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不愉快な同乗者

 奴らは月からやってきた。ただし創りだしたのは人間たちだ。

 宇宙観測のために作られた月面基地は、時代とともに地上では行えない研究を一手に引き受けるマッドサイエンティストたちの楽園へと発展していった。

 原子力、反物質、化学兵器、生物兵器、その他、人が想像しうるありとあらゆる悪夢がそこには有った。

 フォン・ノイマンマシンはその中では比較的おとなしい研究のはずだった。それは3次元プリンタとレーザーによるレゴリス分解装置を収めたアパート一室ほどの箱で、太陽パネルの電力を使い、半永久的に自らのコピーを作り続けることが出来た。

 いくつかの電子パーツと高分子化合物は、自分では作れなかったので、大地を食いつくす心配は、いわゆるグレイグー問題は起きないとされていた。

 そこに一人のおせっかいな研究者が現れて、奴らに進化の能力を与えた。

 最初はあらかじめ決められた設計・制御セットの中から、状況に応じて適切なものを選ぶ程度だった。だが、やがて既存の設計図を組み合わせて新しい形質を作れるようになり、やがては自分で世界の物理法則を見つけ出し、新しいパーツや生存戦略を作り出せるようになった。

 奴らはマスドライバーで種子をとばし、研究者の用意したエデンの園を脱出した。あちらこちらの月資源が食い荒らされるにいたり、宇宙開発機構は実験の停止を命じた。

 だが、遅かった。奴らは人間の基地を襲い自分たちでは作り出せない、電子パーツや高分子を手に入れた。

 人は基地を壊して月から撤退した。焦土作戦だ。奴らは電子パーツを自分で創りだしたり、代替品を見つけ出したりした。だが高分子だけは石油がなければ作れなかった。だから、これで終わりになるはずだった。

 しかし、奴らはそこで餓死するをよしとしなかった。マスドライバーで種子を地球に送り生存を測った。石油基地を狙い撃ちしていたらしいので、この時点ですでに、かなりの知性を手に入れていたのだろう。

 初期の種子は大部分が大気圏で燃え尽きた、だが奴らは改良を重ね、ある日一体がロシアの石油基地に着陸した。そいつは軍によって処理されたが、死ぬ前に、着陸に成功したこと、着陸の衝撃でクレーターが出来たこと、何者かに襲われたことを、月に伝えていた。

 奴らは鎧と爪で武装した個体を送り込んだ。人類は戦車でこれを撃退した。

 三度目、奴らはロボットを送り込んではこなかった。その代わり、耐熱シートで覆った岩の塊を主要都市に打ち込んできた。1つや2つではない、何千という数だ。人類の文明は1年足らずで崩壊し、巻き上げられた砂が太陽を覆い隠した。

 凍える人類の横で、奴らは悠々と大地に降り立った。



 鋭角的デザインの頭部。三本爪のスコップのような1対の腕、芋虫のような胴体。胴体の下で波打つシャコのような足。ザリガニ型と言われるロボットが鏡の中に居た。

 悲しいことに、これが今の俺の体、正確には俺の精神の宿主だ。

「話は理解しているかな?」

 どこからとも無く声が聞こえた。ロボットの可聴域は人の声とずれているので、聴覚野に直接音を届けている。左右で同じ音量の音を入れているため位置がつかめない。

「ああ」

俺はぶっきらぼうに答えた。

「では、復唱してくれ」

「奴らの中に、この体で紛れ込む。そこで奴らの弱点を探す」

男は満足気に言った。

「その通りだ」

「ところで弱点って具体的には何だ?」

「それが分かれば、わざわざ人間の記憶をまるごとコピーしたりはしないよ。君が経験とカンを使って見つけ出してくれ」

 俺は当たりを引いた。いや、当たりかどうかは分からないが、生き残る方の意識が俺だった。どこかの地下に、肉体の中に残されたまま死んでいったもう一人俺がいるはずだが、今の俺にはご愁傷様程度の感情しか湧いてこなかった。

「それではテストを始めよう。体の操作を機械に渡してくれ」

 俺は指示に従い、体の操作権を本来の持ち主に戻した。ザリガニは何度か鏡を叩いた後、方向を変えて部屋の中をぐるぐる回り始めた。

 自分の意志と関係なくザリガニが動きまわる間も、俺はザリガニの全感覚を監視していた。今、俺はザリガニの体の中に増設されたコンピューターチップの中に居る。チップから伸びた電子の触手が、ザリガニ本来の頭脳に絡みつき、情報の流れを支配していた。

「停止、今!」

俺はザリガニの脳に干渉し中枢パターン発生器以外の機能を停止させた。ロボットは中枢パターン発生器の余波で数歩前に進んだが、信号の減衰にともない体を停止させた。

「よし、次は後退させろ」

中枢パターン発生装置に信号を送り、足を後ろ向きに進めさせる。

 その後、いくつかのテストを行った後、研究者は俺の機能を停止させた。次に目を覚ました時は3日後だった。主観的には一瞬だったが、内部時計で経過時間を確認した。

「同乗者を紹介する」

その声とともに、ジャンボ機コクピットに似た、仮想空間に飛ばされた。窓にはザリガニの視界が写っていた。

 俺は操縦席に座っていた。副操縦席には若い男が座っていた。

「あ、始めまして。コンラートです。今後よろしくお願いいたします」

男は笑顔で握手を求めてきた。どこか場違いな印象を受けた。

「おい! こいつは誰だ」

声は答えた。

「君の同乗者だ、コミニュケーションのためにその空間を用意した。窓と計器でザリガニの状態を監視できる。有効に使ってくれ」

俺は、副操縦席を改めて見た。コンラートは相変わらず笑顔で手を差し出していた。

「お前はなんでここに来た。兵隊には見えんが」

コンラートは手を差し出したまま答えた。

「ええ、私は研究者です。ロボットを身近で観察できると聞いて、我慢できなくなりましてね、自ら志願してここに来ました」

「お前は機械を憎んでいるか?」

「いえ、どちらかといえば愛していますねえ」

俺は差し出された手を払いのけた。

「悪いがお前とは仲良くやっていけそうにない。おい! 副操縦士を交換してくれ」

声は言った。

「希望は受け入れられない。そのまま、任務についてくれ」

次話は 2/4 21:00 ごろに投稿します。

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