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「ドカンっ」と「フワリ・・・」

 江南のスタイルは、代表歴も豊富な守備陣が最終ラインを低めに保ってバイタルエリア(ゴール前のもっとも得点をしやすいスペース)にカギをかけ、ブラジル人クレーベル(かつて尾道でプレー歴アリ)とアルゼンチン人フェルナンドの両ボランチが長短織り交ぜたパスで展開し、長身のパク・ドジンと快速のファン・サンイルの元韓国代表2トップの決定力に託す、かなりオーソドックスな戦術を敷いている。得点は2トップ頼みになるので得点力は高くないが、自陣のスペースを潰しているためにパスで崩しにかかるタイプのチームは得意としている。スペースが少なければ、インターセプトする可能性も高いからだ。

 対して和歌山は、全体のポジションを高く保ち、コンパクトな陣形で敵陣近辺でプレー。小宮を軸にしたパスワークで崩しにかかった。和歌山の選手同士の距離が近いために、仮に奪われてもすぐに奪い返す。というか、そもそも江南の選手たちは小宮の対応に四苦八苦していた。

『こっちくるか?』

「なわけねえだろバーカ」

 竹内に視線を移し、相手DFがそれにつられたところで全く逆のクリスにパスを出す。

「頼んますよ、アンデルソン」

 栗栖はすばやく最前線のアンデルソンにセンタリング。アンデルソンはそれを落とすと、剣崎がシュートを狙う。

「行くぞオラァ!!」

『やらすかよ!』

 ボールは剣崎よりも先に、マークについている選手がクリア。シュートしそびれた剣崎は地団太を踏んだ。そして自分のマーカー、ヤン・テンシクをにらんだ。

「てめえには絶対に負けねえからな、覚悟しろよ」

 踵を返した剣崎に対して、ヤンは嘲笑を浮かべた。

『ククク、ずいぶんと俺を嫌ってるみたいだが、試合後にはその強気な顔をひきつらせてやるよ』


 ヤンはチョンから聞いた通り、性格はかなり悪いが、実力は確かである。この試合では剣崎のマークを任されているのだが、肉弾戦において剣崎に引けを取っていない。

(ほう・・・。あの剣崎バカと互角ってのは、ちょっとめんどくせえな)

 小宮は、剣崎がシュートを打とうとするたびに、身体を入れてそれを阻止するヤンの動きに感心する。

(だが、ゴール前だけが奴の射程距離レンジじゃねえことは分かってんのかな。ここはしばらく「お預け」といくか)


 ここで小宮は、剣崎を放置したパスワークを展開。単純な剣崎はすぐにカッカし「小宮無視るなゴルァ!」と訴える。これをみたヤンも「こいつ孤立してるな」と判断。アンデルソンや竹内に意識が向き始める。

 つまり、マークが甘くなる。


 同じタイミングで、剣崎がより小宮の近いところにポジションを下げる。小宮の意図を察していた栗栖は合図する。

「よーし解禁だ。ぶっ放してこいや」

 小宮は剣崎の進路にボールを出す。そしていつものように、強烈な先制パンチを見舞った。


「くらえっ!!」


 距離にしてゴールから30メートル強。やや正面とはいえやさしい距離ではない。だが、迷いがなく長距離とは思えないほどの精度の高いシュートは、まるでボール自身が意思を持ったかのように、ゴール右上に吸い込まれた。


「小宮てめえこの野郎!俺にパスだしゃ決めてやるってのになんでよこさねえ」

「ふん、決めたからといって頭にのるな。あんなものは偶然だ偶然」

「いいじゃねえか剣崎。気持ちいい先制点だったぜおい」

 文句垂れる剣崎と嘲笑する小宮、そしてそれをなだめる栗栖。まるで中高生のようなノリでゴールを喜ぶ和歌山の面々。その傍らで、ソンは息をのんでいた。

(すげえやつだ・・・。この状況であそこまで躊躇なしで打てるなんて・・・)

 一方で、マークについていたヤンは唖然としていた。

(ぐ、偶然だろ。あんなの。だけど・・・蹴った瞬間入ると思っちまった。マークをはがしたらやばいかも・・・)




 さらに和歌山はもう一つ、相手をほんろうする一発をお見舞いする。

 前半も半ば。なかなか和歌山のパスワークがはまらない中で、それでもインターセプトをすぐさま取り返すなど、流れはアウェー側にあった。

(必死だなこいつら。それに、剣崎のゴールをきっかけに、キーパーのポジショニングが迷いが見えるな。うまく行けばアレ、決めれるかもな)

 左サイドでゴール前を観察していた栗栖は、一つの策を頭に浮かべていた。その時に自分のところにボールがきて、さらに自分のそばを上条が追い越した。

「カミさん、中に」

「OK」

 栗栖からボールを受けた上条は、ボールを奪いに来た相手DFを切り返しで振り切り、アンデルソンに向かってクロスを上げた。アンデルソンはそれをキープし、上がってきた竹内にパス。キーパーもシュートコースをふさぐべく距離を詰める。その時、栗栖は竹内に目で合図を送り、竹内もそれに応じる。シザースでボールをキープし、間合いを保ちながら自分に視線が集まったのと確認すると、栗栖に向かってヒールでバックパスを出した。

『しまった。左足で来る。詰めないと・・・』

 右サイドの竹内につられ、ゴール左側がぽっかり空いていたことにキーパーは慌て、重心を逆方向に移し、味方もそれに合わせてレフティー栗栖のシュートコースをふさぐべく重心を傾ける。

「行けた」

 そこで栗栖はとっておきの一発、右足でループシュートを打ちあげた。


『そ、そんなバカな・・・・』

 誰もが逆につられた中で、緩やかな弧を描いた栗栖のシュートは、やわらかくゴールマウスの中で弾んだ。


 剣崎の超ロングシュートと、栗栖の意表をついた右足でのループシュート。江南の選手たちの戦意をへし折る一撃で、早くも勝負はついた・・・のだが、後半。それを自ら手放すことになってしまう。



『・・・、なぜこの状況でふざけられるんだ?』

 他でもない、ヘルナンデス監督が、二人のゴールに対し憤りを感じていたのである。

栗栖の得点シーンを久々に書いた気がします。

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