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二桁番号にぐずる主人公

「う~ん・・・やっぱ違和感あるな」

 オーストラリア入りした日本代表。その宿舎の自室で、剣崎は自分のユニフォームを手に渋い表情だった。

「クラブと番号が変わらないのは俺だけだな。アツの『11』ってのも貴重じゃない?」

「どうだろな。俺は高校ん時『11』つけてたからな。新鮮っつーか、原点回帰の気持ちだな」

 剣崎、竹内、西谷は同じ部屋となった。そこで3人はユニフォームを見せあった。


 今回のアジアカップにおいて、剣崎は18番、竹内は16番、西谷は11番をつける。どれもFWっぽい番号ではあるが、剣崎にとってはプロ入り後、もっと言えばプロ組織入り後初めての二桁ナンバーであった。どうもそれがしっくりいかないようだ。


「・・・今からでも9番、つけさせてもらえねえかな」

「まだ言うのかこのバカは。A代表で実績もねえのにいきなりつけさせてもらえるわけねえだろ」

 あきらめの悪い剣崎を西谷がとがめる。対して剣崎は頬を膨らませる。

「だってよ~。俺だってJリーグ得点王、もっと言えば3年連続でリーグ一点を取った男だぜ?それぐらい評価してくれてもいいんじゃね?」

「しょうがないじゃん。J1J2の数字じゃ、まだまだ評価できないさ。尾崎さんから奪うには、この大会で得点王になるぐらいじゃないと」

「それで初めて『選考の余地が生まれる』って言う程度だけどな」

 竹内のフォローに、西谷は最後に毒を加える。剣崎は子供のようにぐずったのであった。


 アジアカップに挑む日本代表23人のうち、FW登録は剣崎らを含めて5人。イタリアセリエAで活躍するエース本条祐輔が4番、ドイツブンデスリーガで日本人のシーズンゴール記録更新中の尾崎慎吾が剣崎の欲しがる9番をつけている。泥臭く全身でゴールを決められる尾崎は剣崎とプレースタイルが似ているために、剣崎は尚更比較され、そして自分が低く見られていることが悔しかった。


「ちくしょう・・・このアジアカップは我慢するか。得点王になって・・・次呼ばれたときは・・・9番・・・つけさせて・・・もらう・・・ぜ・・・・・・」


「・・・死んだのか?」

「・・・寝たっぽいな」

「切り替え早いやつ」

 のぞきこんで確認した竹内の答えに、西谷はあきれるだけだった。



 翌日、日本代表はオーストラリア国内リーグの強豪メルボルンと練習試合を敢行。45分ハーフで行われ、前半は常連組が出場、剣崎たちはベンチで試合を見守った。


 改めて生で代表選手を見ると、Jリーグだけでは感じられない「もの」がある。練習試合ではあるが、本番が近いこともあり、球際で激しいボディコンタクトが繰り返され、そうならないためにパス一本や動き出しの一歩目が鋭い。先制点も新藤からの縦パスに反応した本条がスペースにうまく走りこんでシュート。さすがの動きを見せる。そのあとには左サイドバックの友永の攻め上がりから、尾崎と同じくドイツで活躍する竹清との連携で崩して、最後は尾崎が決めた。攻撃に関しては貫録すら漂っていた。

 一方で、守備陣は相手のパワーの前に屈していた。五輪組でただ一人スタメンに抜擢された内海は、センターバックでイングランドでプレーする吉江とコンビを組んだが、本来の安定感からは程遠い出来に終始していた。

「ぐぐっ!!」

 相手ブラジル人FWの激しい当たりに、踏ん張るのが精いっぱいの内海。楽には打たせなかったが、何度もシュートまで持っていかれてしまう。

(くそ・・・。調子は悪くない。でもACLの常連ってのはこんなに強いのか?)

内海ヒデ、それでいいぞ。あきらめずくらいついていけ」

「あ、はいっ!吉江さん」

 吉江から激励されて我に返るものの、手ごたえを感じられない内海。いつもと違う内海に竹内は首を傾げた。

「ヒデのやつらしくないな。いつもならあそこでもうひと押ししてシュートをあきらめさせるのにな」

「初のA代表ってことを差し引いても、あんなに頼りないヒデは初めてだな」

 渡も同じように同意する。

「ただ、ここでひと踏ん張りして、ちゃんと自分の色を出そうとする選手が世界で戦えるのよね~」

「叶宮さん」

「ヒデちゃんはいい経験してるわ。今の代表は守備陣、特にセンターバックは穴だらけだからね~。ここをものにできれば一皮むけるけどね。どんな工夫するのかしら」

 ニヤニヤと、まるで他人事のように叶宮はつぶやき、ちらりと横に視線を移す。

 そこには「ゴールを決めたい」というオーラを発散させ、出番を今か今かとうずうずしている剣崎と西谷の姿があった。


 前半は2-0で終了。本条、尾崎ら海外組はここでお役御免となった。代わって西谷や竹内、渡が出場した。その傍らで剣崎は呼ばれなかった。

「あ、あのさ監督さんよ。俺忘れてないっすか?」

 剣崎は思わず四郷監督に聞く。

「忘れてはいない。ただ、お前を入れる気はまだない」

「ま、まだないって、あと45分っすよ?ちゃんと出番くれるんすよね」

「それは私が決めることだ。いいから黙って座っていろ。邪魔だ」

 一瞬カチンときた剣崎だったが、ぐうの音を漏らしてベンチにどっかりと腰を下ろした。その様子を見て、四郷監督は叶宮に聞いた。

「やつは、普段からああなのか?」

「ええ。誰よりもゴールに飢えてますからね」

「しかし、冷静さを失ってはいないか?新人が監督に意見したんだぞ」

「ご安心を。彼は感情を還元できる男ですから。もう少し『お預け』を続けてみましょう」

 楽しむようにささやく叶宮に、四郷監督はため息を一つついた。

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