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仕事を忠実にこなして

 閉塞感が漂う試合は、剣崎の強烈な一撃で動いた。先制点をもたらしただけでなく、それを顔面にモロに受けたUAEのGKが首のむち打ちを訴えて退場。交代枠を一つ潰して相手の選択肢を狭めたのであった。

「気を付けろよっ!スコアが動いた今が一番集中どころだぞっ!」

 歓喜の輪が解けて全員がピッチに散ったところで、長谷川が味方に喝を入れた。彼の言うように、得点後は意外なほど失点しやすいものだ。


『クソがっ!こんな奴に手こずっちまうとはな』

 再開後、何とか反撃に出ようとUAE側、もっというとオマンがボランチとの距離を近づけ、自分からもアクションを起こしはじめる。なんとかマークについている内海を振り切りたい腹積もりであった。だが、かえって自由を失っていった。アクションを起こしたオマンは、内海の言葉を借りればますます小宮に近づいたことになるからだ。

(もう一回集中だ。ここでやられちゃ意味がない!)

 プレースタイルを変えたことが内海にも気持ちの切り替えをもたらし、UAEはますます手詰まりとなった。


 時間も40分近くとなると、UAEベンチも最後の手段に出る。

 潰されたままのオマンをあきらめ、前線に長身FW、最終ラインにロングフィードに長けたDFを投入。ロングボールを前線にひたすら放り込むパワープレーに転じた。対して日本も永本を下げて重森を投入。大間を最終ラインに下げた5バック気味の守備陣形で特にバイタルエリアを固めた。


「空中戦は俺の庭だっ!!!」


 ここで君臨したのが渡だった。日本人離れした長身長躯は、文字通りゴール前にそびえ立ち、クロスやハイボールをことごとくはじき出し、掴み取った。ならばとパスで崩そうとしたが、人が密集しているうえにそのキーマンであるオマンがいない中でパスがちぐはぐとなり、UAEは完全に攻め手を封じられた。それでも後半アディショナルタイム。目安の3分が目前となった中で得たコーナーキック。GKも前線に上がり、22人が一つのボールに群がる。そのうち一番UAEゴールに近い(といっても日本の陣内で)竹内がボールを拾うと、本条とのワンツーで抜け出した。わずかに先を走るGKを助けようと、竹内を追走するDFがカード覚悟の一手を使う。

『やろうっ!!』

「ぐえっ!!」

 ユニフォームを引っ張られ倒れそうになる竹内。だが、余裕があった。

「お前はほんと頼りになるよ」

 懸命に伸ばした左足でボールを左に流すと、そこには並走していた剣崎が。剣崎はペナルティエリアの外ながら、迷わず右足を振りぬく。強烈な一撃がゴールに突き刺さって日本は準々決勝突破を果たしたのであった。


「自分に求められていたのは点を取るということだったので、それを果たせたのがまず良かったすね!」

 試合後のインタビューで、剣崎は興奮を抑えられないかのような口調で語った。

内海ヒデも相手の10番抑えて、竹内トシも自分の仕事をきっちりしたんで、あいつらよりもできることが少ない俺が自分の仕事せんかったらいかんと思ってたんで、今までで一番ゴールに気張りましたね、ハイ」

 準決勝では開催国オーストラリア、決勝では韓国と当たる可能性がある日本代表。「連覇に向けて厳しい試合が続きますが、抱負をお願いします」と振られると、まっすぐアナウンサーを見て言い切った。


「何もできない分、とにかくゴール取ります。得点王取るつもりで頑張ります」



 一方で四郷監督は表情を崩すことなく、淡々と試合を振り返っていた。

「今日の試合については、プロとしてできる仕事を各々がこなした、それだけのことです。それが若い選手たちなので皆さんは『レギュラーたちへの刺激となった』『リオ五輪代表は頼もしい』と掻き立てるでしょうね」

 苦笑するマスコミもいる中で、四郷監督は改めて言った。

「忘れないでもらいたいのは、私は連覇をするつもりでいることです。今日の結果には今のうちだけかみしめ、明日からはまた豪州戦、そして決勝戦に集中してもらいたい。ロシアでの本番で勝つ気があるなら、最後まで貪欲になってもらいたい」



 それから三日後、オーストラリアとの準決勝。

 この日は疲れの見える本条、新藤らに代えて加賀美、竹清、西谷を起用。オーストラリアのパワーに苦しめられたが、後半開始から投入された剣崎がコーナーキックから先制点を叩き込むと、不調の加賀美が西谷の得点をアシスト。反撃を1点にしのいで勝ち上がった。別カードでは韓国が順当に勝ち上がり、日本は「永遠のライバル」と連覇をかけた最後の一戦に臨むことになった。

 だが、日本の疲労はピークに達していた。


「そうか・・・。新藤は難しいか」

「やっぱり、この気候ですからね。尾崎、永本も足がダメになってますからね。相当つぎはぎだらけになりますわよ」

 韓国戦前のミーティング。叶宮コーチの報告に、さすがの四郷監督も頭を抱えた。

「今田、新藤、永本、そして尾崎・・・。『マスコミ的』には抜けると困る連中ばかりだな」

「どうしますか監督。韓国も本調子でないとはいえ、メンバーの選考は十分熟慮しませんと・・・」

 別のコーチが不安げな表情を見せる。だが、それでも四郷監督には余裕があった。

「だが、ポジティブな要素は我々にある。もうひと踏ん張り、するとしよう」

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