第十章 閉ざされた道 (6)
「決してあり得ない話ではありません。力さえあれば容易いこととは思いませんか? 下層の者が自らの意志で企てるにはあまりにも大それた事、代償が大き過ぎる」
「だとすれば、ある程度上層で情報を操作することの出来る者が関与していると? そして特定の者以外の耳には入らないように上手く封じ込めているのだろうな、陛下と丞相にも知られないようにするとはな」
シュセイの大胆な発言に呼応して、イキョウも次々と仮説を口にする。平然とした表情で至って穏やかに淡々と話す二人の冷静さが、リキが懸命に抑えようとする気持ちをさらに呼び起こす。
「なぜ、北都の使者を揉み消す必要があるのですか? カンエイと燕が繋がっていないと分かれば、すぐにでも討てるはずでしょう?」
リキは堪らず、二人に尋ねた。不安を表情に出さないように気を付けても、僅かに声が震えている。
「そう、相手が燕でなければ何も隠す必要などないでしょう? 一刻も早く北都に軍を派遣すべきではないの? カンエイ一人ならすぐに討つことは可能なはず、それを何故?」
リキに触発されて、サイシも力強い口調で訴える。
イキョウとシュセイは顔を見合わせた。しかし困っている様子もなく、イキョウが頷くとシュセイがゆっくりと口を開いた。
「おそらく、カンエイの造反に関わった人物が東都の上層部にいると思われます」
リキとサイシは息を呑んだ。一気に溢れ出した恐怖が胸を締め付け、体が震え出す。
「その人物が統率者を失くした東都軍を掌握しているのでしょう。リョショウ殿が屋敷に入ることが出来なかったのも、そのためかと……」
それを聞いたイキョウが、手を翳してシュセイの言葉を制止する。目を見開いて強張った表情に、さきほどまでの余裕は感じられない。
「待て、ならば彼を一人にしておくのは心配だ」
リキは思わず声を漏らした。イキョウの言う彼というのは、リョショウのことに違いない。
「リキ殿、リョショウ殿は間違いなく北都の宿舎にいるのですね」
シュセイがゆっくりとした口調で問い掛けるのは、リキの不安を煽らないようにと気遣ってのことだろう。
「はい、宿舎を抜け出してきたのは私一人ですから。彼は……私が衣装を拝借した侍女と共に部屋で待っているはずです」
リキは大きく息を吸い込んで、はっきりと答えた。