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意味


少女を起こさないようにそっと外に出ると闇が恐ろしく似合う女が立っていた。


「自分を連れ戻しに来たの?」



「そうだと言ったら?」


ウフフと赤い唇をあげて笑う。

少年の沈黙を憐れんでいるかのように。


「あたしは味方だって思っていたの?坊や」


フォーは考える、アジェルという人間の事を。

サーカスでは数少ない自分を疎まなかった人間。

敵意は感じなかった、けれどそれは親しみも。


「けれど、他の人間を連れては来なかった」


何故?とフォーはまっすぐ女を見据える。


「あたりまえでしょう?あの連中は無粋だもの。小さな恋人達の逢瀬なんて爪の先ほども理解できないわ。それにあたしは坊やに伝えなくちゃいけないの」


伝える?そうフォーが尋ねるよりも早く女は言葉を続ける。



「『終わりの始まり』」



そうしてまた艶やかに笑う。


赤い唇  

   暗い闇

        まぁるい月


鈴の音


 





世界がどうなろうと かまわなかった

自分が生贄にならないことで世界が滅んだってどうでもよかった



自分が死んでしまえば本当に世界がまだ在るのかなんてわからないし

結局無くなってしまったって同じだ



けれど


けれどけれど



今は生きていて欲しい人がいるから

お日様の下で微笑んでいてほしい人がいるから

世界が無くなってしまったら彼女は死んでしまうから


そんなのはいやだ


たとえこの身を八つ裂きにされたとしても

彼女が生きるこの世界が助かるのなら


世界が滅びないように


それがどんなにあやふやで意味がない行為だったとしても

少しでもその可能性を回避できるのなら


贄となろう

この身を捧げよう


彼女が幸せに生きていける世界がありさえすれば


どうでもよかった





「『終わり』は何十年かに一度人間を飲み込むのもちろんそれは自殺者とは違うわ『終わり』が必要としている人間を呼び寄せてその身を取り込む。大抵『終わり』が欲している人間は自分が『終わり』に呼ばれていることがわかるみたい。まぁ それが傍から見れば自殺となんら変わりない行為だとしても『終わり』にとってはどうでもいいことよね。リストムにエナの話を聞いたかしら?美しく聡明なあの歌姫。そう『終わり』は歌が好きなのかもしれないわ 歌 至上の歌声を持つ人間が」



アジェルはそう一息に話した後いつもの艶やかな笑みを消し、それこそ気配まで消しているかのごとく押し黙った。



「あの人を知っているの?」


全てを理解することは出来ない話だったがとにかく、アジェルはフォーが一度も話したことのない育ての親の名を口にした。

懐かしいあの人の名。



「ええ、知っているわ。でも知っているのはエナね。大好きだったの。 エナは本当に彼を愛していたわ。」


遠い昔を夢見るように瞳を細めアジェルは呟く。


「でも彼女は世界を選んだ。彼が幸せに生きてくれる事を願った。自分の命を『終わり』に差し出したの」








「何故そんなことを…アジェルが知っているの?」


震える拳を必死でなだめ、渇く唇で喘ぎながら尋ねる。


「わからないわ。でも知ってるの。信じられない?いいの別に信じてもらわなくても。だって私にはこれが真実だし証明なんて必要ないわ。そうね、でも大概男は「正しさ」とか「証明」とか「確実」が好きよね。フフフフ すごく愚かよ?だってそんなことになんの意味があるっていうの?大切なことはそういうことじゃないの」



 大切なことはそういうことじゃないの


もう一度そう繰り返しまた押し黙る。




風がザワザワと音をたてる。

沈黙を際立てるように鈴が鳴る。


チリン チリン チリン


「自分はどうして生まれてきたのだろう」


少年が答えを求めるふうでもなく囁く


女は感情を込めずに、やはり返答か判断しかねる言葉を小さく呟く


「生きる為よ」









それはとても簡単なこと

それはとても単純なこと



叫びだしたくなる

感情のままにのたうってしまってもいい

溺れてしまうほど泣いて崩れてしまいたい



「今、このちっぽな世界はあなたの物よ。  あなたが全てを決める。自分が贄にならずとも世界は在ると思うならこのまま逃げればいいし『終わり』でない場所で命を絶ち世界を道連れにするのもいい。どうなるかなんて誰にもわからない きっと神様にだってわからない」






少女が身体をまるめて小さな寝息をたてている

白い肌が月光に晒され淡く輝いているようだ

幼さを残す輪郭、それを縁取る金色の長い髪 触れることすら躊躇わせる少女という瞬間を生きている者


この辺はとばすべきだったかと思う。

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