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浮き彫りになった現実

 日本代表にとって、連覇と史上最多の5度目の優勝がかかるアジアカップ。その初戦となるパレスチナ戦の日を迎え、ロッカールームでは選手の前で四郷監督が展望を伝えていた。


「さて。我々は今日より、ただ唯一連覇の資格を有するものとして、このアジアカップを戦う。その中でこの予選グループは、パレスチナ、イラク、ヨルダン。前評判通りならば順当にグループ突破『しなければならない』組み合わせだ」

 語尾を強調した四郷監督。選手たちの表情も自然と引き締まる。

「あえて山場を言うならばイラク戦となる。これをプレッシャーなく戦うためには、今日のパレスチナ戦と6日後のヨルダン戦は『圧倒的に完封勝利をする』必要がある。全員で守備意識を統一し、全力でゴールをこじ開けてこい」


 試合前の選手入場。スタジアムの雰囲気はなかなか良好であった。季節は日本と真逆ではあったが、中東ほどの酷暑でなけれは、反日感情丸出しの中韓ほどの罵詈雑言もない。所謂アウェー感はむしろ乏しいくらいだった。


「いい雰囲気だな。日本ほどプレッシャーもないし、新年最初の試合にゃもってこいだな」

 ドイツで活躍するストライカー、尾崎慎吾は楽しむかのようにつぶやく。

「プレッシャーがないわけじゃないでしょ。連覇期待のチームが格下相手ですよ。負けたら何言われるかわかったもんじゃない」

 一方で10番を着ける加賀美健二は、この試合にもプレッシャーはあると言う。

「ブラジルから半年、だいぶ冷めたけど、やっぱ日本じゃ煽り凄かったっすからね。やる以上それなりの結果が幸先良く欲しいから」

「ま、なんにせよ、監督と新顔のお手並み拝見ってとこだ。大事な初戦、海外組をベンチに置いてんだからな」


 そう、この試合。尾崎、加賀美といった海外組の多くはベンチスタート。スタメンには五輪代表5人全員がスタメンに入ったのである。


日本代表スタメン


GK23渡由紀夫(川崎)

DF21坂井剛(独シュツットガルト)

DF6重森誠(AC東京)

DF2内海秀人(湘南)

DF5永本佑太(伊インテル)

MF17長谷川将(独フランクフルト)

MF7新藤和人(G大阪)

FW16竹内俊也(和歌山)

FW18剣崎龍一(和歌山)

FW22西谷淳志(露エカツェリンブルグ)

FW4本条祐輔(伊ミラン)



「しかしあの監督もなかなか『大概』やな。半分がA代表デビュー戦て」

 ピッチで円陣を組む際、司令塔の新藤は笑いをこらえていた。

「祐輔、その3人上手く使えよ?最近ゴールに燃えてるお前からしたらしゃくやろうけど」

「まあええですよ。だったら扱うなかで格の違い、見せるだけですから」

 笑みを浮かべた本条は、剣崎、西谷、竹内の三人をにらむように見た。

「いいか。今日はお前らにゴールを譲る。だから絶対に点とれ」

 やや脅すように声をかけた本条。それに対する返答に面食らった。

「任せろぃっ!!」と年下なのにため口で返してきた剣崎。

「オッケーです。ただ、俺はクロスも武器なんで、いいクロス送りますから本条さんもよろしく」と謙虚そうでさりげなく要求もした竹内。

「ロシアで見た時の俺は捨ててください。あんたがセリエAで結果残してんのとおんなじで、俺も一皮むけてますからね」と、西谷は表情を崩すことなく、それでいて殺気丸出しだった。


(大したもんやな。ま、大口なら多少度胸あれば叩けるからな。口だけかはこっからで判断するか)


 試合開始。前半は風下となった日本代表。立ち上がりからパレスチナを圧倒する。

 特に両翼の竹内と西谷は、両サイドバックの援護を受けながら面白いようにプレー。竹内はクロスを上げたりドリブルで切れ込んだりと多彩な攻めを見せ、西谷は力強さとタフさを見せて自分のサイドを掌握。二人はすっかり代表の試合に入れていた。


 前半10分だった。右サイドでボールを持った竹内は、斜めに切れ込んでバイタルエリアに侵入。相手の守備陣の視線を自分に集める。

「お膳立てできましたっと」

 そうつぶやいて、少し広がった中央のスペースにパス。本条がそれをスルーすると、走りこんできた新藤がミドルシュートを叩き込んだ。

 さらにその6分後。

「これぐらいの守備。全員ぶち抜いてやるぜ!」

 今度は西谷が強引にドリブルを仕掛け、止めにかかってきた相手DFをなぎ倒しながらゴール前に侵入。最後に止められたがその時ボールは本条の足下へ。入れるだけでよかった。

「このゴール、借りとくわ」

「トイチですけどね」

「お前が代表に定着したら返したる」


 一方で内海と渡も光っていた。一方的に日本代表が攻めている展開だったのでピンチらしいピンチはほとんどなかったが、それでも集中を切らさず。渡は的確なコーチングで相手の攻撃の選択肢を事前に奪い、内海は相手の得点源を執拗にマークしながら、苦し紛れの相手パスをことごとくカット。カウンターの基点ともなった。




 だからこそ、剣崎が完全に浮いてしまっていた。


 いいポジションは取る。シュートも打った。だが、いつものようにゴール前で圧倒的な存在感を見せている剣崎は、そこにはいなかった。

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