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一つの正念場

 サポーターにタンカ切って迎えるACLグループリーグ第5戦。ホーム紀三井寺に江南レオーネを迎え撃つ。思えばヘルナンデス政権に対しての不信感が生まれたのは、アウェーで戦った折、勝っている展開での逃げ腰の交代策だった。あれから監督は代わったが、なかなか結果が出てこない今、決勝トーナメント進出はもちろん、今年の命運自体を決する試合と見ても間違いないだろう。本人たちは鼻にもかけていないが、やはり昇格3クラブに全敗しているという事実は重い。


 そして迎えたこの試合。スタメンとベンチはこんな感じ。

スタメン

GK1友成哲也

DF15ソン・テジョン

DF26バゼルビッチ

DF3内村宏一

DF11佐川健太郎

MF2猪口太一

MF4江川樹

MF16竹内俊也

MF42櫻井竜斗

FW9剣崎龍一

FW31小松原真理

ベンチ

GK30本田真吾

DF32三上宗一

MF10小宮榮秦

MF17チョン・スンファン

MF28藤崎司

FW13須藤京一

FW36矢神真也



 松本コーチは愚痴が止まらないでいた。

「俺ってつくづく監督に恵まれないな。お前にしろ、バドマンさんにしろ、ヘルナンデスさんにしろ」

「そうかね。俺はいたってまともだと思うが?」

「初陣でスタメンをユースで固めたり、こういう強豪との試合で大学生使ったり、唐突に選手をコンバートしたりしてるJ1新人監督がか?」

小松原コマは十分通じるよ。俊也が巨大化したって感じそのまんまだ。それに、佐川だって主戦場は左だ。それが後ろに下がっただけだぜ?」

「まあ、百歩譲ってそれはいいとしよう・・・。だが、なんで内村なんだ?これはホント聞いてないぞ!」

「内村?訳わかんねえ選手がいたほうが相手も混乱するだろ。『守らないセンターバック』なんて斬新だろ」

 今石監督は他人事のように笑い、松本コーチは頭を抱える。こういうやりとりは3年ぶりだ。

「まあマツよ。ACLの星勘定は2勝1分け1敗。グループ首位も狙える位置にいるんだ。気楽に行こうぜ」

「気楽にね・・・。向こうは今日の結果如何で最下位転落があるから、相当馬力かけてくると思うけどな」

「だから内村なのさ。いなすことをイライラさせることに関しては天才だからな。あいつは一生懸命頑張るやつを台無しレベルに邪魔するやつだからな」

「もう少しまともな例えないのか?」

「あそ?んじゃ『やな人間』」

「短けりゃいいってもんじゃない!」


 それを遠目で見ていた藤崎は思った。

(なんか漫才見てるみたいだな。監督とコーチのやり取りは)


 さて試合開始。初っ端江南は球際で激しく攻め込んできた。松本コーチの言ったように、彼らは崖っぷちであった。優勝候補の一角という下馬評でありながら、和歌山との後に戦ったバンコクとのアウェーゲームで金星を献上。上海とはホーム、アウェーとも引き分けに終わり、優勝どころかグループリーグ敗退の危機に瀕していた。外野からのバッシングは和歌山以上に激しく、選手と監督ともに「負けたら生きて帰れない」という心境だった。とにかく先制点を奪わんとガツガツ攻め込んできた。

「おほほほ。やっぱ激しいね。ご苦労なことで」

 最終ラインでボールをキープしていると、内村は鬼の形相でプレッシングに来る相手FWを、憐れみの目で嘲笑を浮かべた。

「そういう必死さを最初から出しなさいよ。今更出したところで遅いんだからねえ」

 内村はそれをいなすと、前線の右サイドに位置する竹内にロングパスを蹴った。

「さてと・・・まずはどっちを使おうか」

 ボールを受けた竹内は、ゴール前を見やる。ニアには剣崎、ファーには小松原がいる。一方そのマークには剣崎にヤン・テンシク、小松原には同じく韓国人DFのイ・テジンがついている。イはヤンと比べれば格下だ。

(知名度でマークつけたって感じだな。今日は向こうは3バックだから1人余ってるけど、そいつの動きも剣崎に向かってる。じゃ、コマのお手並み拝見だ!)

 竹内はドリブルで仕掛けた後、ファーの小松原に向かってセンタリングを上げた。

「来たっ!」

 ボールが自分のところに来て、小松原はヘディングの体勢に入る。この瞬間、小松原は今石監督からの言葉を思い出していた。



「まだ大学生のお前をスタメンに使う事に、あーだこーだ言う奴はいるだろ。だがな、お前は剣崎の強さと竹内の巧さを併せ持った男だ。この試合で通用しないはずがないんだ。それをファーストプレーで相手に教えてやれ。向こうは実質崖っぷちだから『こいつもできるのか?』って思わせたらこの試合は九分九厘勝てる。頼むぜ」




「最初のプレー・・・狙うか!」

 意を決し、小松原は高く飛び上がり、相手DFを背負いながら竹内のクロスをヘディングシュート。キーパーの右腕は及ばなかったが、わずかに高くクロスバーにはじき出された。江南は安堵し、和歌山は頭を抱えて・・・終わらなかった。跳ね返ったボールは、剣崎の射程圏に入ったのだ。頭ではなく、足の。

「そぅらっ!!!」

 小松原がヘディングした瞬間、剣崎はゴールに背を向けていた。マークについていたヤンはその行動を不思議がったが、次の瞬間跳躍したかと思うと、剣崎の左脚が自分の頭よりも高いところにあったのは驚いた。

(普通ヘディングじゃねえのか・・・)

 そう思ったときには剣崎のオーバーヘッドが先制点となってゴールを貫いていた。

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