傲 慢 第八話
「今日の私、きれいに描いてね・・・」
俺の指に、自分の指先を絡め合いながら甘える。
「あぁ。・・・帰ったらすぐ描くよ、忘れないうちにな。
間違いなく、売れる絵が描けるよ」
「・・・いつか、私の絵を世間に出すのが嫌だと言わせたいな・・・」
「・・・え?」
呟くように言った意味が、よく分からずに俺は聞き返した。
「潤之助が、私を、誰にも見せたくないって思う時が来るように。
・・・心の中を、私でいっぱいにしてみせる、って言ったのよ」
清花はそう言うと、可愛く笑った。
「本気で愛した人のすべては、自分だけのものにしたいでしょう。
あなたが、私を想って、嫉妬したり独占したりする日がくるように。
毎日祈ってるのよ」
「・・・冗談だろ?」
俺のわりと真面目な受け答えに、清花は声をあげて笑った。
「潤之助は、本当に人を愛したことがないのね」
俺は返す言葉が思いつかず、煙管に火をつけた。
ゆらゆら揺れる煙の向こうで、清花がくすくす笑っている。
「怒ったの?潤之助」
「怒ってねえよ。
てか、人を愛して嫉妬したり、独占欲で支配したりとか。
めんどくせえ。俺にはできねえな」
「愛してるよ、って言ったじゃない。
嘘なの?」
「嘘じゃねえよ。
でも、そんなに大した意味もない。
お互い、身体の相性が合って楽しんで、満足した。
俺は、お前の絵を描いて儲けて、お前も花魁の名が売れる。
それでいいじゃねえか。
俺は、お前を抱きたいと思って抱いてる。
それだけじゃ、だめなのか?」