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目先の点より今後の形

 川崎戦は、櫻井の個人技で勝ち点1を掠め取った和歌山。

 だが、勝ち点を得られたことよりも、相変わらずの守備陣のもろさを露呈。キーパーが友成でなかったら間違いなく負けていた。試合を採点したサッカー関係各誌は「友成の奮闘と川崎の精度の低さによる勝ち点。どちらかが欠ければ6-1であってもおかしくなかった」と書きたてた。それだけ決定機を作られたという事であり、友成がセーブしたという事は、シュートは枠に飛んでいたということだ。

 そして攻撃がいよいよ手詰まりとなってきたという現実。チャンスらしいチャンスは多くなく、特に前半は和歌山らしさは垣間見れなかった。特にFWの選手たちが限界を感じていた。誰もがテコ入れを必要としていた。


「どうしたもんかね・・・」

 今石監督は練習風景を見ながらそうぼやく。ここ最近、ベンチに座って腕組みする姿が目立つ。和歌山の選手の質、特に攻撃陣においてその高さが抜きんでていることは間違いない。エース剣崎は今や押しも押されぬ存在として得点だけでなく、周りの味方を生かす動きも身に付き始めた。竹内も今シーズンゴールこそ少ないが、飛び級でA代表に選出されるなど今更言うまでもない。そして守護神に君臨する友成も、リーグ屈指のキーパーとしてその存在が周囲の耳目を集めている。このほかリオ五輪代表の主力選手が多数在籍し、バゼルビッチも現役のA代表選手だ。経験を含めればソン、チョン、仁科もそうだし、ユース年代で名をはせた選手も多い。数字上の結果も残っているという余裕もあり、今石監督はある日腹を括った。

「よし。あとは野となれ山となれだ」



ACLグループリーグ第6節

VS上海朱雀@上海スタジアム


スタメン

GK1友成哲也

DF2猪口太一

DF5大垣彰磨

DF26バゼルビッチ

MF27久岡孝介

MF10小宮榮秦

MF6上条慎之右

MF15ソン・テジョン

FW36矢神真也

FW16竹内俊也

FW9剣崎龍一

リザーブ

GK30本田真吾

DF7城崎翔平

DF32三上宗一

MF4江川樹

MF8栗栖将人

MF28藤崎司

FW13須藤京一



「おいおい。これって・・・」

「ああ。ヘルナンデス監督がキャンプでやってたっていう3-4-2-1だ。剣崎が1トップかあ」

「守るときはウイングバックの上条とソンが下がって5バックになって守備を固めるって寸法だな」

「しかし3バックとは思い切ったよねえ。クラブでも初めてなんじゃねえのかな?3バックていうのは」

「なんか迷走にならなきゃいいがな」

 スタメンを見た日本人記者たちが、和歌山の布陣を講評していた。同じようにJペーパーの和歌山番・浜田もこれを見定めている。

(剣崎の1トップは分からないでもないけど・・・3バック、大丈夫なのかしら。特にこの布陣だと、ウイングバックの上条とソンの運動量がすごい必要なんじゃないかしら。この試合、今石監督は捨ててるわね。戦術の成熟のために)




 スタンドの記者席の空気とは別に、ピッチに立つ剣崎は目を閉じていた。

(『俺に・・・クラブを託す』か・・・)



 前日宿舎で今石監督とタイマンで呑んだ時を思い出していた。



「しかしオヤジよ。結構思いきった話だよな。まさかヘルナンデスが仕込もうとした布陣に切り替えるとはよ」

「しょうがねえだろ、こないだの川崎戦がいい例だ。正直失点が止まらねえ以上、守り方を変えるしかねえし・・・」

「な、なんだよ」

 戸惑う剣崎に構わず、今石は吐き捨てる。

「お前らの目が死んでるのを見て、ついでに攻め方も変えてやるってな、あれで腹くくったぜ」

「死んでるって・・・。まあ、正直行き詰ってたよな、最近の俺たちは」

 ため息をつきながら、剣崎はビールを飲み干す。「頭の悪い俺でも分かる。もう俺達は今までのやり方だけじゃ点はとれねえ。今までは流れに任せて一気に行ってたけど、今は俺達に慌てるチームもなくなってる」

「お前や友成はともかく、他の選手は・・・変な言い方だが、人間の範疇にいる。だから対策も立てられるし、対応もできるわけだ」

「そうか?トシやコミも対策があんのか?」

「そうそうできねえが、お前ほどは難しくねえ。つまり、お前と友成はもはや人間じゃねえってことだ」

「褒めてんのか貶してんのかがわかんねえな、その言い方」


 剣崎がそう笑ったところで、今石監督はグラスを置いた。そして真剣な表情で剣崎に面と向かっていった。

「明日の布陣は、今シーズンのうちの形だ。攻めの中心は・・・いや、メンバーの軸はお前だ。お前の出来次第でチームがもっかい息を吹き返すかJ2に落ちるかが決まるって考えてくれ」

 今石の言葉に、剣崎は自信満々に言い切った。

「チームの命運は俺次第か・・・。望むところだぜ!あの友成やろうがいくらゼロでしのいでも、俺が点取らなきゃ勝てねえんだ。任せろって話だぜ、オヤジ」

 ドヤ顔の剣崎。それをみて今石は吹きだした。

「な、なにがおかしいんだよ・・・」

「ククク、お前らがホントに似てんなって思ってよ。飛行機の中で友成におんなじこと言ったんだ。そしたら、『バカが点取っても俺がそれ以下に失点を抑えないと勝てない』ってよ。いがみ合っても根は一緒なんだな」

 最後の言葉はしゃくだったが、剣崎もまた腹を括った。




「絶対にこのチームを蘇らせてやらあ」



 最後尾の友成も誓った。


「俺が勝たせてやる。また高みに連れていってやる」



 だが、先行きは不安。新布陣、やはり成熟度の差が露骨に出て3-0の完封負けを喫した。

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