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簡単に勝てない試合

「よくやったぞ、剣崎」

「さすが言うだけはあるな。大したもんだぜ」


 ハーフタイム中のロッカー。日本代表の面々は、剣崎を手荒く迎えた。それだけ価値のある先制点であり、日本代表に大きな安心感をもたらした。これに対して剣崎は「うっす、あざっす!」と初々しい反応。クラブの時とは違う腰の低さに竹内は笑いをこらえていた。

「剣崎でもこういう姿はあるんだな。あんなに照れるアイツ、初めて見たぜ」

「まあそれだけ、あいつ自身にとってもうれしいってことさ」

 驚く西谷に、竹内が答えた。そこに四郷監督が入ってくる。

「喜ぶのは結構だが、我々の戦いはあと45分残っていることを忘れてはいないか?」

 いつも以上に低く淡々と話す四郷監督。そこから醸し出されるオーラで、場の空気が再び引き締まる。

「終了間際に得点できたこと自体は私の想定以上だ。だが、これで我々の戦いは難しくなるだろう。ここでは後半の戦い方についての意思統率を行う」

 後半に向けて四郷監督は選手のポジションをいじる。まずは布陣を3−1−4−2に変更。潮谷が本来のセンターバックに入って大間が一列前に。竹内が右のサイドハーフまで下がって西谷が剣崎との2トップを組む。バイタルエリア近辺の守備を固めながら、馬力のある2トップに韓国の最終ラインへ圧力をかけさせる形に。中盤の人数を増やしたのは、韓国のコンパクトな布陣への対抗策で、中盤のパス回しを遮断しやすくすることでカウンターを防ぐ狙いだ。


「韓国は追い詰められても決して気持ちは折れない。むしろこれでより圧力をかけてくるだろう。前半以上に苦しくなるがまずは耐えろ。攻撃に重きが置かれれば、必ずスキが生まれる。それが見つかるまでは一丸で敵を跳ね返せ」




 後半、韓国は四郷監督の予想通り、良くも悪くも変わらなかった。

 良くというのは、変わらずアグレッシブな動きを見せたこと。悪くというのは、自発性がなかったこと、カウンター以外の方法で仕掛けられなかったことだ。

「飛び出しビビるな!ライン下げない!」


 渡はそうゲキを飛ばして、ディフェンスラインを高く保つことに腐心する。だが、裏に抜けるスピードを持つカンの残像が頭にある成果、次第にほころびが見え隠れする。そしてそれがついに破れた。


「あっ!」


 インターセプトした味方からの縦パスに反応したカンが動き出す。マークしていた潮谷は、オフサイドをアピールして一瞬動きが鈍る。瞬間、カンはギアを上げた。


「お、おい、なんで!?」


 カンに振り切られた上に、オンサイドの判定に冷静さを失った潮谷を尻目に、カンは一対一の状況に。しかし、今までと違って精神的にはカンが有利だ。詰め寄ってきた渡の腕の下を抜くシュートでゴールネットを揺らした。



「馬鹿者が・・・叶宮。重森と竹清を準備させろ」

「どこで使うので?」

「重森は潮谷と代える。竹清は本条だ」

「潮谷は懲罰で?」

「当たり前だ。セルフジャッジで動きを止めるような輩は私のピッチに不要だ」



「さあここで四郷監督選手を代えますねえ。重森と竹清ですか。同点にされた状況にしては、割と守備的なイメージがありますが」

「いったん守備を落ち着かせるという意図もあるでしょうし、本条もさすがに疲れてますからねえ。品崎も実力のある選手ですし、竹清は攻守に機転が利きますからね」

 この時の放送席。アナウンサーの疑問に中山はそう解説した。

「一方で潮谷の交代はどういう事でしょうか」

「う~ん・・・多分守備に重きを置いたという事でしょうかね。慣れないサイドバックもやりましたし、今の失点シーンもマークが甘かったですからね」

「さあしかし、同点に追いつかれたわけですが、中山さん。まだ可能性はありますよね」

「もちろん!剣崎、竹内、西谷。このFW三枚はまだまだ動けますからね。延長を意識するのは早いですよ。この90分でケリをつけるんだという事を、選手たちに見せてほしいですね!」

 そう力強く語った中山だったが、四郷監督の采配には疑問符が付かざるを得なかった。

(のわりには攻撃のメッセージが足りないなあ・・・。これで意識が割れなきゃいいが)



 だが、これで試合はかなりアグレッシブなものになる。かなりの過密日程で行われているために、両チームとも疲労の色が濃い。延長戦やPKはまんぴらゴメンと言わんばかりのプレーを見せる。球際の攻防が激しくなり、主審が笛を吹き、当事者を注意するという光景が中盤で目立ち始めた。

(互角と言うより・・・混乱に近いな。今仕掛けれればおもしろいか)

 最終ラインの一角から戦況を見つめていた内海はそう頭を巡らせる。

(大間さんも竹内もまだ動ける。クロスもうまい。あとは相性か)


 そう思考している最中に、内海の足下にルーズボールが転がってきた。同時に見上げると、竹内が目に入った。その竹内は前を指さしていた。

「届く距離だ。頼むぜっ!」

 内海は意を決して竹内にロングボールを送った。正確なロングパスが竹内の足下に収まった。

「ヒデナイスっ!一気に行くぜ!」

 竹内もギアを上げて追走するサイドバックを振り切った。フリーとなってゴール前を見やる。


 状況は2対3とやや数的不利。ニアに西谷、ファーに剣崎がいる。

(いいポジショニングだ二人とも。あれならやりやすい!)



 ここで時系列を少し巻き戻す。

まどろっこしいことして申し訳ない。もうちょい伸ばします

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