる。穴は数秒で閉じ、噴出した海水もすぐに消えてしまう。
ウズは自分の体から海水を噴出させ、その勢いで素早く力強い行動ができるほか、他空間の海に身を隠し別の場所から現れることもできる。
最初の死骸をどこから手に入れたのかはわかっていないが、何かのはずみでこちらの世界に紛れ込んだのかもしれない。六本腕のヒトデ、短剣のような巻貝、原始的な頭骨魚の骨などが彼女お気に入りの死骸である。
〈サブ〉
ウズのサブは水中での動作を補助する。イマガイズが海水から酸素を取り込むため窒息の心配がない。また水中に限り、人間を越えた機敏な動きをすることができる。
これはイマガイズなしには発動できない。
【皆瀬アキヒロ】
〈イマジン〉
皆瀬のイマジンはあらゆるものを出現させられるが、飾有町は皆瀬によって作られたものだった。これは建物だけを指すのではなく、そこに住む人々、そして動植物すべてだ。圧倒的無限の想像力が彼のイマジン。
ただ、これほど多くの物体を長期間に渡って維持するのには、相応の負担、そしてメンテナンスが必要だった。その負担を肩代わりするのがアドマインであり、メンテナンスを先送りしたために生まれたのがイマジナル、そしてイマガイズだった。




