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付け焼き刃でもしないよりはマシ

「さてと。時間が少ない中で尾道対策をこれから仕込むわけだが・・・。ま、正直言って付け焼き刃にしかならんが、それでもやらないよりはマシだ。それに、これのはまりようによっちゃ、向こうの攻撃をだいぶ混乱させることができると俺は考えている。だからしっかり聞いてくれ」


 まず今石監督は、180センチ未満で編成された最終ラインに指示を送った。

「向こうの攻撃についてだが、知っての通り去年、つーか今までになかった高さという武器を得たことで、一番通用しているサイドバックの攻撃力を生かせるようになった。元々桂城や亀井のパス能力で平面でのつなぎも良かったわけだが、これに野口の高さが加わって攻撃が立体的になった。で、尾道戦においてまずは・・・このサイドからのクロスを、ほったらかす!!」

 瞬間、一同ズッコケ。矢神が声を荒げる。

「『ほったらかす』ってなんだよ!!普通対策は敵にストロングポイントを潰すんだろうが!!」

「おいおい矢神よ。今さんのこういう方針なのは今更な話だろ」

 栗栖はそうカラカラ笑って矢神に突っ込む。

「なあスドよ・・・。正直大丈夫か?」

「わかんねえよ雄介。だって1年しかやってないし」

 その傍らで須藤と根島は不安顔でひそひそ話。まるでこのノリは高校の授業風景である。


「まあ聞け。正直このメンバーじゃあっちの高さとタイマン張るなんてのは自殺行為だ。だったらむしろそれしかできないように追い込んでいこうかって思うわけだ」

 そういってボードにマグネットを次々と取り付けていく。

「最終ラインのメンツは左から三上、米良、猪口、江川って言う組み合わせになる。この中で向こうの野口の監視役は米良。そんで司令塔の桂城には猪口がつけ。お前ら二人はこの二人から自由を奪え。特に桂城は殺す・・・っつうのは言い過ぎか。ま、埋没させちまってくれ」

「はい、任せてください」

「野口さんか・・・やったことないからなあ。どんなイメージでいきゃいいんだろ」

「大丈夫、俺がコツ教えるよ。去年一緒にやってたしな」

 猪口に励まされ、米良は幾分安堵した。

「基本的にプレスを積極的にかけに行く。一番近い人間がボールホルダーに当たって、それ以外はボールの逃げどころにポジションをとれ。そんでもってな、剣崎と矢神。お前ら2トップは特にセンターバックがボール持った瞬間ガツガツ行け。どっちもそれほど足はうまくないからな」

「はは。要は奪って点とれってこったろ」

「んな単純じゃないっつの」

 自信満々の剣崎と、それに露骨にあきれる矢神。


 そしてこの試合のカギともいえるコーナーキックのディフェンスの練習に入った。




「いーか剣崎。今度の試合、コーナーは攻めも守りもお前がカギだからな。お前がデカブツ(野口、岩本)を潰すことが大事だからな」

 そういって剣崎は野口、岩本に見立てた小松原、仁科、さらには本田、舳といったキーパーたちと剣崎は空中戦を繰り返した。


 他にも、力を入れた練習がある。結木、マルコス井手を想定したマンマークだ。

「おら須藤粘れ!!簡単に負けんな!!」

 今石の鼓舞に後押しされるように、須藤はソンとの切り返し合戦に食らいつく。

「そらっ!」

「やらすか」

 こちらは竹内と佐川の戦い。見ているだけでかなり迫力があった。



「攻撃の約束事。矢神、須藤、竹内。お前らは必ず一本はペナルティエリアの外からシュートを打て。ミドルやロングを混ぜることで相手を迷わせろ。で、それが本来の十八番の剣崎は、前半なるべくシュート打つな!」

「はあ?マジで」

 意外な指示に剣崎は目が点になる。

「とにかくくこうに戸惑う素材を与えるんだ。迷いを少しでもちらつかせれば必ずスキが生まれる。ほんの少しでもいい。特に俺たちのことを生で見ていない岩本には効くだろう。一人が迷えば必ずラインは乱れる」



 付け焼き刃だらけの作戦。それでもやらないよりはマシだ。ホームの利点を生かし、今石は時間の許す限り選手たちに策を浸透させた。

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