第十章 閉ざされた道 (4)
西都の宿舎の一番奥の部屋、縁側を望む広いテーブルを囲んだ男女らがいた。さきほど宿舎の玄関で呼ばれた侍女と彼女を呼んだ男女、他に二人の男性。
「まさかこんな所で会えるなんて……驚いたわ、無事で本当によかった」
潤ませた目元を何度も拭い、女性は侍女を見つめて顔を綻ばせた。女性に対して親しみを込めた笑顔で返すのは、侍女に扮したリキ。
「姉さまもお元気そうで何よりです」
「リキ、お父様やお母様は? 皆は無事なの?」
眉を顰めた彼女はリキの姉サイシ。西都の高官の元へ嫁いだ彼女は、夫とともに蔡王の聖誕祭に参列していたのだ。
「はい、一応無事ですが……」
リキは目を伏せた。その表情から北都の事情が思わしくないことを察したサイシは、顔を曇らせる。すると隣に座るサイシの夫は彼女の横顔を窺い、手を差し伸べた。
リキの向かいに座り、顔を見合わせた二人の男性は西都都督イキョウと宰相シュセイだ。
「北都の情勢は逃れてきた兵士らから聞いて知っているつもりだが、東都で聞くのとは食い違いがあるようだ。真実を教えてくれないか?」
イキョウの穏やかな問い掛けに答え、リキはすべてを語り始めた。北伐の事、カンエイの造反、リョショウを匿ったこと、共に東都へやってきたことを。
サイシは話の途中で顔を覆い、肩を震わせる。その姿に胸を締め付けられながらも、リキは北都でのすべてを語った。
「やはり……話が違うようだな」
リキの話を一通り聞き終えたイキョウは溜め息を吐き、腕を組んだ。隣に座るシュセイは口を固く結んで、イキョウの顔を覗き込む。
二人は互いの意志を確かめ合うように、顔を見合わせて頷いた。その様子は何かを確信したかのようにも見える。
「どういうことでしょう? 何の話が違うというのですか?」
二人の仕種を不思議そうに見つめていたリキは早口で尋ねた。僅かに語気が強いのは、何かを知っているのに勿体ぶっているように見える二人に苛立ちを感じているからだ。
「リキ殿、話してくれてありがとう。決して疑っていた訳ではないが、西都に来た兵士らの情報とすべて一致している。だが、残念なことに疑問が残ってしまったようだ」
リキの苛立ちを察したのか、イキョウは柔かな口調で返した。まっすぐにリキを見つめて。