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突貫工事中

 解任騒動から1週間。五輪代表予選で試合のないことを利用して、アガーラ和歌山は急ピッチでチームの立て直し作業を進めていた。


 さてアガーラの首脳陣だが、監督は今石GMが兼任で就任。松本ヘッド、吉岡GKは留任し、マルコスは通訳の肩書が取れてコーチ業に専念することに。また、空いたフィジカルコーチには橙山とうやま学院大学サッカー部でコーチをしていた村尾健一郎氏を招聘した。スポーツ医学を専行しドイツでの留学経験を持つ。かつて父親が和歌山でコーチをしていた(シーズン1、2参照)上に、留学先がバドマン前監督の率いていたクラブという二重の縁があった。世界は広いようで狭い。

 立て直す体制はある程度整ったが、同じタイミングで五輪の一次予選が重なり、剣崎ら主力選手7人がごっそり持って行かれたのは大きな痛手。戦力云々以上に人数不足にもなったので、ここで今シーズン初の「補強」に動いたのであった。



 新体制始動日。練習場に一人の選手が現れた背丈は180センチ以上あり、「橙山学院大学蹴球部」と背中にかかれたジャージを身に付けている。

 その選手が誰なのか。最初に気付いた江川は驚きの声を上げた。

「えっ!!マコトじゃんっ!」

 そう言われた人間も江川を見て表情を明るくした。

「お~っ!エガ!!久しぶりだな、まだプロやってたのかよっ!」

 固く握手する二人にあっけにとられた久岡は江川に聞く。

「なんだ、江川。こいつと知り合い?」

「ユースの時に出た国体の和歌山選抜のチームメートっすよ。しかし・・・GMから特別強化指定の選手が来るって聞いてたけど、お前だとはなあ」


 アンデルソンの契約解除に伴い、FWのコマ不足を懸念した今石GMは、村尾コーチとともに、同大から長身のストライカーを特別強化指定選手という形で獲得した。

 彼の名前は小松原真理こまつばら・まこと。高校時代は和歌山県では屈指の強豪校である初島橋本高校のエース兼キャプテンとして活躍。大学進学後も橙山学院のエースとして活躍。近畿大学一部リーグで毎年二桁ゴールを記録する関西屈指の点取り屋である。タイプ的には「背の高い竹内」という具合。188センチの長身を誇りながらスピードやテクニックも兼ね備えている。背番号は31を予定している。

「というわけで、今日からウチの一員となる小松原だ。正式な出場登録はもう少し先になるが、実力は確かだ。まず剣崎らが戻ってくるまでは午前は戦術、午後はフィジカル練習をしていく。あいつらが戻り次第尾道戦の対策だ」

 今石監督は選手たちにそう方針を話したが、正直その合流が尾道戦の直前まで待たねばならないので、実質付け焼刃的な対策となるだろう。それでも今石はいくつかの勝算を見出している。昨年まで尾道を対戦した心強い選手がいたからである。

「米良よ。お前から見て、去年までの尾道と今年の尾道、どう違う?」

 今石に尋ねられた米良は、昨年は水戸の選手として尾道と対戦した経験がある。言ってみれば予備知識を誰よりも持っているという事だ。

「そうっすねえ・・・。まあ当たり前ですけど、今年は高さが加わりましたね。元々結木さんと井手さんの両サイドバックの攻撃参加が武器でしたけど、今年は野口さんがトップにいるから、それが余計にバリエーション増えましたね。王道パターンができたって言うか・・・」

矢神ガミ、お前は?」

 同じように香川にレンタルされていた矢神も思い返す。

「やっぱ中盤が良かったすね。特に桂城さん。あの人が機能するか否かで全然違うでしょ。でも、ボランチの・・・・蒔田・・だっけ?あの人いないだけで中盤は取りやすいんじゃないっすかね」

「じゃ、去年と今、どっちが勝てそうだ?」

「高さがあって・・・サイド攻撃がより有効になった分、そりゃ今のほうが手ごわいかな」

「でも、中盤か最終ラインに圧力かけりゃ勝てそうっすけどね。ぶっちゃけ、亀井さんより力あるボランチ今いないし」

「なるほどな・・・。なあよ、お前らから見て、あいつらの最終ライン、足巧いか?」

 要は攻撃力があるかどうか。これに対して二人そろって首を振った。

「たぶん、短いのはともかく長いのはそんなに・・・橋本さんぐらいっすかね。キープできるのは」

「基本キーパーも蹴りあんまうまくないし。多分放り込みは下手ですね」

 二人の答えに、今石は決断した。

「うし・・・。いっそ、オープンプレーの空は・・・捨てるか」







 そして剣崎たちが帰和した翌日早朝。スタメン予定の選手を集めて尾道戦のミーティングを開いた。

「なあ。あんたに言いたいことがある。バカなのか正気なのかどっちだ?」

 ミーティングを始める前、友成は開口一番強烈な質問。剣崎以外は苦笑交じりで「てめえオヤジにそんな言い方ねえだろ」と剣崎は言い返した。その問いに対する今石の解答はこれだった。

「さてね。元からバカでとち狂ってるからな。おれ」

「分かってりゃいいんだ」


「え~と、まず今回のスタメンは全員ユース出身。しかも、年数の差はあれど俺の指導を受けたことのあるメンツで固めてある。これは俺が次の試合からやりたいサッカーを明確にアピールすうえで、短時間でそれを表現できるメンバーを集めたらこうなった。だから難しい要求かもしれんが、ヘルナンデスに教わったことはすべて忘れてくれ」

「大丈夫っすよ今さん。あの監督から何も教わってないから」と栗栖は笑う。

「ぶっちゃけ、選手のこと最後はほったらかしてましたからね。それに、教わった密度は今さんのほうが濃いし身体が覚えてますから」と、三上も自信ありげに言った。

「でも、そういう監督を呼んだのもあなたの責任ですよ?ちょっと早いけど、どういう責任取るのかは聞かせてもらえませんかね」

 竹内の質問に、今石は一瞬どきりとするが、ひるまずにハッキリ言う。

「確かにな。それについては・・・本当にすまないと思ってる。お前らにはしんどい時間を過ごさせたな。ま、口だけじゃ説得力はねえがな。トシよ。シーズン終わるまで、その答えは待ってくれねえかな」

「ハハハ、すいませんね。きついこと言って。やっぱり今石さんは信じていい人ですよ。ここではぐらかさないあたりがな。いいですよ。今はチームを立て直す大事な時期だし、サッカーに集中しててください」

「すまんな。でだ」

 そこで今石監督はペンを取って、ホワイトボードにいろいろ書き始めた。

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