愚かな子供
村の大人がリノに気付き驚きの声をあげる
しかし儀式は中断されることはなく、数人がかりでしっかりと押さえつけられてしまう
もがく、暴れる
どこに居たのか父親が慌てて寄ってきた
ひどく険しい表情でいつものリノであったなら完全に萎縮してしまっただろう
「愚かな子だ」
低く吐きすてるように呟く
そんな辛辣な言葉さえも今のリノには届かない
その間も旋律は途切れず
しかし間違いなくフォーは私に気付いている
何故なら フォーの眼差しを感じるから
リノは声も出せないくらい息も出来ないくらい泣いていたけれど
瞳はしっかりと開いていたから
悲しい程綺麗なその旋律が鋭さを帯びてとどく
そして 静かに終わりを告げる
歌声が途切れ 静寂に包まれた祭壇にフォーが足をかける
あたりまえのように
なんの躊躇もなく
涙すら浮かべず
そしてふわりと、すべてを超越したように笑った
リノは息を飲む
「さよなら リノ」
祭壇からなにもない場所に進む
山の裂目 神へと続く道 死への扉
落ちるというよりそれは吸い込まれるようだった
つま先から音もたてずに、恐怖の叫びすらあげずに
「フォオオオオオ????!!!!!」
わからないわからないわからないわからないわからない
わかりたくなんてないわかりたくなんて
フォーは居たのに
つい、つい先刻まで姿があったのに
神への生贄だなんて
誰の為に?
アナタが幸せにならずして誰を幸せにするというの?
私は幸福の意味すら忘れてしまう
このままでは命の意味すら忘れてしまう
儀式のあっという間の終わりに村人は呆然としていた
リノはするりと父親の手を抜ける
白装束の人間も村人達も神憑ったように静かだ
リノは祭壇に真直ぐ向う
フォーが先刻までいた場所、温もりすらある気がする
ゆっくり足をかける 彼の行動をなぞるように
父親が我に返り何やら叫ぶ
でも もう何もかもが決まっていた
リノは手を伸ばす、体ごとフォーに届くように
そして音もたてず闇の中へ…