泡沫
昔々のお話です
銀色に光る鱗をもった 空を泳ぐ獣がおりました
恐ろしい姿の獣は いつも一人でした
ある日獣は一人の少女に会いました
少女は獣の銀色の鱗を褒めました
獣は少女に恋をしました
いつだってそばにいるから
そらをかけて きみにあいに
*
昔々のお話です
獣は毎晩少女を想い 悩んだ末に決めました
銀の鱗氷霧の牙 その全てを捨てること
母なる月に祈りを捧げます
空を統べる力を捨てるため
ヒトへと姿を変えるため
いつだってそばにいるから
そらをかけて きみにあいに
*
昔々のお話です
ヒトへと転じた獣が村へ 少女に会いに行きました
しかしそこに少女はおらず 風の爪がありました
獰猛な風が村を呑み少女を攫う
小さな少女は空に舞う
救うすべがなかったと
いつだってそばにいるから
そらをかけて きみにあいに
*
昔々のお話です
飛べない獣は空を見ます ヒトはなんて無力でしょう
哀しい獣は気づきます ヒトは涙を流すこと
獣であったなら救えたものを
どこまでも飛び少女を見つけ
獰猛な風を消し去ることも
いつだってそばにいるから
そらをかけて きみにあいに
*
昔々のお話です
ヒトから獣に戻る為 獣は月に祈ります
全てをかけてヒトになり 全てを戻すことは出来ぬこと
己の命を引き換えに
獣は一日限りの獣へと変わる
恐ろしい姿の獣は 銀の鱗を閃かせる
いつだってそばにいるから
そらをかけて きみにあいに
そらをかけて
◆
ねぇ フォー
ヒトは本当に無力かしら?
ねぇ フォー
私 思い出したの
あの歌の続きを
少女とやさしい獣の結末を
もうすこしです