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堂々たる凱旋

 四郷監督のサッカーで一つの武器は、サイドアタッカーのクロスでゴールを仕留める攻撃。いわゆるサイド攻撃だが、その際、受け手であるFWのポジショニングには一つのこだわりがあった。


「もっと散らばるんすか?」

 昨年末の国内合宿での一コマ。攻撃練習中、剣崎は四郷監督の指示に疑問をぶつけた。同じように西谷も尋ねる。

「でもあんまり距離開けすぎると、セカンドボール拾えないですよね」

 四郷監督は、ゴールに飛び込む受けて同士の距離感をもっと開けるように指示した。だが、その開け方は相当広い。極端な話、ペナルティエリアを仕切るボックスの端と端にいろという。

「最初の受け手がそれをいちいち気にする必要はない。それを意識するあまり距離が近すぎてしまっては、クロスはピンポイントでいれなければならないし、相手のマークも集まってしまう。最前線の人間が尻拭いを意識する必要はない。セカンドボールを奪われれば、合流が遅れた後ろの列の人間が悪い」

「ずいぶん極端すね」と西谷はひきつらせた。

「たしかにサッカーは組織で戦うスポーツだが、攻撃、とくにフィニッシュにおいてモノを言うのはここの力量、意識だ。クロスの最初の受け手はそれをいかに仕留めるかということに集中すればいい」

「でもあんまり離れてれてたら、数的不利の時にDFは囲みやすくなりません?」というのは剣崎の更なる疑問。それにはこう答えた。

「数的不利の解消は、いかに味方同士が離れるかにあると私は考えている。マークが離れていると余った人間は一瞬判断に迷う。どちらかにフォローに行けばもう一方にスペースを与えることになるしな。エアポケットのような空間を生み出すことになるが、必然的に奪われたリスクも頭に入る。カウンター対策を意識できれば、セカンドボールを奪われた時の対処も早まると思うがな」

「たしかに、前掛かりになってるときってモロ喰らいやすいですよね。相手にもスペースがあることを意識できれば・・・そうなる可能性もあるかも」

 竹内は納得したように頷いた。

「特に一方が得点しているあとならば、なおさらマークを偏らせやすい。このポジショニングの意識がゴールにつながる時が、必ず来るだろう」







「あの時の練習。今なら生きるかも・・・!」

 竹内は大きくセンタリングを上げる。狙いはファーの剣崎だ。


『ファー来るぞ!剣崎そいつに打たすなっ!!』

 キーパーの指示に相手のマークは剣崎に集まる。


「よっしゃあ!!」

 かかってこいと言わんばかりの剣崎。竹内のクロスを、ゴールではなく西谷に向かって叩き落とした。


「ちっ!お前にアシストされるとはな」

 折り返しのボールをボレーでシュートした西谷。勝ち越しゴールがネットを揺らした。


 これが決勝点となり、日本は見事アジアカップを連覇。ロシアW杯にむけて幸先の良いスタートを切った。さらに和歌山的に言えば、剣崎が単独で得点王を受賞し全ての試合でゴールに絡んだ竹内がMVPを受賞し、地元和歌山でば県内全地域で号外が配られたのであった。



「連覇できたことに加えて、前線の選手に新しい風が吹いた。それも日本代表史上最もゴールを匂わせる風がね」

 優勝会見の席上で四郷監督は、結果以上に若手FWの台頭を喜んだ。

「彼らが本来の働き場所である五輪予選で今日と同じように戦えれば、本選へのキップはもちろん、叶宮の言うように金メダルも見えるだろう」

 その一方で海外組にも発破をかけた。

「主力として戦い抜いた者と最後までくすぶったままの者との差がハッキリしすぎている。あまりにも不振が続くままなら、国内組に重きをおいた編成を考えたい」

 そこで記者が質問する。

「つまり、現状では加賀美の代表落ちもあると」

 対する四郷監督の眼光は、この会見で最も鋭いものとなった。

「当たり前だ。少なくとも10番は剥奪するつもりだ。いつまでも過去を越えられないのなら、国の代表の中軸を任せるわけにはいかない。だが、輝くことは可能だ。ドイツで今一度精進してもらいたい」





「こりゃまたすげえな」

 凱旋帰和となった剣崎は、クラブハウス前の熱狂に舌を巻いた。大きな混乱を避けるという理由で、関西国際空港から直接ハイヤーで乗り付けた二人。それでもクラブハウスにつくと、300人近いサポーターの歓迎を受けた。

「正直得点王はたまたまだかんな。まるで英雄みたいに騒がれんのはくすぐったいぜ」

「それを言えば俺のMVPこそ偶然の産物だよ。本条さんや長谷川さんとか、仕事をした人は他にいくらでもいたのにさ」

「MVPとかは表彰する側の印象もあるからな。お前はそれだけ目立ったってことだよ」



 だが剣崎たちはこれから先、「内なる敵」との戦いに腐心することになり、それがかなり長い戦いになることを思い知ることになる。

 今、チームは瓦解の気配を見せていたのである。


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