14番目の月
2人はあてもなく歩いてはいましたが、少なくとも大人達に見つからない道を選んでいました。
リノは村の周辺を知ってはいますが外遊びが好きな子供ではありませんでしたので、大人達が知らない道を知っているわけではありませんでした。
「日が暮れてきたら動かない方がいいと思うわ」
リノは以前近くの森で獣に人が襲われたと聞いた事を懸念し伝えました。
「そうだね、火を焚いて歩けば見つかってしまう」
大人達の捜索網は村周辺の森を拠点としているようです。
子供が考えるであろう「村からはなれた場所」。
その捜索のかがり火を見下ろしフォーとリノは静かに座っていました。
そこは『終わり』へと続く一本道の入り口。
「ここには探しに来ないのね」
「近づくはずがないと思っているんだろうね」
仰ぎ見た空には14番目の月。
紺碧の海にほかりと浮かんでいました。
◆
一日中歩いたのに二人はさほど空腹を覚えてはいなかった。
小川で水分は補えたしこの村は比較的穏やかな気候に恵まれているので深刻な問題はなかった。
二人は村のやんちゃな子供達がよく遊んでいる村からかなり離れた小屋に身を潜めることにした。
それは「終わり」に続く一本道を少し外れた場所にあり以前は人が住んでいたらしいのだが、今は「終わり」を見に来る観光客の急な雨宿り場になっているらしい。
長く使われていなかったのかところどころ天井に穴が開いているし隙間風もはいるが、それでも屋根があり床がある場所は二人を安心させた。
丸めて隅にほおられていた布切れを床にひき座り込むとリノは気が抜けたのか壁に背をあずけ目を閉じた。
フォーは小さく切り取られ窓になっている場所から白い月を見つめていた。
「フォー」
目を閉じていたリノがふいに言葉を発したのでフォーは驚き振り向きました。
「いつか小さな赤ちゃんを抱っこしてみたいって言っていたよね?」
「うん?」
柔らかい草の上で小さなシエラをあやした記憶。
子供特有の甘く熱っぽい小さな手。
「いつか私がフォーの赤ちゃんを産んであげる」
「え」
「そうすれば沢山沢山赤ちゃん抱っこできるでしょ?」
素晴らしい事を思いついたというようにリノはとても誇らしげにに微笑ました。
小さな小さな赤ちゃん
もしも自分が大人になれたら
もしもリノが自分と生きてくれたら
もしもリノが自分の子供を産んでくれて
家族ができて 一緒に歳をとれたら
どんなに どんなに幸福なんだろう
それはあまりに途方もなくてフォーには想像が出来ない
そんな考えただけでも涙が出そうになるくらいの幸せを想ってしまうなんて
望みをもつことなんてなかった
強い願望で胸が絞めつけられることなんてなかった
「そうなったらいい」
そんなこと そんなこと考えられるはずがなかった
幸福を願った後の絶望は途方も無い
その望みは絶対に叶わないと理解している
それは本当に、本当に本当に…
辛い
けれど今はただ微笑む
幸福を見せてくれた目の前の少女に
「うん」
小さくありがとうと呟きながら
◆
気を張っていたのと歩き疲れたからか、リノはそのあとすぐに静かな寝息をたてはじめました。
小さな窓からもれる月光は思いのほか明るく金色の髪を照らしていました。
フォーはそっと少女のそばにしゃがみ 躊躇いながら手をのばしました。
やわらかい髪
髪より幾分濃い色をした睫毛は影をつくるほど長い
折れそうに細く、透けるように白い肌
少女が起きている時はこんなにまじまじとは見れなかったのですが
今は、忘れないように
どうしても記憶に焼き付けたくて
脆くて強靭で愛らしい天使のような少女
知らず、微笑みを浮かべている。
ふいに風が鳴った。
敏感に身を起こし耳を澄ます。
草を踏む人間の足音を聞き身を硬くして息を殺す。
小屋の前でその足音は止まった。
…見つかったか
けれどもその足音は一人。
仲間を呼ぶ気配もない。
チリン チリン
ハッとして自身を見遣る
両手足の鈴が鳴る
それをこれほどまで恨めしく思ったことは無い
「そこにいるんでしょう?」
楽しげな女の声が静かな夜を裂く
勢いで書いてるので文章が「ですます調」から変ってしまった…。
でも勢いが消えそうだったので修正もせずにアップ。